3章9話 愛しき人のためなら
リアラさんの別荘にて、シロさんや新と仲直りするための作戦会議が始まった。
続きの話は庭ではなく、中で行うこととなった。
リアラさんのお部屋に案内されると、大量の漫画や小説、アニメのディスクやCDが本棚に並んでいた。
部屋の中央には天蓋付きベッドが豪華に鎮座しており、部屋の高級さを引き上げている。
窓からは先程の庭が見渡せ、木のデスクが用意されている。
その他皮のソファやチェアやテーブルがあり、ティータイムや話をするには十分な空間も設けられている。
内装は柔らかいピンクで統一されており、マンションのワンルームぐらいはある広さだった。
「お部屋も広いですね……お部屋って言っても別荘でしたか」
「ですわね〜!実家の方はもーぉっとたくさんグッズがありましてよ!私的には1000年前のアニメシリーズコレクションが一番のお宝ですわね!」
リアラさんは楽しげにスマホの画面を見せてくる。写真の中にはこの部屋の本棚よりも更に大きい本棚に敷き詰められたグッズや本が目に入る。
私はそこまで詳しくないので、1000年前の作品と言われても区別はつかないけど、きっとすごい価値のあるものなんだろう。
私が気の無い様子で眺めていると、首藤さんが感心したように声を出す。
「凄いですね。1000年前の作品はほとんど今では見れないのに、漫画や小説、それにアニメのディスクまで、現存してしかもお持ちになっているなんて。」
「お分かりになりますか!?そうですわ!かなり苦労しましたもの!」
首藤さんの反応が嬉しかったのか、リアラさんは顔をグイッと近づけて喜んでみせる。
「よく残っていましたね。」
私は単純な疑問を言葉にする。
その言葉にリアラさんは優しく答えてくれる。
「異形の被害でデータはほとんど世界から消えていましたけど、モノの想いや熱意、大切な思い出は消えませんもの。付喪神の皆様のお力やモノの意識を復元される術師によって、再構成されたものを集めたのですわ!」
皮肉な話だと思った。
文明が進み、色んなものを電子化最適化している中、こうして残ったものは紙のものや色んな人達が想いをのせて形作ったモノだった。
研究者の人が言っていた1000年前の大災害は、本当に文明をリセットさせる世界の意思なのではないか、そう思った。
ルールを破った人間への制裁。そういう事もあり得ると思ってしまった。
「でもようやく納得がいきました。」
「何がですの?」
一息置いて話し始める首藤さん。リアラさんと私は疑問符を浮かべる。
「その話し方ですよ。アニメから影響を受けたのですね。」
「ああ!これですの!そうですわ!日本のアニメから、特に悪役令嬢から学びましたわ!」
「なんで悪役令嬢……。」
「……シロが私みたいで綺麗と言ってくれたのが、悪役令嬢でしたの。ふふ、強くてかっこよくて、時に冷酷で、でも誇りを持っていて、家族思い。そんな素敵な女性に私も憧れまして。見ているうちに日本語を覚えてしまいましたわ!
でも酷いですのよ?新ったらヘンテコな日本語だって!そういえば、その事でシロと新は喧嘩したりして。
ふふ、でも面白いのですよ?新ってば、聞いていったら、カタコトで話していた私の言葉が可愛かったから、喋るようになったの嫌だって言いましたの。可愛いですわ。」
昔を懐かしむように微笑むリアラさん。
本当に二人のことが好きなんだろう。
私と首藤さんは和やかな気持ちで見つめる。
その視線に気がついたのか、リアラさんは急いでチェアに私と首藤さんを座らせる。
「私ったら、お客様を立たせたまま話続けておりましたわ!ささ、座ってくださいまし!申し訳ありませんわ!私、二人のことになると、話が止まらなくて。」
「いいんですよ。二人のことを話しているリアラさんとっても幸せそうで、こっちも幸せな気持ちになりますから。」
「そ、そうですか?なんだか、お恥ずかしいですわ。」
顔を隠して耳まで赤くなるリアラさん。
本当に二人のことになると乙女というか、一歩引いて話すいつもの空気とは異なる。
いつもはどちかと言うと淑女であろうと、求められている姿であろうと、気高く振舞っているから新鮮だ。
私たちが席に着いたところで使用人の方が入室し、飲み物を出してくれる。
リアラさんにはアイスコーヒー、首藤さんは紅茶、私はオレンジジュース。
大人の女性にはまだ程遠いようだ。
使用人の方は退室し、私たちはそれぞれに飲み物を口にする。
口の中にオレンジの風味が広がって、清涼感に包まれる。
ふう、慣れた飲み物はこんなにも美味しいのか。
「あの、これまでのお話を聞いてひとつ思いついたのですが……」
飲み物を飲み一息ついたタイミングで首藤さんが挙手する。
「なんですの!妙案が浮かびまして!?」
首藤さんの言葉に身を乗り出すリアラさん。今日この光景何回見たんだろう。
「リアラさんはお2人に完璧を見せすぎなんだと思います。リアラさんはお二人を大切に思うばかり、なんでも自分でやってしまっている……違いますか?」
「あはは……たしかに、そう……かもしれないですわね。」
苦笑いをしてみせるリアラさん。どうやら、首藤さんの言葉は的を得ていたらしい。耳が痛い様子だ。
私も話を聞いているとそう思った。
御三家の家柄的な事情はあるだろうが、結局は新もシロさんも頼って欲しかった、一緒に頑張りたかった、が根底にある気がした。
それをリアラさんは必要としなかった。そういうつもりはなかったかもしれないけど、二人はそう感じたんだと思う。
「その隙のなさが、お二人との距離だと思うんです。つまり、もっと隙を見せてもいいんじゃないかと思います。」
「隙を…見せる……?うーん、あまりピンと来ないですわ。どうすればいいのかしら。」
思い悩むリアラさん。きっと本人は本当に困っていない。シロさんもリアラさんは昔からなんでもできてしまう、と言っていた気がする。
もう少し話を聞いてみるか。首藤さんの切り口は悪くないと思う。
「リアラさんは苦手なことってないんですか?」
「ありますわよ!!規則!ルール!命令!責務!任務!業務!縛られるのは嫌いですわ!」
「それは嫌いなことですよね。お作法やお勉強、ゲームや運動。どれも得意ですよね?」
「まあ……そうですわね……」
「なら、できないことはありませんか。これだけは上手くできないみたいな」
「……笑いませんこと?」
リアラさんは顔を伏せて赤面している。苦手なことやできないことを話すのは、怖いことだ。
なんでもできて当たり前なお嬢様として生きてきたのだから、恐らく隠してきたことだろう。
「笑いませんよ。できないことあるなんて当たり前なんです。それを許してもらえる環境ではなかったかもしれませんが、今は私たちしかいませんから。」
「私も笑いませんよ。私はできない事ばかりですから。すぐ驚いてクビを伸ばしては周りの人をびっくりさせたり、彼氏に助けてもらったりそんな感じです。」
リアラさんは私と首藤さんの言葉を聞くと、頷き深呼吸をしてみせる。
「お菓子……作り……が苦手……ですわ。りょ、料理はできるんですのよ!?でもお菓子作りって量とか工程とか決まってて、ちょっとしたミスでカバーできないぐらいの大惨事になりません!?出来上がったお菓子もどうも美味しくなくて……」
早口で話し始めるリアラさん。なんだ、ちゃんと親しみやすい所あるじゃない。
私と首藤さんは笑わないと言ったものの、つい笑ってしまった。
「あぁ!?笑いましたわね!?笑わないとお約束しましたのにぃ!」
リアラさんは顔を真っ赤にして怒ってみせる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。思ったより普通のやつ来て、なんだか急に親しみやすくなったなあって」
「ですね。とっても可愛らしい悩みです。お菓子作りは良いものを知っていればいるほど、難しくなりますよね。いいです。それで行きましょう。」
弁明もそこそこに、どうやら、首藤さんの中で作戦はまとまったらしい。
「ええ?」
リアラさんは首藤さんの言葉にキョトンした表情で固まる。どうやらこれから何をしようとしているのかわかっていないらしい。
とってもちょうどいい苦手なことだと私も思う。
「まだピンと来てないんですか。首藤さんの狙い。」
「ええ?」
まだ理解できていないリアラさんに、首藤さんは立ち上がって微笑む。
「シロさんと新さんにリアラさん特製のお菓子を作りましょう!」
「えええええええっ!?」
リアラさんの大きな声が部屋中に響き渡った。
苦手なことを頑張って取り組み、大切な人に贈り物をする。
これで仲直りできないわけがない。
出来はどうであれ、想いを届ける良いきっかけになるはずだ。
◆◇◆
作戦はまとまったが、料理の練習は後日に回すことになった。
というのも、移動の時間を考えるともうそろそろ帰る時間に迫っていたからだ。
何を作るか三人で動画を見たり話し合ったりしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。
料理場の準備も整えないといけないし、服も着替えないといけない。
材料や器具はどうにかなるみたいだけど、どうせやるなら買い出しもきちんとしたいらしい。
「名残惜しいですが、さよならですわ。」
玄関前。リアラさんは悲しそうに呟いた。
「次回絶対作りましょう!きっとうまく行きますよ!」
「私達も協力しますから。大丈夫ですよ」
私と首都さんは落ち込むリアラさんを励ましてみせる。
「ですわね!次会えるのを楽しみにしておりますわ!忘れ物はありません?大丈夫ですの?」
もう執事さんが車を用意してくれているが、リアラさんが引き止めてくる。
執事さんは穏やかに微笑んでいる。
私は言われた通りに自分の荷物を確認する。
あれ、スマホがない。
「あれ……」
「どうしましたの!?」
「いや……スマホがなくて」
「あら……」
「大変ですわ!!!!!」
小さな鞄には小道具も財布しか入っていない。慣れないドレスなんて着ているせいで、どこかにスマホを置いてきてしまったらしい。
「多分、お部屋に置いてきてしまったと思うので、取りに行きますよ。ごめんなさい、ちょっとまっててください!」
「私も行こうか?」
「私も行きますわ!迷子になってしまいまわ!」
「大丈夫です!直ぐに戻るので!」
私は心配そうに着いてくる首藤さんとリアラさんに微笑み返して、早歩きで部屋まで戻る。
階段と長い廊下を超えて、意外と簡単に部屋までたどり着く。
大きな扉を開けて暗い室内に入ると、テーブルの上にスマホが置きっぱなしになっていた。
「あったあった!これでよし!戻ろっと!」
私は今度こそスマホをカバンにしまい、部屋を後にする。
部屋の前にはリアラさんが待っていた。
「あ、本当に良かったのに。」
「スマホはありまして?」
「はい!ご心配おかけしました!」
「そう。それは良かったですわ。さあ、セバスも待ってますわ。行きますわよ?」
リアラさんは上品に微笑むと、私に手を差し出してくれる。
この人、本当に美人だなあ。
リアラさんに手を引かれ歩いていくと、私が来た道とは逆方向に進み出す。
「あれ、リアラさん……」
「ああ、こっちの方が近道ですのよ?」
「ああ、そうなんですね。確かに廊下長いですもんね。」
そのままリアラさんに手を引かれついて行くと、先程お茶を楽しんだ庭に案内される。
庭から玄関に行けるのかな。
刹那。
カバンの中のスマホが震えた。
「出て構いませんことよ。」
「え?あ、はい。」
私はリアラさんに促されるままスマホを取る。
スマホの画面には───────リアラさんからの着信が表示されていた。
「───え」
頭の整理が追いつかず目の前のリアラさんを見やるが、真っ白な手が伸びてきて喉を締められる。
「あぐっ!?」
「やっぱり間抜けですわね。『鈴華』」
目の前のリアラさんは不敵に笑ってみせる。違う。この人はリアラさんじゃない。
「あ……な……た、だれ?」
私は何とか声を絞り出す。
私の鳴り続けるスマホを目の前のおんなが奪い、そのまま電話に応じる。
『あ、鈴華さん!見つかりまして?』
「はい。リアラさんが鳴らしてくれたお陰で、見つけられましたぁ。」
「っ!?」
目の前の女が出した声に私の全身は震えた。
私の声だ。
リアラさんの見た目で、私の声で話している。
どういうこと?
「今戻りますね。リアラさん。」
『はい!待ってますわ!』
「リ……ア、ラさ、ん……助け────」
私は何とか声を絞り出すが、無情にも電話は切られてしまう。女はそのままスマホを投げ捨てる。
「フフ、あまり手間をかけると、見つかっちゃうからね。お前に恨みはないけど───────死んでよ。鈴華。」
「あぐっ……!?」
女の顔は次第に変質していき、顔が消えていく。
この前、先生に化けていたのっぺらぼうだ。
また、こいつか!
ダメだ。意識が遠のく。
なんでコイツは私を狙ってるの?
こんな所で死にたくない。
まだやりたいことが───────
「そこまでですわ!」
刹那。
蒼い炎が迸りのっぺらぼうに直撃する。
私の体はのっぺらぼうから解放され、自由となる。
自由となった私の元へ首藤さんとリアラさんが駆け寄る。
「大丈夫ですか!鈴華さん!」
「チグサさんに鈴華さんとスマホを探させておいて正解でしたわ。」
そうか。首藤さんの人魂飛ばしか。二人の心配性に助けられたな。
「厄介な能力ですわね。チグサさん。そこの女に利用されているとも知らずに、滑稽なことですわ。」
吹き飛ばされたのっぺらぼうは立ち上がり、リアラさんの姿に変わる。
実物と見比べても見分けがつかない。
「私のモノマネをして、鈴華さんを傷つけるとは、許せませんわ!正体を明かしなさい!」
「それは無理ですわね。私は私。一番よくわかっているでしょう?あなたは平気で人を利用する。あの二人のためなら、何を犠牲にしてもいいと思ってる。自分の胸中など話すわけがありませんわ。───────ねえ、そう思うでしょう?チグサさん。」
刹那。目の前から偽物は消え、私のそばにいた首藤さんが蹴り飛ばされる。
「首藤さん!!」
「なっ!?」
首藤さんは蹴り飛ばされ転がると、意識を失っていた。
「これで逃げても追跡されることはありませんわね。」
「この!!!!」
リアラさんは振り返り、蒼い火球を放つ。
だが、同様に偽物も全く同じ蒼い火球を放ち相殺する。
「なっ!?私と全く同じ力!?なんという精度の変化ですの!?」
どうやら偽物とリアラさんの実力は同じらしい。
前回現れた時もそうだった。犬飼はアキラの偽物には勝てず、雨野くんの偽物には勝っていた。
つまりのっぺらぼうは能力も含めて、正確に変化できるということだ。
それにあの偽物はこの前見ただけでもアキラやカイト、雨野くん、先生にまで変化出来ていた。
もし仮に変化できる数に制限なく、全ての力を使えるとしたら、リアラさんの勝ち目は薄い。
一体何者なの?
「そこまでの精度の変化には膨大な力を使いますわよね?ここで引くなら見逃して差し上げますわよ?」
「勝ち目が薄いと判断するなり、交渉ですか。意地汚いですわね。立場が上なのは私でしてよ。───────跪きなさい。」
「ぐっ!?……言霊まで」
リアラさんは偽物が発した言葉によって膝を着き動けなくなる。
「そこで見ていてくださいまし。あなたに興味はありませんの。私は鈴華を殺せたらそれで十分ですわ。」
偽物はゆっくりと私に近づいてくる。
「……教えて。私を殺したら、それで終わる?」
何も出来ない。殺される。
そう思った時、何故かそんな言葉が零れた。
多分今、私は戦う理由を、明確な悪意を求めている。
ここで死にたくは無い。それでもここまで強く私を狙うなら、偽物にも理由があるんだと思う。
それが私に対するものまでなら許す。
もし他の人に危害を加えるなら、許さない。
「終わらない。……次は海道カイトの番だ。」
「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中の何かが切れた気がした。
私以外に危害を加えるなら、容赦はしなくていい。
殺されたって、文句は言えない。
人に向ける殺意を私も向けるだけだ。
「なら───────お前を殺してやる。」
「っ!?」
刹那。
自分でも吐き気を催すほど邪悪な感情が溢れ出た。
体全身から嫌な気配が溢れ出し、泥のような黒い霊力が湧き出てくる。
空は黒く染まり、大地は白と黒を反転しながら形成していく。
止まらない。溢れて、抑えられない。
こいつをコロシタイ。
コロシタイ。コロシタイ。コロシタイ。
「あーらら。これはちょっと厄介だね。やめやめ。やめておくよ。もうしない。落ち着きなよ。鈴華。」
偽物はいつの間にか桃色髪の少女へと変貌していた。
少女が優しく微笑むと少女の体から優しい光が溢れ出し、気分が安らいでいく。
なにこれ。
殺意が、怒りが、負の感情が消えていく。
青い着物に桃色の髪の毛。どことなく誰かに似た横顔。
体育祭の日。出会った人だ。
「鈴華さん……大丈夫ですの?」
リアラさんは警戒するような眼差しでこちらを見つめてくる。
あれ───────私今なにして。
気がつくと、そこには自然豊かな庭が広がっていて、意識がぼんやりしていることに気がつく。
いま何してたっけ?
「は、はい。な、なんともないです。」
私は回らない頭で何とか言葉を口にする。本当に一瞬意識が飛んでいたみたいだ。
無理もない。さっきまで首を絞められていたんだ。
「よかった……ですわ。時にあなた、そんな死人の真似事をして、この場を立ち去るということでよろしいのですか?」
リアラさんは切り替えるように目の前の少女に語りかける。
「リアラさん、あの人知ってるの?」
「あの方は、いえ、あの方が模倣しているのは7年前に亡くなられた『宮ノ森麗』さんですわ。アキラさんのお姉さんですわ。」
「アキラの……お姉ちゃん……」
そうか。誰かに似ていると感じたのは、アキラにどことなく似ていたんだ。
「もう襲わないよ。さすがに鬼の力は手に負えないからね。」
腕を後ろで組み鈴の音のようにコロコロと笑ってみせる。さっきまでの敵意をまるで感じない。
「目的はなんでしたの?こんなリスクのある大胆な行動に出たのに、ここでやめますの?意味がわかりませんわ。」
リアラさんの意見は最もだった。
こんな行動に出たのに、突然引き下がるのはよく分からない。
「……まあ、そうなるよね。これはボクの独断だったんだよ。
ボクの主は鈴華を殺すことを目的としているけど、それは今じゃないんだよね。
ボクはそんなくだらない復讐なんてさっさとやめて欲しいからさ。先に君を殺そうと独断で動いたわけ。
でも正体を明かす訳にはいかないんだよね。今バレると、主の計画はパーだ。
まあ、それはそれでボクの目的は果たされるんだけど、たぶんそれをしたら、彼はきっと、一生ボクに心を開いてくれなくなる。それは嫌なんだ。
だから、追跡も追求もしないで貰えると助かるよ。ボクは彼の復讐を止められなかった。それだけのことさ。」
「なんて自分勝手で傲慢な行動ですの。」
「何とでも言ってくれていいよ。ボクは追放されてからずっとこんな感じなんだ。彼がボクの世界の全てなんだ。誰にもそれは覆せない。
……まあ、でも、リアラ、キミはボクに感謝してもいいぐらいだと思うけどね。これで君も迷うことなく計画を進めることができる。ボクの主はさぞお喜びになる。
……ああ、安心していいよ。君が危惧するようなことは主は興味が無いんだ。
海道カイトに復讐すること。そのために鈴華を殺すこと。そして、記憶を取り戻させること。その三つしか彼にはないからね。
……ああ、でも、リアラ、君が情に絆されて計画を取りやめたら───────どうなるかは分からないけどね?」
「どういうことですの。」
リアラさんを挑発するような偽物の言葉に、リアラさんは真っ向から睨みつけて答える。
二人の言い合いが白熱しているのはわかるが、私の頭の中にまるで話しが入ってこない。
この前九尾の力を使った以上に疲労感がある。
物騒なことを言われているのはわかるが、返せるほど元気はない。
「賢い君ならわかっていると思うけどね。それじゃあ、せいぜい生き延びてね。鈴華。」
偽物は不敵に笑い不吉な言葉の数々を残しながら消えていく。
最後に私を見つめて。
「……ごめんなさい。」
偽物が居なくなった庭の中。
安堵する私を他所にリアラさんは小さく呟いた。
私にはそれが何を意味するのか理解できなかった。




