3章11話 解錠せし真実
終業式の日。
朝の支度を終えた私とカイトと犬飼はそれぞれに靴を履く。
犬飼に会えたのは久しぶりな気がする。今日はこのまま学校に行き終業式を終えたあと神威さんと共に、リアラさん達と合流することになっている。
そして今、玄関前には雉木さんが私達を見送ろうとしていた。
「今日は特別な日なのですよね。どうか、お気を付けて。」
「大丈夫ですよ。きっと全部上手くいく。」
「……そうだといいわね。」
雉木さんの言葉にカイトと犬飼が答えてみせる。
私は深呼吸をして、雉木さんに向き直る。
「雉木さん。帰ってきたら、お話があります。……出来れば、猿飛も同席させてください。」
「……何か特別なお話があるようですね。ですが、この前も申したように───────」
「雉木さんの言葉を覆したいなら、真実を自分で調べろ……ですよね?」
「はい。その通りです。……そのお顔は何かを掴んだということでしょうか。」
「そう捉えてもらって構いません。」
「……鈴華?」
雉木さんと睨み合いを続ける私を心配そうに見つめるカイト。
色んなことが起きすぎて、なあなあになっていたけど、学祭の日に決めた。
アキラのことをきちんと調べると。
「いいですよ。お話の場を用意してお待ちしております。……それでは、行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
私は雉木さんとのやり取りを切り上げ、学校へ向かった。
◆◇◆
私なりにこの2日。考えを巡らせまとめた。ここまで起きたことを整理していくと、怪しい人物が二人思い浮かんだ。
雉木さんとカイトだ。
今わかっていることは、アキラは七年前に霊能協会の襲撃によって、命を失ったこと。
アキラは猿飛と犬飼を守った。
同じく七年前カイトは記憶を失い、カイトのことを知る人は誰もいない。
そしてアキラの姉であるウララさんは亡くなった。今はのっぺらぼうがその姿を借りて私とカイトを狙い、その主はカイトへの復讐を望んでいる。
現在、アキラは私を守るようにして現れた。
雉木さんの話によればアキラの記憶をもつ亡霊だと言う。
アキラは7年前の襲撃者は先生だと言う。
先生の話では先生はウララさんの家庭教師であり、七年前の霊能協会が襲撃してきた後に宮ノ森家に訪れている。
目撃したのは三人の子供。この時点で生死は分からなかった。
この話の見落としがあるとすれば、七年前のカイトの行動と雉木さんの行動だ。
ここだけはずっと分からない。
そして不自然な点はもうひとつ。
今のアキラを亡霊として語るのは雉木さんだけ。
猿飛も犬飼も話を聞いた時はアキラは死んだと語った。
雉木さんの話では、猿飛と共に今のアキラを目撃し、亡霊と定義付けたとしている。
ここまでのアキラが亡霊だという話は、全て雉木さんからしか聞いていない。
だからこそ、今回は猿飛にも話を聞く必要がある。
ここで根拠となるのは先生の話。
目撃した三人の子供。
話を総合し当てはめられるのは、アキラ、犬飼、猿飛だけだ。
そうなると、雉木さんの七年前の動きは分からないことになる。
もちろん身元が分からないカイトもそうだ。
さらにいえば、アキラがカイトが居ない時に現れるという話。それは私自身も感じていたが、雉木さんはその根拠にアキラとカイトには繋がりがあり避けている、とした。
それはおかしな話だと気がついた。
アキラがカイトを知っているなら、従者である雉木さんが知らないはずはない。
だって、雉木さんはシノビ一族の当主なのだから。
あくまで妄想だが、雉木さんはここに思い当たるのを防ぐために、『役割』をカイトに与えたのではないか。
ここまでの推理によって私が導いた事は、雉木さんはカイトの正体を知っており、アキラの状態を偽っている可能性があるということ。
アキラの状態については直接私が触れ合っていること。突然現れるが、消える時は飛び去ることから、肉体を有している可能性があること。
記憶の具現化とする場合、犬飼の攻撃が契約の力によって、通じなかったことは違和感を覚えた。
記憶にまで契約の力が通じるとは思えない。契約の力はこれまでの経験から、かなり絶対的なものに感じた。
紛れもなく本人だったからこそ、契約が発揮されたとした方が、しっくりくる。
でなければ、のっぺらぼうのような偽物にも、適応されてしまうことになるからだ。
のっぺらぼうとの戦闘では、犬飼は普通に攻撃していた。そのことから偽物には契約は適応されないことはわかっている。
そして、亡霊の説明をしていたのは、すべて雉木さんだったことが決め手だ。
少なくとも雉木さんは何かを隠している。
そして、今日私はリアラさんと会う。
都合よくリアラさんは黒天使のことを調べていた。
リアラさんはきっと何か大きな依頼をしてくる。
そこを狙って交渉するしかない。
ここでひとつでも真実を知ることができれば、雉木さんを追い詰められるはずだ。
そうすれば、本当のことを知れる。
そして、私の気持ちにも決着が着く。
これが私の作戦だ。
何故、雉木さんがそんなことをしているのか、リアラさんが黒天使を調べていたのか、そんなことは後回しだ。
真実を知らなければ、私は前に進めない。
カイトのことも、アキラのことも、このままじゃダメだ。
他人が踏み込みすぎなのは分かっている。
それでももう、どうしようもないぐらい、私は巻き込まれてしまったから。
大きな変革が訪れるとしても、もう知らずにはいられない。
だって、二人とも大切だから。
◆◇◆
終業式を終え、いよいよ夏休みが始まる。
私達はその前に終わらせなければならないことがある。
風紀員として夏休み前の最後の依頼。
神威さんの異形化を抑えることだ。
神威さんと共にリアラさんたちを待つ私たち。
私たちの元に先生がやってくる。
「ここにいたか。そういえば今日だったな。神威。」
「はぁい!頑張ってきまあーす!」
神威さんは元気よく微笑んだ。
神威さんは見ないうちに制服の着こなしを変えていた。黄色いベストを夏服セーラーに合わせていた。
夏らしいし、神威さんに合っている。
私はいつも通り日焼けしないように、灰色のカーディガンを半袖セーラーの上に着ている。
犬飼はずっと半袖のセーラー服。
カイトの上はワイシャツ一枚で、袖をまくっている。
先生はいつも通り黒のワイシャツを着こなしている。
「悪いが俺は今日、同席できない。事後報告頼むな。……いいか、無茶すんなよ。」
「え?お仕事ですか?」
先生の唐突な申し出に全員困惑する。
こういう大事な場面には同席してもらわないと困る。
「悪いな、今日じゃなきゃダメみたいなんでな。」
先生はそのまま背を向け立ち去る。
「あ、ちょっと!」
私は先生を追いかけようとするが、神威さんに後ろから抱きつかれる。
「ストップストップ!」
「え?」
神威さんは先生の方を指さすと、そこへ急いで駆け出してくる大鳳さんの姿があった。
「デートかにゃ〜?邪魔しちゃ悪いって〜」
「いやいや!依頼の方が大事でしょ!」
「大丈夫だって。修行はバッチリだし!暴走したら、みんなが止めてくれるんでしょ?」
「車が来たわ。行くわよ。」
私は神威さんにグイグイ押され、犬飼はカイトを車まで引っ張っていく。
本当にこれでいいの?
なにか急に怖くなってきた。
頑張って後ろを振り返ると、大鳳さんがこちらに走ってきているように見えた。
あれ、こっちに来てる?気のせい?
『鈴華ちゃん!事件は全部繋がっていたの!』
その声は私に届くことはなかった。
◆◇◆
少し不安の残る中、辿り着いたのは見知らぬ廃墟だった。
執事さんは車を走らせどこかへと発進する。用事が済んだら戻ってきてくれる手筈になっている。
「ここなら誰も来ませんし、存分に力を使えますわ!」
リアラさんは廃墟の前に立ち微笑んでみせる。
なにかの施設の跡地だろうか。建物は崩壊しているが概ね広いスペースが設けられている。
「もっといい場所なかったのかよ。」
新は廃墟のあまりの有様に悪態をついてみせる。新も夏服仕様になっていて、ワイシャツの上に薄手のパーカーを羽織っている。
「あら、人に選ばせておいて酷い言い草ですわ!」
「ここは、以前妖怪が住み着いていたとかで、いわく付きになった建物です。いまは協会と連盟が管理しているそうですよ。後々は訓練施設にするとかそんな話もあるみたいです。」
リアラさんが新に怒っている横で、シロさんが解説をしてくれた。
「へえ!こんな場所があったんだ!」
神威さんは興味深そうに辺りを見渡している。
走り回っている神威さんを新は捕まえて、頭にチョップする。
「はしゃぐな。お前が主役だろうが。」
「でへへ、ごみぃんごみぃん。」
神威さんは反省しているのか微妙な態度で謝ってみせる。
私と犬飼とカイトは少し離れた場所で、待機だ。
中央に神威さんと新が立ち、緊張感が走る。
リアラさんとシロさんも私達と同じところにやってくる。
「始めんぞ。───────美琴の言霊を解く。」
「あいよ!ドンと来い!」
二人の間に緑色のオーラが溢れて、神威さんの中から緑色の光が抜けていく。
「新たに生まれし言霊よ。役割を終え、天へお還りください。我が名は新。言霊を紡ぐ者なり。」
新は瞳を閉じて、神威さんの額に指さす2本を立てる。
その後、神威さんの額に霊力の波紋が広がり、神威さんから抜けた光が天へ上っていく。
刹那。光は消え、倒れ込む新を神威さんは抱き寄せる。
「あんがとね。新ちゃん。」
「まったくだ。」
「……成功したの?」
二人の様子をしばらく見守っていたが、どうやら終わったらしい。
私は恐る恐る聞いてみた。
「琴上家である俺とこんなにくっついて大丈夫なら、問題ねーだろ?」
新は神威さんから離れると誇らしげにそう言った。
「わお!ほんとだ!成功だね!」
神威さんは今さら自分の体に異形化が起きていないことに気がつき、喜んでみせる。
どうやら修行によって異能を獲得できていたらしい。
「良かったですね!神威さん!」
私は走って神威さんのことへ行く。
神威さんも微笑んで私に抱きついてくる。
「やったよー!鈴華にゃん!!!」
「はい!」
これでひとつ問題は解決した。喜んでいいんだよね。
カイトも犬飼も笑ってみせる。
「では次は試験ですわね!異能をきちんと使えるか、ですわ!新、美琴さんの能力はなんですの?」
どうやら、次のステップに進めるらしい。
なんとか第一関門突発と言ったところか。
神威さんは私から離れてリアラさんと新のやり取りを聞く。
「美琴の力は『神眼』。相手のあらゆるものを見通せる。知っての通り、未来までもな。これが美琴の異能。
そして、魂に刻まれた約束は琴上家に仕え守ること。
……こいつの前世は昔、琴上家に仕えた妖怪だった。それで当時の主にずっと仕えることを約束したが、千年前の戦いで仕えていた主は亡くなり、異形に飲まれたことで、こいつの前世も形を保てなくなり転生を果たした。
……まあ、要はこの約束を果たしていなかったから、異形化していたわけだ。
転生して琴上家を守ることを忘れて、琴上家に反応していたってわけだ。」
「まあ、琴上家というか、多分感覚的には新ちゃんを探していたような感じなんだけどね。」
「なるほど!わかりましたわ!では、試しに鈴華さんのことを見通してくださいまし!」
「え?私?いいけど……」
「おっけえ!鈴華にゃんね!」
神威さんは私に向き合い瞳を閉じる。すると、背中に光輪が浮かび上がり、神聖なオーラを身に纏う。
神眼にふさわしい神々しい姿だ。
神威さんはそのままゆっくり瞳を開け、私を見据える。
『汝、琴上、百合野、コトノハ、鬼の血を持ち、その魂に九尾の力と鬼の力が眠っている。』
「え?」
言い終えると、神威さんの様子は元に戻りいつも通りに微笑む。
「どうだった!凄かった!?」
「う、うん。凄かったですけど、鬼の力って……」
私が言い終わる前にリアラさんは私たちの元へかけてくる。
「素晴らしいですわ!合格です!美琴さん!これで平穏に過ごせますわよ!」
「やった!!!!」
「んじゃあ、解散か?」
「ですね。これにて解決です。」
新とシロさんは背を向けて歩き出す。
「良かったね!これで夏休みを心置き無く楽しめるね。」
カイトも近くに寄ってきて微笑んでくれる。私も微笑む。
でもまだ終わりじゃない。
私は喜んで解散の空気になっているみんなを他所に、リアラさんへ声をかける。
「それでリアラさん、まだ依頼残っていますよね。」
そう、リアラさんが神威さんのことを協力するために結んだ契約。
何故神威さんが異形化してしまうのか知ること、異形化を止めるために異能を手に入れる。
このふたつの条件は果たされた。
つまりこちらも約束通り、リアラさんの条件2つ目を叶える必要がある。
「そうですわね。既に一つ目は叶えてもらっていますから、二つ目のお願いですわ。」
私は固唾を飲み込む。事前の契約では内容を聞いた上で断ってもいいと言っていた。
でも今の私には、黒天使の情報を得るための交渉材料になるかもしれない。
───────さあ、どうくる。
「天空鈴華さん。祓魔師連盟にて、保護されませんこと?」
「どういう意味ですか」
リアラさんの言葉に全員が動きを止め、カイトは一歩前に出る。
私は黙ってリアラさんの言葉を待つ。
何となくそんな気はしていた。
確信を持ったのは、神威さんの神眼でだけど。
おそらく、祓魔師連盟や霊能協会は御三家の力を恐れている。
黒天使を調べていたのも、そのためだ。
何故かは分からないけど、7年前の話を聞く限り、黒天使や宮ノ森の力は、霊能協会にとっては、討伐対象。
祓魔師連盟にとっては、保護対象。
きっとそういうことだろう。
そして、ここに来て御三家とは離れて育った私の存在。
それも九尾の力と鬼の力を使う私。
たぶん、危険と判断されたのだろう。
「鈴華さんのお力は大変危険なモノですわ。きちんとした場所で力を学び、力を制御しなければなりません。少々力が大きすぎるため、連盟で保護させて頂きますが、やることは今回の美琴さんのことと変わりありませんわ。」
「そんなの受け入れられる訳ないでしょう!僕は反対だ!第一、御三家の力が危険だと言うなら、リアラさんや新くんはどうなるんです!?」
「私達はきちんと正統な機関で指導を受け、その力を完全に制御しておりますわ。
ですが、鈴華さんは違います。
九尾の力を解放した時、元の大鳳妃奈に戻っても戦いをやめようとはしなかったですわ。
そして先日、我が家でのっぺらぼうの襲撃を受けた際、鬼の力を暴走させましたわ。
……カイトさん、あなたは九尾の力を解放した鈴華さんをあの時止められまして?」
「ぐっ……」
カイトは言葉に詰まってしまう。
どれも聞いた話で私自身に記憶はない。
それでも何かをしようとしたのは、覚えていた。
それに、のっぺらぼうが襲撃してきた日、他の人に比べて疲労感が凄かった。
なによりここでカイトやリアラさんが嘘をつく理由もない。
「もう大丈夫だよ。カイト。ありがとね。」
私はカイトの肩を優しく叩き前に出る。
「私が出す条件を飲んでくれたら、その依頼受けます。」
「鈴華!!!!」
カイトが大声を出して止めようとするが、私は構わず続ける。
「保護されても構いませんが、それは明日以降でお願いします。まだやらなければならないことが、ありますから。それから、あなたの持っている黒天使についての情報を全て公開してください。」
「わかりましたわ。それで構いませんわ。」
「そんな……鈴華、本気なの?」
「本気だよ。」
私は迷うことなく言い切った。
リアラさんは一息置いて前に出る。いよいよ真実が語られる。
ここまでの代償を払ったんだ。
全ての真実を追求してやる。
「私が持っている黒天使の情報でしたわね。
1年ぐらい前のことですわ。私達、祓魔師にとある情報が寄せられましたの。
七年前に亡くなったはずの宮ノ森光が目撃され、霊能協会はこれを討伐することを決めた、と。
連盟にとってはこれは大きな損失になると判断致しましたわ。
抗議したものの、霊能協会は隠してきた七年前の真相を語りましたわ。
突如、宮ノ森家に大量の異形が現れ、それを生み出したのは宮ノ森光であるというもの。
これはきちんと調べなければならないこと。
そうしなければ、御三家の力を持つ者は危険ということがまかり通ってしまいますの。
それはつまり、私や新、またはシロにまで危険が及びかねない事実でしたわ。
だから私は率先してこの任務を引き受け、霊能協会よりも先に黒天使を捕まえようとしましたの。
そのために黒天使が守っているという鈴華さんと、人魂飛ばしの出来るチグサさんと仲良くなりましたわ。
そして、おそらく神眼を持つ美琴さんの異能覚醒を手伝った。
まさか調べていくうちに、鈴華さんの方が危険だとは思いませんでしたけどね。
鈴華さんを保護する準備をすすめつつ、黒天使を調べ続けついに正体を突き止めましたわ。
正体は七年前に死んだとされた宮ノ森光でしたわ。
彼は死んでなどおらず、七年前記憶を失い、自分が誰なのかも忘れてしまった。───────そこにいる海道カイトですわ。」
「……え?」
全員が言葉を失った。
私も予想していなかった言葉に、頭が真っ白になる。
それにリアラさんは最初からすべて新とシロさんを守るために、私達を利用していたことがわかり切なくなる。
いや待って。カイトがアキラ?どういうこと?頭の整理が追いつかない。
「色々言いてえことはあるけどよ。姉貴、そいつはおかしくねえか?」
ここまで沈黙を貫いてきた新が戻ってきてそう言った。
その後ろを着いてきたシロさんも続く。
二人ともどこか怒っているような様子だ。
「以前、琴上家にアキラさんがやってきた際、そこにいるカイトさんは倒れていました。同一人物とするのは、無理があります。」
「あの時倒れていたのは、確か、霧隠猿飛さんでしたわね。
雉木半蔵の命令で、のっぺらぼう、いえ、ムジナは私たちに幻影を見せていた。
猿飛さんをカイトさんに見えるように。
そして、一段落したあと、先生に化けたムジナは回収したアキラさんを猿飛さんに見えるように幻影をかけた。これなら筋は通りますわ。」
「なんで……半蔵さんが、そんなことを……」
信用を置いていた雉木さんの不審な行為にカイトは困惑してみせる。
驚くのは無理もない。
私も雉木さんが怪しいと思っていたが、まさかそんなことをしているとは予想していなかった。
のっぺらぼうがムジナということは、雉木さんは、カイトを狙っていた人物となる。
私を殺し、カイトの記憶を取り戻させ復讐しようとしていた人物であるということだ。
混乱する私達を他所に、リアラさんは続ける。
「なんでそんな事をしていたかなんて、知りませんわ。ただ、我が家でのっぺらぼうが襲撃してきた際、鈴華さんの暴走する鬼の力を癒して見せたり、追放されたという言葉だったり、それらから辿り着けただけですわ。」
そうか。ムジナには癒しの力がある。それに前、シロさんは言っていた。
『元々は山の神の遣いだったとか。掟を破って、神の世界に帰れなくなったと聞いたことがあります。』
神の世界に帰れなくなった妖怪。
神の世界から追放された、と取ることもできる。
「さて。譲歩は致しましたわ。観念して、保護されてくださいまし。」
リアラさんは黄金のオーラを纏い、背中からは九本の蒼い尻尾が見える。瞳の色は銀色に変色し、圧倒的な霊力を見せつけてくる。
「どういうことですか。明日以降でお願いしましたよね。」
私は負けじとリアラさんを睨みつける。
約束が違う。
「誰が全て条件を呑むと言いまして?譲歩できてここまでです。鈴華さんも、カイトさんも、保護させて頂きますわ!」
「ちっ!やっぱりこうなったか!」
カイトは霊力を込めて槍を形成し構えるが、その瞬間力が抜けて地面に座り込む。
「あ……れ…」
「言い忘れていましたわ。初めてお会いした時、すでに言霊をかけておりますの。私に逆らえないように。」
「そんな……」
私の足の力も抜けて、地面に座り込む。
不敵に笑い近づいてくるリアラさん。
「くっそぉ!!!皐月!皐月もダメか!?───────ってあれ、皐月!?」
カイトは必死に犬飼の名を呼ぶが、いつの間にか犬飼はどこにもいない。
あれ、いつから居ない?
ここに一緒に来たよね?
「じゃ、じゃあ、神威先輩!お願いです!鈴華を連れて逃げて!」
「………。」
「え?」
精一杯、カイトが神威さんに声をかけるが、神威さんは静止して動かない。
「神威さん!!!!」
私も声をかけるが、まるで反応がない。
「言霊をすでにかけさせてもらっていますわ。異能を得た彼女がどうなるか分かりませんでしたからね。……さあ、行きましょう。」
気がつくと目の前までリアラさんは、迫ってきていて手を差し伸べられる。
「この!クソ姉貴!!!」
刹那。横から紅蓮のオーラを纏って新がリアラさんを殴りつける。
リアラさんは衝撃で後退するだけで、無傷だ。
「自分が何してんのかわかってんのか!美琴に何をした!」
「新、よく覚えておいてくださいまし。言霊は複数回に分けてジワジワとかけておくのがコツでしてよ?そうすれば、意のままに操れますわ。」
「そういうことを聞いてんじゃねえ!!!!」
紅蓮のオーラを纏いながら、何発も拳を繰り出す新。
だが、全て避けられ伸びてきた尻尾に弾かれる。
「ぐわっ!?」
「やめて!やめてよ!お姉ちゃん!!鈴華さんは大切な友達なんじゃないの!」
刹那。シロさんから緑色のオーラが解き放たれ、リアラさんに衝突する。
「シロと新以外に大切なものなどありませんわ。」
「違う。いつもそうやって、お姉ちゃんは後悔する!」
「もうやめろよ!姉貴!自分を傷つけるな!」
何度倒れても何度弾かれても新とシロさんは立ち上がり、リアラさんに抗議する。
その様子を私達はただ眺めることしか出来ない。
「そう……だ……あの日、姉さんと……喧嘩して……目の前に……異形が現れて……あがっ!?あ、頭が……!!い、痛い!!!」
三人の攻防を見ていたカイトは突然頭を抱えて苦しみ出す。
体全身から紫色のオーラが溢れ出て、髪の色は白く変色していく。
「カイト!!!カイト!!!!」
私はどうすることできず名前を呼ぶ。だが、それを嫌がるようにカイトは暴れ、大声を出す。
「違う……僕は……俺は……アキラだ!!!……そうだ……俺は全部忘れて、生きてきてしまった!何もかもを忘れて!!!!」
刹那。カイトの背中から黒い背中が生え、瞳は赤く染まる。
瞳には大粒の涙が溢れていた。
ああ。本当にカイトが───────アキラだったんだ。
「あぁあああああ!!!やめて!やめてよ!お姉ちゃん!!!!!」
悲鳴にも似たシロさんの叫びに目線が移る。
膝を着くシロさんの周りからは瘴気が溢れ出て、次々に異形に形成していく。
「なに……あれ……」
よく見ると、リアラさんからも、新からも、アキラからも黒い瘴気が溢れ出て全てシロさんの所に集まっていく。
「私はシロと新を守らないと……守らないといけないのですわ!!!!」
リアラさんは正気を失ったように火球を形成し、辺りに打ち続けている。
アキラも頭を押え苦しみ続け、新も暴走するリアラさんとの戦闘で精一杯な様子だ。
シロさんの体はみるみるうちに闇に飲みこれていき、辺りには異形が徘徊し始める。
どうやら、みんな感情が高ぶって悪意に飲み込まれ、正気を保てていない様子だ。
特に危険なのは、シロさんだ。異形の闇に飲み込まれようとしている。
───────助けないと。
そう思った時、体が普段通りに動くことに気がつく。
そうか。リアラさんが正気を失っているから、言霊が解けたんだ。
「シロさん!今助けるから!!!!」
走り出した刹那、蒼い炎が視界に飛び込んでくる。
───────うそ、避けられない。
「大事ないか?鈴華よ。」
「え……?」
衝撃が襲ってこないことを疑問に感じた数秒後、聞きなれない言葉遣いに困惑する。
恐怖で瞳を閉じていたことを思い出し、ゆっくり瞳を開ける。
そこには髪を解き、神聖なオーラに包まれた神威さんがいた。
神威さんは私を守るように立ち、霊力を解放していた。
「神威……さん?」
「ああ、助けてやったぞ?まあ、お主の知る『美琴』ではないがな。」
「あなたは……一体……?」
目の前の神威さんは確実に私の知る神威さんではなかった。
何者なのか分からないということだけは、確かに分かった。
「ワシは『カムイミコト』。琴上家に仕えし、座敷童子じゃよ。」
「座敷……童子……?」
「説明は後じゃ。ゆけ。間に合わなくなるぞ。もうすぐ異界の門が開かれる。助けられるのはお主だけじゃ。」
「異界の門……」
刹那。シロさんを占った神威さんの言葉を思い出した。
『運命の扉、開かれる時、魂の在処を知るだろう。汝、鍵となる時は近い。その時、全ての謎は解かれるだろう』
なんて分かりづらくて抽象的な占いなんだ。
この事態をあの時既に予言していたのか。
「助かりました!行きます!!!」
「おう。お主ならやり遂げられる。皆を救う方法は扉の中じゃ。」
「シロさん!!!」
私は闇に飲まれ意識を失うシロさんを抱き寄せる。
───────ってあれ、あの後どうするの?
私も飲み込まれない?
刹那。
目の前に黒い扉が出現し、私とシロさんを飲み込んだ。
◆◇◆
目を覚ますと、そこは何も無い空間。
ただ白が広がっていくだけで、何もない。
横にはシロさんが倒れていた。
「あっ!シロさん!!」
「鈴華……さん?」
「おおお、起きたか!」
突然、背後から大きな声で話しかけられ、私もシロさんも飛び起きる。
振り返ったその場所には、見たことない白の服を着こなす黒髪の青年が、赤い瞳で見つめていた。
「だ、だれ?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「お?俺か!鈴華、お前の遠いご先祖さまだ!」
「はあっ!?」
「お前たちに現世を救う方法を教えてやるよ。」
第3章お読みいただき、ありがとうございます。今回のお話で第3章は終わりです。次週からは第4章(最終章)を開始します。お楽しみに!
またいつもご愛読頂きありがとうございます。評価やブックマーク、感想、など、お待ちしております。
ここから下は3章について書いていきます。興味のある方のみどうぞ。
第3章いかがでしたか。プロットを練っている時はかなり面白い話になるぞ!と思っていたのですが、中々賛否ありそうな空気を感じております。
特に鈴華がカイトへの想いを語るシーンの後から、圧倒的にアクセス数が落ちまして、友人からかなりバッシングを受けました。1章から3章にかけて、アキラへと想いの変化とカイトへの想いへの変化を書いていたつもりだったのですが、まだまだ力不足なのと、そもそも、初恋から別の人へという展開への受け入れが悪いことがわかりました。考えてみれば、自分もあまり好きな展開ではないので、書いてるうちに読む意識が抜けていたなと反省致しました。
また今回はミステリー的な部分が多く主人公以外の気持ちが見えないのが大きいのかなと思いました。書いてる側としては色んなキャラの生い立ちを知っていますが、それがこの話を読んで伝わるかは別の話なので、かなり今回苦戦しております。
日常回と恋愛回と回想あるので、なかなかテンポ悪いですが、何度も読んでキャラクターの魅力を感じて頂けたら嬉しいです。
4章からは全てがほとんどわかった状態で始まるので、言わば今回のお話は問題を出題、次回からは解答という流れになります。ようやくスッキリする展開になるかと思いますので、お楽しみに。
新キャラが沢山出てきて、展開も謎めいているので、混乱することもあると思いますが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
座敷童子(神威さん)引っ張った甲斐あって、めちゃくちゃかっこよくかけたと思っています。
今回は以上です。気になる点などありましたら、感想でお待ちしております。第4章もよろしくお願い致します。いつもありがとうございます。




