1章2話 再会の啓示
静寂。
先生に待つように言われた廊下は静かだった。たくさんの生徒が校内にいるはずなのに、締め切られた教室からは声は聞こえない。
胸の鼓動だけが高鳴り続け、静寂が焦燥を産む。
自分が焦っていることに気がつくと、さらに緊張していく。
転校なんて、初めての経験だ。
家族以外の人前に立つのなんて本当に久しぶりだ。
アイドル時代はそんなこと日常だったのにね。
ここから本当に再スタートなのだと、自覚する。
「───────入ってくれ。」
少し大きめに先生の声が聞こえて胸が高なる。
「……はい。」
私は緊張が悟られないように、冷静に返事をしてみせる。
緊張なんて慣れっ子だ。変に押さえ込もうとすると余計に緊張する。私は緊張しているんだと自覚し落ち着いて丁寧に動く。
引き戸をゆっくり開くと、教室がざわめく。
私の姿を認識し生徒が呟き始める。
「めっちゃ可愛い子じゃん」
「でもあの子、どっかで見たことない?」
そんな呟きが皮切りとなり、波紋は広がっていく。
「あれ、たしかにどっかで……」
「あれだよ、なんだっけ」
「ファイブサーチライト?だっけ。なんかアイドルの」
「ああそれだ!」
「ああ、あれ。炎上してたグループ!」
「ああ、そうじゃん!ストーカーに刺されたヤツ!」
「天空鈴華だ!」
どうやら全員の認識が一致したらしい。
騒ぐ男子や様子を伺う女子。気付かないふりをする人、興味の無さそうな人。
本当にたくさんの視線が注がれる。
この視線を私はこれからも浴び続けなればならない。いずれ忘れてくれるのかもしれない。でもコレを何度も繰り返していかなければならない。
悔しかった。こんなはずじゃなかったから。
みんなのために頑張ってきたのに、注がれる視線は望んだものじゃない。
もう背を向けたのに、どこまでも私を追ってくる。
入室して早々、俯いてしまう私。
「はいはい。静かになー。今日から同じクラスになる天空鈴華さんだ。よろしくなー。知っての通り、元芸能人だ。だが、今はお前らと同じくこの学校の生徒だ。節度を持って関わるように。
言われなくてもわかってると思うが、SNSでの書き込みは学校側でも監視してるし、盗撮や悪質な書き込みはそもそもプライバシーの侵害や人権侵害に当たる。くれぐれも注意するようにな。
違反をしたものには即退学とさせてもらう。芸能界を引退した天空は事務所と弁護士を交えての契約を結んでる。学校側も注意するよう厳重な指導を受けてるし、親御さんとも約束をしてる。もちろん、他のクラスにも同じように注意喚起されてるからな。
この意味お前たちならわかるよな。軽い気持ちで騒ぎ立てるのはやめろ。いいな?俺からは以上だ。」
先生は手を叩き周りを静まらせると、淡々と話した。
実際の話も混じってるけど、かなり誇張されてる。そもそも芸能界を引退すると当然ながらメディア受けは悪くなるし、一般人を過度に取材すると批判も相次ぐ。
メディアからの圧なんてないと捉えて問題ないのだが、ここであえて言ったのは学生たちへの牽制だろう。
公的な事案は避けたくなるからだ。
もちろん盗撮や悪質な書き込みは嫌だけど、止められるようなものでもない。世の中にはそういうことを平気でやる人はいる。
でも今の発言でかなり気をつけるようになるだろう。
なにより、私の気持ちも楽になった。
助けられたな、先生に。
私は勇気を持って前に出ると、口を開く。
「ご紹介頂いた天空鈴華です。このクラスでみなさんとともに、過ごすことになりました。よろしく。」
私は必要最低限の挨拶に留め、淡々と話し一礼する。
アイドル時代とは大きく異なりかなり素に近い感じで挨拶した。
取り繕うこともできたが、もう私はアイドルではない。昔から無愛想で可愛げのない私。それが本来の私だ。
もうアイドルじゃないんだから、作る必要も無い。そこは楽な部分だ。必死に頑張っていた頃は楽しかったけど、それが日常になると疲れもする。普段の日常は素がいちばん楽だ。
「え、テレビと全然違う」
「目つき……悪くね?」
「まあ、可愛いよな普通に」
「お前まじかよ。結構怖くね?」
「お前こないだまで曲聴いてたろ。どーなん、実物は。」
「俺は目立たないおしとやかな子がいいんだよな。」
「顔ちっちゃい!足細い!めちゃくちゃかわいい!」
「化粧と整形よ、あんなの。高い金払ってるのよ。」
一度静まったものの、また騒ぎ始めるクラスメイト。好意的なものから批判的なものまで。大方予想通りの反応だ。でも取り繕っていないから、なんだか清々しい。
生徒たちの反応にため息をつく先生。飽きれたように先生は、窓際から2列目の後ろの席を指さす。
「ま、こんな感じだ。困ったら言えよ」
「はい、ありがとうございました。」
私は促されるまま後ろの席へと座る。
窓際二列だけ席が多いようで、私の席と窓側の席が後ろに飛び出している形だ。
私は席へと座ると隣の席に目を移す。
「なっ………」
目が合った男の子はこちらを一瞬驚いたような表情で見つめるが、すぐに困ったような笑顔を作る。
「……なに?」
私はつい不機嫌に尋ねる。隣の人にぐらい挨拶しようとしたらこれだ。不愉快にもなる。
「あー、いや。さすがに実物のアイドルは綺麗だなって」
「……あっそ。」
私はそっぽを向き、身支度を進める。
「あ、えーと?あの、僕『海道カイト』よろしくね!」
少年は優しく微笑んでくれるが、私は無視をする。
この人は今嘘をついた。
私のことを綺麗な人と言ったのは嘘だ。別のことを思ったはずだ。取り繕い。そんな空気を感じた。
長らく芸能界にいたせいかそういう嘘や雰囲気はわかるようになった。
元々そういう能力は磨かれていたみたいだが、グループのメンバーに裏切られてから、この勘は正しい感覚だと理解した。
少なくとも別の何か後ろめたい感情を、わたしに抱いた。そういったことは伝わってくる。
こういう人は関わらない方がいい。面倒なことになるから。
「……困ったこととかあったら、言ってね。えっと……じゃあ、ごめんね。」
困ったように微笑み、正面を向く少年。少しばかり心が痛むが、今の私は自分のためにここにいる。先に失礼な態度をとったのは向こうだ。これでいい。
変に優しさを見せて自分が傷つく必要なんてない。
今はひとまず平穏に暮らせればそれでいい。
必要最低限のコミュニケーション。
それだけでいいはずだ。
それでも少しだけ、もう一度少年の方を見やる。なんか悪い気分になったからだ。忘れかけてたけど、やっぱり昔から人付き合いは苦手だ。かと言ってもう取り繕う元気はないし。結局このまま行くんだけど。
少年は黒髪の短髪。整えられた前髪に青い瞳。
ワイシャツに灰色のカーディガンを合わせて制服を着こなしている。
整った顔立ちにどこか懐かしさを覚えるが、初対面のはずだ。
少しばかり顔がいいから、なんとなくそう思っただけかもしれない。
私は正面を向き授業に備えた。
◆◇◆
一通りの授業をこなし、昼休みを迎える。きちんと復習と予習しておいたおかげで、何とか授業についていけた。
「ふう。」と一息つきお母さんが作ってくれたお弁当を開け昼食にする。
お母さんのお弁当久しぶりだな。
私はウキウキで食事を始めようとするが、気がつくと目の前には人だかりができていた。
「え……なに?」
「私、鈴華ちゃんの大ファンだったんです!」
「え、あ、はい。ありがとう」
「俺も俺も!!!曲めっちゃ聞いてた!!!」
「はあああ!?今私が話してるんですけど!?」
「いいだろ!そんなの!」
「私は雑誌も見てたしテレビもリアタイしてた!!!」
「ちょっと!抜けがけしないでよ!」
「おうちどの辺!?ここの近く!?」
「え、えっと。近くの森を超えたところ」
「え!?旧御三家のお屋敷!?すごいね!!」
「え、旧御三家のお屋敷って黒天使の?」
「そうだよ絶対!やば!」
みるみるうちに人が増えていき、教室の大半の人が集まる。
会話のテンポが早すぎて全く応対できない。それにまた旧御三家と言われた気がする。そんな有名な屋敷なの?それになに、黒天使ってなに?
疑問は尽きないが、次々に人がやってくる。
朝めっちゃ嫌な空気出してたのに、すごい変わりようだ。
「サイン!お願いします!」
「はあ。グループのサインはできないけど、いいの?」
「鈴華ちゃんのサインが欲しいの!!!」
「……はいはい。」
私は渋々サインを書き始めた。
適当なところで切り上げ、「先生に呼ばれているから」と退席する。
全然ご飯食べられないじゃない。
私は一人になれる屋上へと向かった。
まだ少し肌寒いからか屋上には誰もいなかった。
何も無いタイルに申し訳程度のフェンス。
グラウンドと校庭を見渡せて結構いい眺めだ。
私はベンチに座ると、お弁当を広げようやく食事を始める。
タコさんウィンナーに、唐揚げ、卵焼き、ブロッコリーのサラダ、おにぎり。
これぞ、Theお弁当。
最高です。
至福の時間を終えまったりベンチで過ごしていると、扉が開け放たれる。
「あ、いたいた。みんな心配してたよ。」
誰かと思えば、隣の席の海道くんが目の前に現れた。
「そのうち戻るから、気にしなくていい。」
「凄かったもんね。さっきは。」
ニコッと微笑む海道くん。無駄に顔がいいなこの人は。
芸能人と話しているような気分になる。だからさっき懐かしいと感じたのか。納得。
「良かったら、学校案内しようか?」
「なんで?」
唐突な海道くんの申し出に困惑する。距離の詰め方すごいな。そんなに話してもないし、先生に頼まれた訳でもないのに、何を言い出すんだこの人は。
わたしの困惑と警戒した表情を読み取ったのか続けて話す。
「いやさ。転校してきたばっかだから、色々わかんないかなって。」
「お節介なのね。いらないわ。」
ただのお節介だったのだろうか。だとしても必要ない。学校は一通り先生に案内してもらっている。それに試験を受けた時に自分でも見て回ってるから問題は無い。
「あー、そう?じゃ、じゃあ、この街を案内するよ!」
「いらないわよ。というか、どっかいってくれない?私、今一人の時間を楽しんでるの。そういう空気分からない人じゃないでしょ?」
私は鋭く海道くんを睨む。さすがにその申し出は無理がありすぎる。警戒を強めるだけだ。
無理やり私と接点を作ろうとしている空気が不愉快だった。
異性として見ている訳じゃない。なにか別の思惑がある。そんな気がしてならなかった。
「……ごめん。しつこかったね。旧御三家の家に住んでるって言ってたから心配になって。」
「私の住んでる家なんだから、他人に心配される筋合いは無いわ。」
「そ、そうだね。」
ようやく本当の目的を話してくれたようだが、この話も恐らくブラフだろう。他にもっと理由があるから遠回しに言ったんだ。その程度のことなら、最初からそう言えばいい話のはずだ。
まあ、実際今日久しぶりに屋敷行くから不安ではあるけど、この人はどこか信用ならない。
荷物は先に送ってたけど、行くのは小さい時以来だ。
でもこの人には頼みたくない。怪しいと感じる要素が多すぎる。
どこか空気が重くなって沈黙が続く。早くこの人帰ってくれないかな。
気まずい空気の中、バタンと再び扉が開かれ、小柄な女の子が私と海道くんの間に割って入る。
「あなた何者ですか!?」
いきなり現れた少女は殺意を向けるように、私を睨みつける。
小柄でウェーブがかった茶色いセミロング。可愛らしい見た目に反して、ものすごい殺意のこもった瞳で見てくる。
「いきなり、なに?」
私は怯えることなくそのまま視線を返す。それなりに修羅場をくぐってきたんだ。この程度の威圧に屈したりはしない。
「あ、ちょ!皐月!!やめなって!」
「お兄は下がって!この人御三家の人だよ!?」
サツキと呼ばれた少女は興奮しながら海道くんを守るように立ち塞がる。
お兄?この子海道くんの妹?なんで海道くんの妹に喧嘩を売られてるの私。確かに雑な態度はとってたけど、彼しつこいんだもん。私悪くないと思うんだけど。
私の不機嫌メーターは次第に上昇していく。海道くんは私の不機嫌を察してか妹さんをなだめようとするが、聞く耳を持たない。
頃合いを見てわたしも口を挟ませてもらう。いい加減不愉快だ。
「なんの話をしてるのか分からないけど、私は海道くんがしつこくて嫌気がしてたところなのよ。連れて行ってくれないかしら。」
「お前、お兄に何をした!!」
「なにもしてないわよ。話聞いてた?それとも、キャンキャン吠えることしか出来ないワンチャンには、難しかった?」
「私を犬って言うな!!!!」
私の発言が勘に触ったのか大声で怒り出す少女。
怒りたいのはこちらの方だ。言われ用もない事を言われている。私は転校初日で、ひとりでゆっくりしたいだけなのに。
「ちょっと、二人とも!!」
海道くんが仲裁に入ろうとした刹那、再び扉が開かれる。
「なになに〜!どったの!大きい声出して!愛しのお兄は見つかったの?」
突然現れた女生徒。朝グラウンドを走っていたミコトと呼ばれていた少女だった。
明るい茶髪をポニーテールにして、前髪はピンで止めている。セーラー服に黄色のセーターを合わせたコーデーで、朝とはまた印象が異なる。
「見つかりましたけど、この女がお兄に近づきました!!!」
「おおお!!朝の可愛い子じゃん!ふぅー!!!」
「ちょっ、なに!?」
何を思ったのかミコトさんは私に抱きつき、頬を擦り寄せる。
「やめ、やめなさいっての!」
私はくっついてくるミコトさんを引き剥がす。
「ごめんごめん。あまりにも可愛いからつい。それよりも、2人とも喧嘩は良くないぞ!」
「この女がお兄に近づくから!」
「あなたがしつこいからでしょ。」
「ずっとこんな感じで僕が入る隙なかったんです。助かりました。神威先輩。」
「あーなるほどね!こりゃあ反りが合わない同士って奴だね!んで、カイトちんは、かわい子ちゃんになんかされたの?」
「いえ、僕が心配というかお節介でしつこく話しかけてしまって。それを皐月が勘違いしたみたいで。」
「おお!なるほど!だってさ!皐月ちゃん!」
「ぐぬぬ……」
海道くんが説明してくれたことで、ようやく妹さんは落ち着く。全く酷い言いがかりだったわ。
「まったく、早とちりな妹さんね。」
私はつい愚痴をこぼす。これぐらいはいいでしょう。
「ごめんね。言い聞かせておくよ。……紹介が遅れたね。この子は犬飼 皐月。まあ、僕の妹みたいなもんだよ。昔からの仲でね。」
イヌカイって。やっぱり犬じゃない。それでさっき怒ったのね。というか苗字違うし、妹みたいなもんって事は兄妹ではないのかな。
「ふん。あんたが勘違いさせるような空気出してるのが悪いのよ。」
「は?」
「こら、皐月。謝りな。」
「……ごめんなさい。」
再び喧嘩になりそうになるが、すぐさま海道くんが止めてくれる。随分素直に言うことを聞くものね。
「随分手懐けられているのね。シッポは振るし、犬飼というより飼犬って感じね。」
「は?」
「こらこら。煽らないの。」
ミコトさんはわたしのおでこを指で弾く。かるい痛みが走り、赤くなる。
「いたっ」
切り替えるように手を叩くと、ミコトさんは注目を集めさせる。
「私も自己紹介!神威 美琴!三年!陸上部!趣味は占い!現在カイトちんを陸上部に勧誘中!」
「嬉しい誘いですけど、バイトが忙しいので。」
「それは残念!陸上部か水泳部どっちかはやればいいのに!」
「あははは……」
自己紹介という名の強引な勧誘に苦笑いで受け流す海道くん。この人運動部できるタイプなのか、さぞかしモテるだろうね。
「それで?そこのかわい子ちゃんはなんて言うの?」
私に向かって神威さんは言い放つ。そういえば自己紹介をしていない。
「私は天空鈴華です。今日転校してきました。」
「そうなんだ!んで〜?カイトちんは、元アイドルを口説いてたってわけ?」
悪戯っぽく微笑むと、神威さんは海道くんを肘で突つく。
───────あれ、この人私の事知ってたのか。
「違いますよ!旧御三家の屋敷に住んでいるって言うから心配で!」
慌てて否定する海道くん。口説いていたといえば、口説かれていたような気分にもなってくる。まあ多分違う狙いがあった気がするけど。
「げっ……!?」
犬飼の不快な反応は無視するとして、海道くんがこれまでの経緯を説明してくれる。
「ほうほう!最近は黒天使の話題で持ち切りだもんね!そりゃあ心配か!」
「そうなんですよ。」
「黒天使……?」
クラスでもそんな話が出ていた。一体なんのことだろう。
「……最近この辺で目撃されてる黒い羽の生えた天使。通称『黒天使』。妖怪なのか人間なのかどっち側か分からないけど、異形に襲われる人や妖怪を助けてるのよ。」
「いい人じゃない。」
犬飼が丁寧に説明してくれたので、素直に聞く。言葉にも出たが、いい人な気がするけど、なんでそんなに危険視されているんだろう。
私の疑問を感じ取ったのか海道くんが補足をする。
「正体が掴めないし、なによりそれほど最近異形の存在が確認されてるんだよ。」
「その黒天使の目撃情報が多いのが、旧御三家のお屋敷、つまり鈴華にゃんのおうちってわけ!」
続けて説明を加える神威さん。どうやら、黒天使が危険と言うよりも、異形が多発している私の家が最近話題にあがっているということらしい。
「だから危ないってこと?着いてきたところで、海道くんがどうにかできるとも思えないんだけど。それに毎日送るつもり?」
「あ、いや、それはその……」
私の強めの返し戸惑う海道くん。そういうことを言っているわけではないとわかっているが、この人はずっと不自然だ。
「まあまあ、そう言わずにさ。お節介アーンド心配性なのよ、カイトちんは!と、いうことで!私が帰り送るから、これでお話は解決だね!」
「いや別にいらないんですけど。」
見かねた神威さんが間に入ってくれるが、話を強引に進められる。私の拒否も耳に入っていないようだ。
「んじゃ、帰り玄関で待っててね!じゃあ、もうそろ昼休み終わるから戻るよ!」
「えぇえ……」
有無を言わさず扉から校内に戻る神威さん。私に選択肢はなかったようだ。まあ、海道くんよりは信用出来るかもしれないけど、強引すぎ。
というか全然ゆっくりできなかったじゃない。なんなのよ。
黒い羽の天使か。まさかね。
私は一瞬脳裏にアキラの姿が浮かぶが、そんなわけないと頭を振る。
そのまま仕方ないので、4人で校内にもどる。
「お兄はこれでいいの?」
「まあ、神威さんが着いてくれるって言うなら、問題ないかな。」
「……ふーん。」
どうやら神威さんが送るなら海道くんは文句ないらしい。犬飼に聞かれていたが、ようやく引き下がってくれたみたいだ。
「そうだ!せっかくだし、お近付きの印として占ってあげるよ!」
屋上から校内にもどる階段の踊り場。突然立ち止まり振り返った神威さん。
私の方を見るとニコッと微笑む。
「神威さんは占いが得意なのよ。占ってもらったら?」
犬飼が説明してくれる。というかコイツ後輩のくせにタメ口やめろよな。いちいち生意気だ。
「うんうん!ほいっと!」
「えっ!?」
突然神威さんは私の額に指を当て意識を集中させる。
私はなんとも言えない表情のまま固まり、結果を待つ。まだやるなんて言ってないんだけど。
「……月満ちるとき、運命の再会……ってとこかな!素敵な出会いがあるかもね!」
月満ちるとき、運命の再会?全然意味がわからず心の中で言葉を反芻する。
「じゃ、戻ろっか!」
「は、はい。」
クルッと切り替えるように、階段を降り始める神威さん。なんとも勢いがすごい。
ペースに飲み込まれるというか流される。
犬飼も海道くんも、いつもの事なのかそのまま何事も無かったかのように教室へ向かっていく。
一人残された私はなんだかどっと疲れながら、教室に戻ることにした。
突然決まった帰りの約束。まったく初日から慣れないことが多い。
それでも都会にいた頃よりはマシなのかもしれない。発作も起きないし、人々の敵意もかなり柔らかい。
なにより自然と調和しているこの環境が、忙しなく乱れていた心を癒してくれている。
穏やかな雰囲気というのかな。そういうのがずっと流れている気がする。
私は切り替えて午後からの授業に備えた。




