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3章8話 抱えてきた想い


 土曜日。私と首藤さんは予定通り、リアラさんの別荘へ招かれていた。


 想像以上の洋館。扉を開けると、レッドカーペットが轢かれている。豪華な照明が照らすカーペットの先には、ホテルでしか見ないような大きな階段。2階の踊り場からは1階を見渡せるようになっており、家に来たと言うよりホテルに来たイメージの方が近い。


 ウチのお屋敷も大きいとは思うけど、ここまでではない。


 大鳳さんにしろ、リアラさんにしろ、桁違いのお金持ちが身近にいたものだ。


 リアラさんはいつも通り赤いドレスを身につけ、私たちを出迎えてくれる。


 ここまでの道のりはいつも通り執事さんが車で送迎してくれた。


 執事さんは和やかに微笑むと、その場を後にする。寡黙で落ち着いた人だ。


 「ようこそ!いらっしゃいましたわ!お二人とも大変お綺麗ですわ!」


 リアラさんは弾けるような笑顔で階段を駆け下りてくる。


 首藤さんはリアラさんの指示通り淡いベージュの着物姿で来ている。いつもの赤い着物は好きで着ているだけで、本来はこういった落ち着いた色でお茶をするらしい。


 私は青いドレスに少しのアクセサリーを身につけている。


 この内装を見たら、きちんと準備しておいて良かったと安心する。


挿絵(By みてみん)


 「今日はお招き頂きありがとうこざいます。」


 首藤さんは丁寧に頭を下げる。私もそれに続いた。


 「話には聞いていましたけど、ほんとにお嬢様なんですね。」


 「オホホ!これでも世界的に有名な名家でしてよ?それでは、ゆっくりお話したいので、行きますわよ!メイドに紅茶を用意させておりますの!お庭でお茶会ですわ!もちろん、チグサさんのお茶会用の部屋も用意してありますけど、まずはゆっくりお茶を楽しみましょう?」


 ニコニコと煌びやかに笑ってみせるリアラさん。私と首藤さんの手を取ると庭へと案内される。


 通り過ぎる道全てに使用人と思われるメイド、執事が並んでおり、それぞれに頭を下げる。


 本当にお嬢様ね。


 私と首藤さんは話す暇もなく、リアラさんに圧倒されて、着いていく。


 「そ、想像以上だね」


 「フィクションでしか見ないですよ、こんな立派なお嬢様。」


 「ふふ、皆さんそう言われますわ。存分に楽しんでくださいまし!」



 案内された庭には綺麗な花たちが色とりどりに咲き誇っている。


 中央には円柱が立ち並ぶ壁のない円形の建物があり、メイドと思われる女性がお菓子とお茶を台に積んで佇んでいる。


 「あそこでお茶会ですわ!」


 リアラさんは案内を終えると、円形の建物へ駆け出す。


 「別世界すぎる、あんなの家にあるものなんですか」


 「モノプテロスですよね。古代ギリシャやローマ建築の。庭園にあるイメージはありますけど、流石に貴族すぎますね。」


 「早く早くですわ!」


 子供のようにモノプテロスで飛び跳ねるリアラさん。メイドの女性は一礼してみせると、私たちに座るよう促す。


 「私、お茶会とかルール知りませんよ?」


 「私も洋風なのは初めてです。……ティースタンドのお菓子は下から食べるらしいですよ。」


 「ティースタンド!?」


 「カップの持ち手には指を通さないらしいです。」


 「どうやって飲むの!?」


 「スプーンは紅茶を混ぜたあと、ソーサーに置いて飲むらしいです」


 「ソーサーって何!?」


 私たちは小声でそんなやり取りをしながらぎこちなく座ってみせる。


 首藤さんめっちゃ詳しいじゃん!え?私だけ?調べてこなかったの。


 いやだって、こんなに本格的だと思わないじゃん。


 『私の別荘に集まってお茶会をしましょう!』じゃないよ!!!!


 超本格的な会じゃん!


 「遠慮せず食べてくださいまし!そしていっぱいお話しましょ!」


 ニコッと微笑むリアラさん。


 メイドの方はテーブルの上にお菓子やサンドウィッチ、スイーツを並べ私たちに紅茶を注ぐ。


 「カジュアルな場ですので、お作法はお気になさらず。私はこれで。」



 メイドの女性は小さな声でそう言うと一礼し去っていく。


 なんて素敵なメイドさんなんだ。


 私たちはようやく3人になれて気持ちが落ち着く。


 まあ、なるようになれだ。私はゆっくり慎重にカップを持ち上げる。意気込んだはいいものの、緊張で手が震えている。ようやく緊張の一杯を口にする。


 「あ、おいし。」


 口当たりがよく飲みやすい。香りもしつこくなくちょうど良いと感じた。


 「では、私も。」


 首藤さんもカップを持ち紅茶を口にする。流石に茶道を心得ているだけあって、気品がある飲み方だった。私は指先が震えていたにもかかわらず、静かな飲み方をして見せた。


 「本当ですね。飲みやすいです。」


 「よかったですわ。お口にあって。」


 話しながら、カップを手にするリアラさん。親指と人差し指で軽やかに持ち上げ、中指でカップを支えて紅茶を飲む。


 流石に慣れている。持ち方が美しいと感じた。


 動きづらそうなドレスを着ているのに、姿勢を乱すことなく紅茶を口にする。


 「うん。美味しいですわ。……さ、お菓子もお食べになって?」


 私たちはリアラさんの言葉に続いてサンドウィッチやお菓子を楽しむ。


 紅茶を飲んだおかげか気持ちがリラックスしてくる。


 サンドウィッチも、お菓子も、口当たりがよく食べやすい。


 紅茶を口にする度にその美味しさや香り、甘さが引き立ち、幸せな気分になっていく。


 「ありがとうございます。いつかの約束の覚えててくれたんですね。」


 「もちろんですわ。あの時は鈴華さんとってもお菓子食べたそうでしたから。」


 神威さんの件の時だ。


 車の中で私とリアラさんはお菓子を食べ損ねた。


 「そういえば、今日シロさんは?」


 私は姿の見えないシロさんについて尋ねてみる。


 「新のところですわ。元々そっちがお仕事ですから。」


 「リアラさんの使用人ではなく?」


 「はい。ムラクモ一族は代々琴上家に仕えていますからね。」


 悲しそうに呟くリアラさん。てっきり、シロさんはリアラさんの従者だと思っていた。やはり根深い事情がありそうだ。


 「えっと、あの、そのお話は私が聞いても良かったんですか?」


 そこまで話したところで、首藤さんが小さく手を挙げる。


 確かに、今日は首藤さんがいることで話しづらいことも多い気がする。


 「ああ、そういうことですの。私は霊能者ではなく、エクソシストですから、お気になさらず。」


 「えっと、そのふたつってどう違うんですか?」


 返答の意味が分からず私はそのまま尋ねる。リアラさんは一瞬驚いてみせるが、すぐに解説を始めてくれる。


 「あら。知りませんでしたか。


 霊能者は一般的に霊能協会に所属する方達で古来から妖怪退治を生業としてますの。


 今は霊的な現象や異形に対する対策をする場所……みたいな感じですわね。


 霊能協会は人類や妖怪を守ることを使命としているので、世界の敵となる異形や危険分子は全て倒すことを目的としておりますの。


 さらにいえば、混乱を避けるために絶対の秘匿義務がありますわ。」


 リアラさんは紅茶を口にしながら簡単に説明してみせる。


 話を聞いていると、私がイメージしていた通りの組織に感じる。


 つまりは、よくわかっていないのはリアラさんの組織だ。


 「それで、エクソシストというのは?」


 私が続いて質問すると、今度はクッキーを手にして解説を始めるリアラさん。


 「日本ではあんまり馴染みがないのかもしれないですわね。


 私はエクソシストで、日本語的には祓魔師?日本的には退魔師でしょうか。所属しているのは祓魔師連盟ですわ。


 もともとは悪魔を祓うことや邪悪な場所を祈りや聖水、信仰心などで正常に戻す役割を担っておりましたわ。


 こちらには妖怪というものがあまりいなくて、モンスターや悪魔というのがメジャーですわね。


 悪事を働かないものは妖精や天使というふうに定義しておりますの。


 今は新たに異形が現れましたから、その実態の解明や把握が役割となっておりますわ。調べたり、保護したりすることを目的としておりますから、特例を除いて秘匿義務はありませんの。異形のことは世界に必要な情報源のひとつですわ。


 ですから、私はお話できることしか話してませんので、心配ありませんわ。」


 解説を終えると、リアラさんはクッキーを口に微笑んでみせる。


 確かにリアラさんは異能の知識に長けている節があった。


 霊能協会とはそもそも在り方が違うんだ。だからこそ、簡単に情報提供してくれたってことか。


 考えてみれば、私が隠さないといけない事も宮ノ森家とシノビ一族のことぐらいだ。


 本来なら異形の実態は隠すべきことだけど、首藤さんは神威さんが異形化しているのを見ているから問題ないだろう。


 それでいくと、首藤さんがいても、問題ないということだ。


 「そもそもお誘いしたのは私ですから、お気になさらず。」


 「そういうことなら……でもどうして今日私も招待してくれたんですか?」


 安心するよう声をかけるリアラさんに質問を返す首藤さん。確かに招いた理由はよく分からない。


 「え!単純にお友達と遊びたかったからですわ!ダメですの!?」


 「い、いや!だめではないですけど!」


 テーブルから身を乗り出して瞳を大きくさせるリアラさん。その勢いに負けて顔を背ける首藤さん。首藤さんの言葉を聞いて落ち着いたのかリアラさんは着席して続ける。


 「それに……私から直接お話を聞いた方が安心できますでしょう?仕方なかったとはいえ、私は鈴華さんを監視していたのですから。」


 なるほど。私を心配する首藤さんに気を使ったのか。

 

 たしか、黒天使をエクソシストの仕事で調べてたんだっけ。それで接点のあった私も調べていた、みたいな感じだった気がする。

 

 私はせっかくなので、その辺の話も聞いてみることにした。


 「黒天使のこと調べていたんですもんね。」


 「そうですわ。エクソシストとして調べていましたの。」


 「その辺のこと、詳しく教えて貰えたりとかは……?」


 私はダメ元で聞いてみる。祓魔師連盟が何故黒天使のことを調べたがったのか、リアラさんがどんな情報を得たのか知りたかったからだ。


 「さすがにまだ憶測の域を出ないことばかりですから、お伝えすることはできませんの。」


 リアラさんは申し訳なさそうに言ってみせる。


 「そうですよね……」


 私はそんな相槌が打てず、微妙の空気となる。


 「ただ、これだけは言えますわ。どんなことになっても、私たちエクソシストは、黒天使を保護することしか致しませんわ。」


 リアラさん真剣な眼差しで見つめてくる。


 「そうなんですね。」


 私は気のない返事しかできなかった。


 リアラさんなりに励ましたつもりなんだろうけど、裏を返せば、霊能協会は黒天使を討伐する可能性があるということだ。


 ───────もしかして、七年前もそういった事情が絡んでたりして。


 そこまで考えたところで、空気を変えようと首藤さんが口を開く。


 「……それで私と鈴華さんに相談があるんですよね?」


 そうだった。今日の目的はリアラさんからの依頼の作戦会議だ。


 「そうでしたわ!作戦会議ですわ!」


 思い出したかのように手を叩くリアラさん。


 私は話を進めるためにリアラさんの話を聞くことにした。


 「教えて貰えますか?三人のこと。」


 「………そうですわよね。」


 リアラさんは私の言葉に表情を曇らせる。その後、懐かしむように瞳を閉じた。



 

 ◆◇◆



 知っての通り、私は琴上家とフラワーガーデンの間で生まれました。


 新とはいとこの関係ですわね。


 そして、琴上家に仕える『ムラクモ一族』のシロと出会いましたわ。


 私が年上というのもあって、2人とも私の事を『お姉ちゃん』と呼んで慕ってくれていましたわ。


 シロは妹みたいに私のあとを着いてきて懐いてくれていて。


 新はなんでもできてしまう私に対抗心を燃やしながらも、私を想ってくれていましたわ。


 今思えば、期待をされ続ける私を解放しようとしてくれていたと思います。



 考えてみれば、私は3人でいる時がいちばん満たされていたと思いますの。


 周りから期待され、友人もどこかよそよそしく、私が私であることを必要とされていない。そんなふうに感じることは多かったですわ。


 でもシロや新は違いましたわ。


 誰よりも私の事を想ってくれて考えてくれて、沢山の愛情を向けてくれていましたの。


 私はそれが心地よくて。それだけで良くて。その為だけに生きて頑張っていましたの。


 今もその想いは変わっていませんし、きっと、二人も変わっていないのだと想いたいですわ。


 ただ、私は贅沢ですから、少しでも心のどこかで前のような関係を求めてしまいますの。


 今のような、溝のある関係ではなく。



 溝ができた理由というか、原因は私にありますの。


 本当に私がおバカさんだったのですわ。



 ある日のことです。それこそ、今から七年前だったと思います。


 宮ノ森が滅んでしまったことで、琴上家が求められる役割は次第に増えていきましたわ。


 その結果、より早い段階で時期当主を決めることになりましたの。


 そこで選ばれたのは新と私でした。


 新はそれまでにぜったいの自信を持っていましたわ。


 次期当主になるのは自分であると。


 私もそれが望ましい結果だと思っていましたの。


 私は確かに琴上の血を引いていますが、あくまでも外の人間。


 でも当時の当主は悩まれた。


 ご先祖さまの力を使う直系の新。


 新と同じくご先祖さまの力を使う私。


 新にはそれまで私が同じようにご先祖さまの力を使えることは隠しておりましたの。


 新を傷つける結果になるとわかっていたから。


 私がご先祖さまから継承した力は鈴華さんと同じ九尾の力。


 琴上家が最も求めていた力でしたわ。


 新の力は言霊。その力は時代の中で混じったもうひとつの御三家『百合野』の力。それも、百合野に仕えた『コトノハ一族』の力。


 私の力の方が琴上家当主に相応しいとお考えになったのですわ。


 今考えてもくだらないことだと私は思っています。


 それでも新は私に嫉妬しましたわ。



 次第に新との仲も微妙になっていたのを覚えていますわ。


 新とは仲が悪くなってどうしたらいいのか思い悩む私にシロはいつも以上に元気でしたわ。


 シロにとっては嬉しいことだったのですわ。


 私が琴上家の当主になれば、シロは私に仕えることができる。


 今は新と上手くいっていなくても、いずれ仲直り出来る。そういう考えでしたわ。


 私はその時、怖いと思ってしまったのです。

 

  琴上家自体に激しい嫌悪を抱いたのです。


 心の底から思いましたわ。私の新とシロを返してと。


 あんなに無邪気で楽しく過ごしていた二人は、もうどこにもいなかったから。


 家の呪いだと思いましたわ。


 この家が2人をおかしくしたのだと。



 くだらない。


 そこでようやく気がついたのですわ。


 私は名誉も役割も責務も期待も心底嫌いだと。



 己で動き己が欲望のために自由に生きる。


 それこそが人であると。そうあるべきだと思いました。


 簡単に言えば、ずっと大切にしてきた絆まで壊されて、重すぎる重圧や周りの期待に答えるのが嫌になったのです。


 そこまでして、役割に固執したくなった。


 だから私は一番やってはいけない間違いを犯したのです。






 ───────新に決闘を挑み、わざと負け、琴上家当主の役割から逃げました。


 そうすれば、みんな幸せになれる。そう信じておりましたの。


 私も我慢することなく、新は求めていた通りに当主になり、シロともこれまで通りに戻れる。


 そうなれると、信じておりましたの。


 でもそんなことにはなりませんでしたわ。


 私が2人のことを理解していなかったから。





 もうお分かりになると思いますが、新もシロも私が手加減したことを理解していましたわ。


 結果、当主は新になりましたけれども、新はこう言いましたわ。



 『本気で戦って欲しかった。こんな戦いに意味はねえよ。本気でやって、本気で負けるなら、文句はなかった。俺はアンタを支えたかった!俺じゃあ、役不足だって言うのかよ!!』と。


 その言葉を聞いて初めて理解しましたの。新は嫉妬をしていたんじゃない。


 私を支えることが守ることができなくて悔しかっただけなんだと。


 そんな想いを私は踏みにじった。



 

 そしてシロは私に、よそよそしく接するようになりましたわ。



 『お姉ちゃんは私がそばにいるのは嫌だったんだね。……ごめん、ごめんね。』


 そんな言葉を最後に言われましたわ。


 その言葉の意味が私にはわかっていませんでしたわ。


 ムラクモ一族であるシロにとって、当主ではない分家の私に仕えることは有り得ない。よその人間として接することを一族に求められましたわ。


 だって、シロが仕えることになったのは、新になったのですから。


 今でも傍にいてくれますが、それは新が命令をし日本いる時だけ。


 それから私たちは微妙な関係のまま、今日まで過ごしてきたのですわ。




 ◆◇◆



 リアラさんは話終えると、冷めた紅茶を飲み干す。


 「リアラさん……」


 私はなんと声をかけていいのかわからずに、ただ、名前を呼ぶことしか出来ない。


 「ごめんなさい。こんな重たい空気にするつもりはなかったのですわ。ただ、ほんの少しでもいいので、昔みたく笑い合いたかったのですわ。」


 諦めたように微笑むリアラさん。


 リアラさんは立ち上がると、「冷えてきましたわね。中に戻りましょうか。」と寂しそうに呟く。


 わたしは見ていられなくて、その手を掴んだ。


 「……鈴華さん?」



 「諦めないでください!どう考えても琴上家が頭おかしいだけです!」


 「私も鈴華さんに同意です。別に分家でも、当主じゃなくても、これまで通りにしたって問題ないと思います。」


 私の言葉に首藤さんも続いてくれた。その言葉を背に私も続けた。


 「昔みたく仲良くしたいんですよね?別にいいじゃないですか。大切に想いあってる3人なんでしょう!行き違いや誤解なんて、仲良くても起きます!それがたまたま御三家っていうタチの悪い環境だったから拗れただけのことです!やりましょうよ!今からだって、遅くない!!!!」



 きっと私みたいに失って後悔してからじゃ遅い。


 私はアイドルを辞めた。自分に嘘をつき続けた。仲間に向き合えなかった。仲間に裏切られた。夢から逃げた。アキラに手を伸ばすことしかできなかった。


 いつも後悔してばかり。だからこそ、誰かに同じ想いなんてして欲しくない。

 

  そこにあるなら、迷うなんてダメだ。諦めるなんてダメだ。


 他のどうでもいい人達に左右される人生なんて、だれかが許しても私が許さない。


 リアラさんは方法こそ違えたかもしれない。二人にきちんと向き合えなかったのかもしれない。


 それでも抱いた想いは純粋で、諦めていいものじゃない。


 やりたくない事や辛いことから逃げてもいいと思うから。リアラさんは間違えていなかったと思うから。


 その選択に後悔がないなら、大切を見つけて、新しい道を進めるって知ったから。


 「協力します。契約とか抜きにして、私は本気です。」


 リアラさんの手を握り、わたしは言い切った。


 「私も協力しますよ。だから、ね?」


 首藤さんも隣に立ちリアラさんの手を取る。


 リアラさんは涙ぐみながら私たちを抱きしめた。


 「私、もう一度、二人に向き合ってみますわ。」



 どうやら、私と首藤さんはリアラさんの背中を押すことに成功したらしい。

  具体的なことは何も決まっていない。

  ほんとうの作戦会議はこれからだ。


 それでも、リアラさんが長年抱えた想いに決着はつけられたと思う。


 今後どうするかなんて、結局はリアラさん次第なんだ。




 でも何故かこの時リアラさんの話に一つだけ違和感を感じていた。


 役割を嫌うリアラさんは何故、エクソシストの勤めを果たすために、この地に来たのか。


 それも黒天使を調べるために。


 そして、その黒天使はアキラだった。

 

  これは本当に偶然?


 リアラさんの仲直りを協力したいと思う反面、やはりまだどこかリアラさんを信用出来ずにいた。


 リアラさんの話は多分全部本当のこと。でも、どこか裏を感じるのは確かだった。


 



『御三家の人間が打算なしに人に力を貸すわけがない。』

 


 不意にアキラの言葉が脳裏によぎった。



 悪い方向に考えるなら、リアラさんは私たちを利用していて、目的は黒天使を捕まえること。だから、これまでのことはすべて計算───────


 まさか、ね。


 私は一瞬脳裏によぎる不安をかき消した。


 今は目の前のことに集中しよう。私が考えても無駄なことは、鳳凰の事件で身に染みている。


 でも警戒だけはしておこう、そう思った。



 

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