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3章3話 憎悪の眼差し


 気絶した神威さんを運び込み、私達も琴上家にお邪魔することになった。


 一通り自己紹介を終え、今後の話し合いをすることになったからだ。


 神威さんのことを引き受けてもらうとはいえ、いきなり知らない男性と二人にする訳にも行かない。



 それに、神威さんが琴上家の血に反応する以上、今後どう関わるのかは聞いておきたかった。



 招かれた客室は、想像通りと言うべきか、和室だった。


 広い畳の部屋で、3つほどの部屋を襖で区切られている。そのうちの一つに通された。


 大きな木の長机が中央に鎮座し、それを囲うように座布団が置かれている。


 「まあ、適当に座れよ」


 渡り廊下から先頭を歩いていた新は、慣れない様子で案内してくれる。


 それぞれ新、リアラさん、シロさんと向かい合う形で、海道くん、犬飼、私で座った。


 神威さんは隅の方で寝かせてある。ここまでは海道くんが運んでくれた。


 細身に見えて意外と力がある。


 霊能者だし、普通の人よりは鍛えているんだろうけど。


 そういえば、私もお姫様抱っこされたっけ。


 思い出すと、赤面する。

 

 「あんた顔赤いけど大丈夫?」


 「は、はあ?あ、赤くなってないし!」


 「なんでそんな必死に否定するのよ……」


 私が赤面した様子に気がつくと、隣の犬飼に心配される。


 最近、海道くんを意識してしまう。どうしちゃったんだろ。


 私は一度顔を覆い隠し、気持ちを切替える。



 「それで、新くん。これからどうするつもりかな。」


 全員が落ち着いたところで、海道くんが話題を振る。


 「どうするも何も、まあ、さっき言った通りだ。神威美琴の異形化の原因を突き止めて、そんでもって異能を覚醒させる、だろ?」


 「まあ、そうなんだけどさ。具体的にどうするのかなって。」


 「あぁ?お前、俺の事疑ってんのか?」


 「いやいや。違うよ、そうじゃなくて。」


 「新くん。彼らは先程まで異形化のことも、異能のことも、知らなかったのです。わかるように説明してあげましょう。」


 「ハッ!ノコノコ頭下げに来たと思ったら、素人かよ。どうなってんだよ、姉貴。」


 「昔みたくお姉ちゃんと可愛く言ってくれたら答えますわよ。」


 シロさんに苦言を呈され、バツが悪そうに姿勢を崩す新。悪態をつきながら、リアラさんを見やる。


 リアラさんは瞳を閉じて冷静に答えてみせるが、新にとってその言葉は気に入らなかったらしい。


 どうやら新は事の経緯を詳しく聞いていなかったようだ。説明を求めたリアラさんはとことん秘密主義で答えようとはしない。


 その様子が慣れているのか、ため息をつく新。


 「何年前の話だよ。言うわけねーだろ。」


 「それは残念ですわ。」



 リアラさんにはぐらかされて新は苛立っているように見えた。


 リアラさんはあくまでも、なんで神威さんを助けようとするのかを話したくないらしい。


 リアラさんから話を聞くのは諦めて、新は立ち上がる。そのまま、寝かせられている神威さんの横に座り込む。


 「コイツ、結構可愛いな。」


 新は何を思ったのか眠っている神威さんに触れようとする。


 即座にその行動に不快感を示した犬飼が、新に近づき、その手を弾く。


 「いっつあ!?はあ!?なに!?」


 「こっちのセリフよ!何しようとしてんの!?寝ている女の子に触れるとか犯罪よ!!えっちなこと、しようとしたんでしょ!」


 「してねえよ!?てかこんな人いるところで、するわけねーだろ!!!」


 「しょ、正体を現したわね!?変態!」


 「は!?なんでだよ!」


 「誰もいなかったら、そういうことするってことじゃない!」

 

  「違う違う!そっちに話持っていくなよ!?」


 言い合いがヒートアップしていくふたり。私と海道くんはあたふたしながら見守ることしかできない。


 助け舟を求めてリアラさんとシロさんを見るが、二人とも落ち着いて談笑している。


 「まあ確かに、新は人に見られてするタイプではありませんわね。」


 「お嬢様、最近はそういう形のも、あると聞きます。」


 「あら、はしたない。」


 「おめえら俺のフォローしろよ!?俺ら琴上の血に反応しないように、言霊使おうとしただけだっての!」


 新の必死の弁明によりようやく状況が理解できる。


 新とは初対面だからこそ、犬飼の言い分も無くはないと思っていた自分が恥ずかしい。


 でもちょっと、紛らわしい行動だった。新の言葉は誤解を招くような言い回しだった。



 「だからちゃんと説明してくださいと言いましたのに。」


 呆れたように言い放つシロさん。シロの言葉に苛立つように新は答える。


 「うるっせ!そういうの苦手なんだよ!まどろっこしいのも面倒だと思ったんだよ。」


 「人を導くのは当主に必要なことですわよ。それに人に教えるということは、自分で学ぶより難しいことですわ。あなたなら、できると信じておりますの。」


 「当主の座を捨てたアンタに、とやかく言われる筋合いはねえよ。」


 リアラの厳しくも愛のある物言いを静かな怒りを向ける新。さっきからずっと、この二人はこんな感じの悪い空気が流れている。どちらかというと、リアラさんに新が突っかかっている感じだ。

 


 「誤解して悪かったわね。というか、アンタが説明足りないからじゃない。」


 「皐月、もうやめな。」


 「……はぁい。」


 バツが悪そうに座布団に座り直す犬飼。再び新の地雷を踏みそうな言葉を言い放つが、海道くんに止められる。


 その様子を横目に見ながら、舌打ちをし座り直す新。


 「また起きて異形化したら面倒だから、軽く説明したら始めんぞ。……今からやんのは、応急処置だ。琴上家の血を認識しづらくする。でもまあ、結局はその場しのぎにしかなんねえ。だが、まあ、修行する時間ぐらいは作れる。」


 「シロさんがやった認識阻害みたいなこと?」


 「シロの化狸は調整がムズいんだよ。千年以上前の化け狸使いは人ひとりの記憶を完全に無かったことにしたらしい。それでも解決できるだろうが、まあ、それだと生活困んだろ。それに数も多いし、今の世界にどれだけ琴上家が混じってるかわかったもんじゃねえ。規模がデカすぎて『神威美琴に琴上家を認識出来なくしてください』なんて願ったら、人類の大半消えるかもしれねえ。」


 新の説明にシロは頷いてみせる。


 さっきは明確に琴上家の血を持っている私とリアラさんを透明にさせて、認識出来なくしたけど、それを今後やるなら私たちも生活が困る。


 それに深く考えていなかったが、私みたいに琴上家の血を持っているって知らない人だっているはずだ。さらにいえば、ちょっとした血にも反応するなら、その数は世界規模だろう。


 リアラさんがその例のひとりだ。血は海外にまで広がっている。


 その血を認識できなくするということは、世界中から人が消えてもおかしくないということだ。

 

 その逆をしようとすれば、それもまた解決だが、それはつまり世界から神威さんを消すということだ。


 それは私たちが望む解決ではない。


 私たちが難しい顔で聞いていると、新は頭を掻きながら続ける。


 「んで、こっから本題。今俺がやんのは『言霊』だ。霊力を込めた言葉をこいつにかける。やるのは『認識改変』。琴上家の血を感じ取っても、好きなものとして認識させる。例えば匂いなら、それは甘いスイーツとか好きなフルーツ、お菓子として認識させる。霊力に反応するなら、神聖な空気とか特殊なオーラとか、そういうのな。要は琴上家だって結びつかないようにするってことだ。」


 確かに話だけ聞いていると、『琴上家の血』に反応して異形化しているなら、それを他のものとして認識するなら、理論上異形化は起きないということになる。


 「でもまあ、俺の言霊の弱点は効力がそこまで通じないってことと、この『認識改変』は違和感に気がつくと効果が薄れていくことだ。俺の見立てだと、持って2週間ってとこだな。」


 「その間に原因を探り、そこからそれを手がかりに異能を覚醒させる……ということかな。」


 「まあ、そういうことだな。時間が惜しい。始めるぞ。いいな?」


 海道くんが確認すると、新は頷く。そして全員を見渡し全員頷く。

 

  新のその方針に異論は無い。


 刹那、全員の理解が得られると、柔らかな光が新を包み、立てた二本の指先に光が集まる。


 そのまま指を神威さんの額に当てると、新は瞳を閉じて言葉を紡ぐ。


 「汝、御三家に触れし時、魂の荒ぶりを捨て、目の前を深く見よ。其れは己が好むものであり、御三家の血にあらず。───────我が名を以って命ず。我が名は『新』。新たな理を魂に刻め。」


 新の言葉を受けると、指先の光は神威さんの全身を包み込み、青白い光を解き放つ。


 術式を『御三家』にしたのは念の為だろう。現状近くにいるのが琴上家だから反応しているだけで、もしかしたら、他の御三家にも反応するかもしれない。よく考えてくれている。


 「──つぁあああ!!つかっれた!」


 光が晴れると新はその場に仰向けに倒れる。


 「お疲れ様です新くん。」


 「ん」


 シロさんは、倒れている新の口の中に羊羹を入れる。


 その羊羹をあっという間に飲み込み、もう一切れ机から取り口に入れる。


 どうやら、力を使うと糖分を欲するらしい。


 気がつくと机の上には大量のお菓子とお茶が用意されていた。


 今の術の間にシロさんとリアラさんが用意したのだろう。


 どれだけ慣れているのよ。


 「終わった……の?」


 犬飼がキョトンとした表情で新を見やる。それに答えるようにだるそうに新が答える。


 「ちょうどいい、鈴華起こしてやれ。お前が起こすのがいちばんわかりやすいだろ。」

 

  「は、はあ。」


 いきなり呼び捨てですか。年下に舐められるなあ、私は。


 いくら大丈夫と言われたとはいえ、一度襲われた私は震えながら神威さんに触れる。


 その様子を見て、後ろに海道くんがついてくれる。


 「大丈夫だよ……す、すず、すー……天空さん。」


 「う、うん?」


 緊張していたはずだけど、何故か私以上に赤面させて緊張した様子の海道くんをみて落ち着く。


 なんで海道くんが緊張しているのよ。


 「神威さん!神威さーん!起きてー!」


 「んむぅ、むにゃむにゃ。」


 私の呼び掛けに神威さんは、幸せそうな寝顔を披露する。


 そして、ゆっくりとその瞳が開かれる。


 「……ここは天国ですか?」


 「え?いや琴上家ですけど。」


 「目の前にラブリーマイエンジェルがいるんだけど。」


 「……は?」


 「いやこれ夢だな。うん。ということはお構い無しということ!?」


 「は、は!?」


 「いざ参らん!」


 目を覚ました神威さんはずっと訳の分からないこと言い始め、突然私に抱きついてくる。


 「ちょ!?うわぁああああ!?」


 その勢いで私は神威さんと一緒に倒れ込み、海道くんに助けを求める。

 

 

 「ちょこれ!止めてえ!」


 「あ、神威先輩大丈夫みたいですね」


 「なににやにやしてんのよ!止めなさいよ!」


 何故か海道くんは、止めるどころかニヤニヤと微笑ましそうに見つめてくる。


 「クンカクンカ!すずかにゃん甘い匂いするぅ!さっきお姫様抱っこしてくれてありがとお!!!」


 「それは海道くんだっての!うわあっ!?どこかいでんのよ!」


 幸せそうに私の身体中を嗅ぎ回る変態ストーカーファンの神威さん。私は犬飼に助けを求めることにした。


 「犬飼!お願い!」


 「アンタ、さっきシロに私売ったわよね?」


 「……あ」


 犬飼の冷やかな視線に後悔が過ぎる。犬飼をシロさんに撫で回させたのはミスだった。


 「諦めなさい。」


 「そんなあああああああ!!」


 犬飼はお茶をすすって全く私を助けようとしない。どうやら、本当に諦めるしかないらしい。


 「因果応報ですわ。私も混ざろうかしら。」


 「おやめください。さらに意味のわからないことになります。」


 「騒がしい奴らだな。」


 「あ、この隙に僕御手洗借りたくて。」


 「廊下の突き当たり右だ。」


 「はーい。」


 「ついでに着替えてこいよ。制服お菓子こぼしたんだろ。なんかお前ずっと匂い甘いんだよ。」


 「あ、うん。そうなんだよ。さっき車の中でね。」


 私が神威さんに襲われている中、みんなは楽しそうに談笑している。


 くそお。最悪だ。


 でもよかった。応急処置だとしても、神威さんとまた、こうして話せるなんて。


 いや、よくない。


 というか、長い!


 「いい加減、離れろ!!!!」


 私の怒号が大きな屋敷に響き渡ったのであった。



 ◆◇◆


 それからしばらくして。


 ようやく落ち着いた神威さんは私の隣の座布団に座り、頭を掻きながら微笑む。



 「ごめんごめん。取り乱しました。ずっと推し不足だったもので。目の前にいるのに、お預け食らってる的なやつでして。」


 「……全くです。程々にしてください。」


 私は呆れながら乱れた制服を直す。


 「あーい!ごめーんね!☆」


 「反省……してます?」


 「してるって〜怖い顔しないでよお!」


 私の鋭い睨みに怯むことなく微笑む。


 忘れてた。この人、こういう人だった。


 「まずは、あんがとね!そこの君!シンくんだっけ!」


 「まだ助かったわけじゃねーよ。こっからだ。」


 神威さんは新の方に向き直すと、ウインクして見せる。新はお菓子を頬張りながら澄まし顔で流す。

 

 実際そうだ。これはあくまで、応急処置。問題解決を先送りにしているだけに過ぎない。


 「そかそか!了解!……んで、アタシは何したらいいのかな〜?」


 「必要なのは、己を見つめることだな。自分の魂のことだからな。心当たりは無いのか?なんでもいい。俺らに感じるモノとかないのか?」


 「そんなこと言われても、わかんないなあ〜。気がついたら、ガオー!って感じ?でもなんだろな、焦る?モヤモヤする?そんな感じ?今は3人ともいい匂い!甘い香り!」


 「なるほどな。そういう感覚があるなら何とかできそうだ。美琴、お前これから毎日俺のところに来い。修行してやる。ついでにうちの古い文献も調べてやる。」


 「もっちろん!アタシはそのつもりだったし!というか、新ちゃんはいいの!?」


 「俺の家にも関係ありそうだしな。それになんかお前……放っておけねーんだよ。」


 新は目線を逸らし照れながら言ってみせる。


 年相応な反応に弟じみた何かを感じ、内心『可愛い』と思ってしまった。


 神威さんも同じ事を思ったのか、ニヤつきながら新に近づく。

 

 「なになに〜?新ちゃんアタシのこと好きなの〜?」


 「はっ。出会ったばっかの女好きになるかよ。てか、ちゃんやめろ。」


 「え〜、可愛いのに。じゃあ『ちん』とか?『新ちん』!なんかチンチンみたい!あはははは!」


 「お前!そういうこと言うな!!てか人の名前で遊ぶな!ちゃんでいい!」


 「あ!照れてる〜!!」


 「はぁああああっ!?照れてねーし!」


 完全に神威さんのペースに乗せられてるな、あれは。


 とりあえず方針は決まって何とかなりそうだ。


 神威さんと新もどうなる事かと思ったけど、神威さんもいつも通りみたいだ。


 ちょっと元気すぎて、異形化してしまう人だなんて忘れてしまいそうだ。


 言霊の効果もきちんと作用している様子。


 これなら本当に解決は目前だろう。


 あとは、新が神威さんが異形化してしまう原因を探して、それを元に神威さんが異能に覚醒すれば解決だ。


 言霊が作用しているうちに、新が神威さんに修行をつける。


 悪くない案のはずだ。


 きっともう、私たちにできることはない。海道くんが着替え終わったら解散だろう。


 「ここまでの道のりは私の執事が送迎致しますわ。部活終わりにでも来ればいいと思いますわ。」


 リアラさんが話が落ち着いたタイミングで、提案してくれる。


 「え!?いいの!またあのお菓子付き高級車乗れるの!?」


 「もちろんですわ。美琴さんの異能が覚醒することは私も望むことですの。強力させて貰いますわ。」


 「ありがとう!助かるよ!」


 笑顔で快く引き受けてくれるリアラさん。その瞳の奥にどんな魂胆があるのかは知らないけど、利用させてもらおう。


 「鈴華にゃん!アタシ頑張るからね!推し活できるように!」


 「推し活は、ほどほどでいいです。……けど、応援していますよ。」


 「うん!」


 なんだかんだ言って、あの屋敷に引越して1番不安だった時、欲しい言葉をくれたのは神威さんだった。


 私が自分のやってきたことに誇りをもてているのは、彼女のおかげだ。


 度は超えていたし、襲われたけど、それは異形の力によるものだった。


 彼女自身は私に背中を押されたファンの一人であり、私の背中を押してくれた一人でもある。


 そう簡単に切れる縁ではないだろう。


 「それからありがとね。」


 物思いに耽っていると、神威さんは私の手を握る。



挿絵(By みてみん) 


 「え?」


 私は何の話かわからず疑問符を浮かべる。


 「妃奈のことだよ。昔からなんでもできる子だったからさ。いつもひとりで抱えてて。アタシは自分のこともこんな感じじゃん?だから、何を言ってもダメな気がして。助けられなかったからさ。……ありがとう、救ってくれて。」


 「私は自分にできることをしただけですよ。」


 「それが嬉しかったって言ってるんだよ。」


 「そう言ってくれると助かります。」


 「うん!」


 神威さんは屈託のない笑顔で微笑んでくれる。


 私は正直、助けられたとは言えない気もしている。


 本人が望んだこととはいえ、大鳳さんは霊能協会にいる。


 彼女は巻き込まれただけなのに。


 それに私は暴走して、自分の血に飲まれて、大鳳さんを殺そうとした。


 リアラさんがいなければ、きっと本当にこの手にかけていただろう。


 考えただけでゾッとする。


 琴上家の血って、本当になんなの。


 ご先祖さま達に一体なにがあったの。


 私は一度リアラさん、新、シロさんを見やる。


 全員ただお菓子を食べている。


 普通の人なんだよな。立派な家に生まれたってだけで。


 「というか、お兄遅くない?」


 なんとも言えない手持ち無沙汰な空気の中、寛ぎながら犬飼が言い放つ。


 確かにそうだ。トイレと着替えにしては長い。


 「お兄方向音痴だからなあ。ちょっと私見てくる。」


 「心配症だなあ、さっちゃんは。」


 神威さんは煎餅をかじりながらマイペースに話す。


 犬飼は立ち上がり部屋を出ていく。


 「私も探して来ようかな。」


 「私も行きますわ!なんだか面白いことが起きる予感がしますの!」


 私も退屈だったので立ち上がる。この屋敷を探検してみたいのもあった。


 わたしの申し出に対して、突然リアラさんも立ち上がる。どうやら、着いていきたいらしい。


 「うげ、出たよ姉貴の勘。ろくな事になんねえから、俺はパスな。」


 「私も遠慮します。」


 「私はお菓子食べて待ってるねーん。」


 リアラさんの言葉に苦い思い出があるのか、新とシロさんはその場に残るようだ。


 神威さんも口には出していないが、新の先程の攻撃が効いているのだろう。無駄な動きが多い神威さんにしては、落ち着いてる。


 三人を残し私たちはその場を後にする。


 「出発ですわ!」


 「お、おー!」


 ◆◇◆


 トイレの方は犬飼が向かったと思われるので、私たちは逆方向の入口側へ向かった。


 そのまま外に出て私は伸びをしてみせる。


 「なるほど。外に出たかったのですわね。」


 「神威さん程じゃないですけど、私も体動かしている方が好きなので。ずっと部屋でのんびりっていうのは、性に合わなくて。」


 「そうなんですわね。」


 リアラさんも程よくストレッチしてみせる。


 琴上家は神社の社から少し離れたところに位置している。立派な和風建築だ。


 「ここは神社なんですよね?ここだけ見たらどっちかと言うとお寺みたいですよね。」


 「昔は神社もお寺も一緒だったみたいですわよ。途中から変わったとか。私は心底この家に興味がないので、よく分かりませんけど。」


 冷たい物言い。私は軽く「そうなんですね」と相槌を打つ。新との空気が悪いのは、この辺のお家事情が影響しているのだろうか。


 「せっかく二人になりましたから、先程申しました『お願い事』聞いて貰えませんこと?」


 「ええ。いいですよ。」


 突然の物言いにびっくりするが、内容を聞いておきたかったのも本音だ。


 なんでこのタイミングなのかは気になるけど、実際問題解決の目処が立ったのも事実だ。


 「私、新とシロと昔みたいに仲良くしたいのですわ。」


 顔を真っ赤に赤面させて恥ずかしそうに言うリアラさん。普段の余裕ある様子から考えられないほど、その顔は少女のように可愛らしかった。


 だから、二人にならないと話せなかったのか。


 「それが交換条件って言うわけですね。」

 

  「別にそういうの無くても良かったのですが、無償でお願いを聞かれると怪しむでしょう?」


 「ですね。」

 

 「か、かと言って私困っていることなんて、これぐらいしか思いつかなくて。」


 あたふたしてみせるリアラさんを見て、つい微笑んでしまう。


 「もお!笑わないでくださいまし!」


 「すみません。もちろん強力しますよ。」


 「あ、ありがとうございます。べ、別に無理しなくて構いませんからね?」


 「でも仲良く戻りたいんでしょ。神威さんのこと協力してくれているんです。もちろん、私にできることはやりますよ。」


 「助かりますわ。」


 ニコッと照れくさそうに微笑んでんくれるリアラさん。


 とんでもない依頼をされるんじゃないかと、意気込んでいたから安心する。


 あれ、でも確か───────二つお願い事を聞いて欲しいって言っていたような。


 刹那。扉を開けて犬飼が飛び出してくる。


 「こっちにお兄いた!?」


 「え?いないけど。どうしたの。」

 

  「お兄がどこにもいないの!」


 「え!?」


 中々戻ってこないと思ったら、行方不明ってこと?


 「望みは薄いですが、社の方も向かいましょう。いるかもしれないですわ。」


 突然の出来事だったが、冷静に対応してみせるリアラさん。


 「ですね!犬飼はどうするの?」


 「私はもう1回中を探す!」

  「わかった!」


 軽く言葉をかわし犬飼はもう一度屋敷の中へと戻る。


 それと入れ替わる形で新が顔を出す。


 「社行くなら気をつけろ。侵入者がいる。誰かはわからんが、相当危険な奴だ。この屋敷の結界破壊しやがった。明らかな宣戦布告だ。」


 「誰のことを心配しておりますの?」


 「……そうだったな。」


 「私はお嬢様について行きます。」


 「わかりましたわ。」


 リアラさんの言葉に新は不服そうに背を向ける。屋敷の中に残るようだ。


 そして中からシロさんも飛び出し、リアラさんの横に並ぶ。


 海道くんが行方不明になって、侵入者?


 どういうこと?


 「急ぎましょう!」


 私は2人を急かして社へ向かう。


 屋敷から社はそう遠くない。


 木々に囲まれた社には簡単にたどり着いた。


 探し人の海道くんも簡単に見つかった。

 

  だが、その姿は安堵できるものではなかった。

 

  視界に映りこんだのは社の前で倒れ込む海道くんだった。


 「海道くん!!!!!」


 私は大声を出し駆け寄る。


 体を揺すって声をかける。心音と脈の確認をする。息はしているが、どうやら気絶させられているらしい。


 体を海道くんに近づけているせいで、海道くんの匂いが鼻を通り抜ける。


 だが、そこで緊迫感とは異なる違和感が走った。


 「なに……?なにか、違う?」


 「鈴華!お兄は!!」


 遅れてやってきた犬飼のその言葉に意識がはっとする。


 「息はしてる!気絶させられているみたい!」


 犬飼を追うようにして、新と神威さんもやってくる。


 犬飼は私の横に座り込むと「間に合ってよかった」と安堵してみせる。


 「何が起きているの?大丈夫ってこと?」


 「安心するのは早いみたいだ。」



 「これはまずいですわね。新、シロ!鈴華さんと美琴さんを安全なところに!」


 混乱する神威さんに、緊迫した表情の新。そして、私と神威さんを逃がそうとするリアラさん。

 

 だが、その言葉は頭上を見上げた新の言葉に遮られる。


 「もうおせえよ。姉貴。お騒がせ者の登場だ。」


 「なっ!?」


 同じように空を見あげた犬飼が見たこともない表情で動揺しているのがわかった。


 私も空を見あげようとするが、落ちてきた黒い羽根に瞳を奪われる。

 

  「─────え」


 刹那。私の体は誰かに抱き抱えられ、地面から足が離れていく。


 「えっ!?」


 気がつくと、犬飼たちを空高くから見下ろしている形となる。


 私はゆっくりと顔を見上げる。


 そこには、『アキラ』がいた。


 アキラが私を抱き抱え、その黒い羽を羽ばたかせて空を飛んでいる。





挿絵(By みてみん)

 


 「……アキラ…?」


 「待たせたな。鈴華。俺から離れるな。」


 「どういうこと?」


 その再会と温もりに頬を紅潮させつつも、事態の理解が追いつかない。そんな私にアキラは答えるように続けた。


 「────琴上家は俺が殺す。」




 アキラの瞳は真っ直ぐ新を捉える。その眼差しには憎悪が満ちていた。



 

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