3章2話 輪廻転生
リアラさんとシロさんのお陰で、希望が見えてきた。
これまで何も情報がなかった神威さんに対する異形化のアプローチを、見つけることができた。
異形化の原因を知ること。
力を正しい形にすること。
このふたつがやることだ。
そして、それを叶えるためには、リアラさんのいとこであり、私の遠い親戚でもある『琴上新』に会うこと。
話し合いはそこまで進んだ。
犬飼とシロさんが戯れている間、海道くんは難しい顔で静かに挙手する。
「今回の件、リアラさんが解決することはできないんですか?」
「良い質問ですわ!」
リアラさんは私の背後から抱きつきながら、誇らしげな顔をする。
いい加減離れてくれないかな。
「ワタクシも助けたいのは、山々ですが、いくつか、問題がありますの。」
「問題……というのは?」
「現状、神威美琴とワタクシが接触すると異形化してしまいますわ。力をコントロールするもなにも中々難しいですわ。」
「なるほど。でも、他の人に伝えてもらったり、異形化の原因を調べることはできますよね?」
「たしかにその通りですわ。ですが、そちらにも問題がありますの。」
「お嬢様は生まれながらの天才です。気がついた時には異能を使いこなせていました。反面、新くんは努力型。かなり時間をかけてその力を手にしました。これ以上ないぐらい適任なのです。」
地面に座り込み、犬飼の頭を撫で続けながら、シロさんは解説してみせる。
犬飼も諦めたのか黙って頭を撫でられている。
要はリアラさんは感覚で異能を使っていて、教えるのに不向きということだろう。
「なら、異形化の原因を探る方はできるんじゃないか?」
黙っていた先生も質問に参加する。残った疑問はそこだ。
やはりみんなで話し合いにしてよかった。
私は乗せられて、話の本質や他の可能性を見出せていなかった。
「恐らく、神威美琴さんの力は琴上家に反応していますわ。琴上家に関する記録は本家の人間にしか伝えられませんの。あらゆる記録に外部の人間は目を通せないのですわ。いとことはいえ、ワタクシはフラワーガーデンを継ぐもの。記録を調べることはできませんの。」
なるほど。それなら、本当に琴上新が適任ということになりそうだ。
でももうひとつ、新たな疑問も生まれた。
「その、琴上家に反応しているなら、その新という人にも反応して上手く教えられないのでは?」
「それなら、それで他の人に伝えてもらえばいいですわ。新が異能に詳しいのは事実ですからね。」
「な、なるほど。」
私は納得してみせる。
だが、先生は再び質問をする。
「話はわかった。それで問題なさそうだ。だが、もう一つ質問だ。」
「なんでしょう?」
「お嬢さんはなんでこんなことに協力する?求める対価はなんだ?」
「もちろんタダで協力するとは言っておりませんわ。」
鋭い視線を向ける先生。それに動じることなく、ようやく私から離れて優雅に微笑むリアラさん。
妖艶な瞳は周囲を釘付けにする。
その独特な空気を犬飼が破る。シロから離れ立ち上がると、警戒したような瞳が捉える。
体から緑色のオーラが溢れている。ただ事ではない雰囲気だ。犬飼にはリアラさんが求める対価がわかっているのかもしれない。
「───────黒天使の情報と引き換えってわけ?」
「いいえ。それについては、今は別にどうでもいいですわ。」
「……今は?」
「そんな怖い顔しないでくださいまし。」
睨みつける犬飼に対し笑ってみせるリアラさん。
犬飼の予測は簡単に切り捨てられた。
だが、余裕そうにしているリアラさんとは対称的に私には多くの疑問が生まれた。
犬飼はどうして黒天使を守ろうとしているのか。
確かに黒天使はアキラだった。
でも、犬飼はアキラのことは死んだって頑なに言ってた。
それなのに、黒天使を守ろうとする理由は何?
何かを知っている?
もし、可能性があるとすれば、黒天使はアキラではないの?
もしくは、犬飼や猿飛には別に守る人がいるってこと?
それが本物の黒天使?それなら、私が見てきた黒天使はやっぱりアキラの亡霊?
そういうことにしなければ、アキラが、黒天使ということになり、やはり生きているということになる。
犬飼の今の発言は、どうしても腑に落ちなかった。今までの態度と大きく矛盾する。
私としてはその辺の話を深堀して、今すぐにでも真実を究明したい。
だって、それは私が求めている答え。
───────アキラは黒天使であり、生きている。
だが、その話をしようとするものの、どうやら私も犬飼と同じ疑問に辿り着く。
何故、リアラさんは黒天使のことを調べているの?
忘れかけていたけど、リアラさんは最初この学校に来た時、黒天使の情報を求めていた。
それが恐らく犬飼の先程の言葉だろう。
犬飼の今の発言を突いても良かったが、嫌な予感がした。
アキラをどういう形であれ、狙っているリアラさんがいるこの状況では、危険な気がする。
そこまで考えたところで、私の思考は一度静止する。
ダメだ、頭が混乱してきた。
たった一つのやり取りで、物凄い量の情報が頭を駆け巡る。
よく分からないけど、よくない雰囲気が流れている。
「な、なら、協力してくれる条件はなんですか?」
この空気に耐えきれず、私はふたりの会話に口を挟む。
「たったふたつ、たったふたつだけ。私のお願いを聞いて欲しいのですわ。───────天空鈴華さん、貴方にね。」
「何をやればいいんですか。」
「成功報酬で構いませんわ。私が協力する美琴さんの2つの問題解決。これが成功したのなら、二つ。ひとつしか達成しなかったら、そのひとつ。別に内容を聞いた上で断ってもらっても構いませんわ。どうです?悪い話ではないと思うのですけど。」
全員の視線が私に注がれる。
私に対して2つのお願い?
あくまで、内容は言わないつもりらしい。
拒否権もあるし、悪くない内容なのは確かだ。
ただ、内容が分からないのが怖すぎる。
「条件をひとつ追加してもらえるかな。」
刹那。悩んでいた私の前に海道くんが割って入る。
リアラさんとの距離が必然的に離れる形となる。
真剣な眼差しに、私を守ろうとしているのがわかった。
───────何故かその横顔を見ていると、胸が高なった。
「無粋ですわね。ワタクシは今、鈴華さんとお話中ですのよ?日本人に紳士はいないのかしら。」
「これは失礼。でも、お生憎様、今は彼女に仕えている身なんでね。守らせてもらうよ。」
「守る?人聞きが悪いですわね。まるで私が悪い企みをしているように聞こえますわ。」
「ええ。そう聞こえるように言いましたからね。」
「へえ、なら、お聞かせ願いましょうか。その条件とやらを。」
「君が約束を破る、もしくは、天空さんが危険になると判断した場合、僕たちは君に対して攻撃をする。そんな条件を足して欲しいんだ。そしてこの契約内容を書面に起こし霊能協会と祓魔師連盟で管理してもらう。」
「用心深いのですね。いいですわよ。……それで、鈴華さんはこの依頼と契約に合意して頂けますの?」
「は、はい!それなら、問題ないです!」
海道くんは振り返り微笑んでくれる。助かった。この内容が追加されるだけでかなり安心できる。
リアラさんが何を要求してくるのか分からないけど、ひとまずこれで話は進みそうだ。
その後、私とリアラさんは握手をした。
話し合いがまとまったという意味を込めてだ。
◆◇◆
いざ、神威さんの所へ向かおうとしたが、校庭に集められた私たち。
神威さんのところに向かう前に、シロさんの能力を私とリアラさんに使ってくれた。
なんでもシロさんが概念契約している妖怪は『化け狸』。
物事を隠したり捻じ曲げたりするのが得意だと言う。
このまま私とリアラさんが犬飼に接触すると、神威さんは異形化してしまう。
それを避けるための方法だ。
シロさんから黄色と茶色が混ざったような独特なオーラが解き放たれると、私とリアラさんを白い光が包む。
気がつくと、自分とリアラさんの体が透けていて、物に触れられなくなっていた。
「ほ、本当に見えなくなった……」
目の前にいる海道くんが目を丸くしている。
私の姿はどうやら見えていないらしい。
私は試しに海道くんの体に触れてみるが、そのまますり抜けてしまう。
「犬飼のばーかー!」
次に大声で犬飼の悪口を言ってみるが、全く聞こえていない。
同じく透けているリアラさんはシロさんのスカートの中を覗いている。
「おパンツが丸見えですわ〜!」
「ちょ、ちょっと!リアラさん何やっているんですか!」
「これでお風呂も覗き放題ですわ!」
「どこの中学生男子ですか。」
「あの、お嬢様、私は聞こえていますし、見えていますからね?」
「あら、そうなの。つまんないの。……シロのおパンツは真っ白でしたわー!!!!」
突然何を思ったのか大声で叫び出すリアラさん。聞こえていないとわかっていても、私は思わずリアラさんの口を塞ぐ。
どうやら、消えている者同士は触れ合えるらしい。
いや、そんなことよりも、このおバカさんに一言言ってやる。
「バッカじゃないですか!」
シロさんも顔を真っ赤にしている。最悪だこのお嬢様。
「これは凄いな、たしかにこれなら、神威に認識されることもないだろう。俺がもう少し若かったら、犯罪に手を染めていたかもしれない。」
全く笑えない冗談を言い始める先生。
鳳凰の怒りに触れたのか頭を突っつかれている。
「ピッピ!ピピピピピッ!」
「いたっ!いたたた!冗談、冗談だって!」
「ちなみに鳳凰はなんて?」
「変態ロリコン教師。」
「絶対言ってないだろ!」
海道くんが犬飼に通訳を頼むと、そこにいた女子全員の意見が通訳された。
いや、私の隣にも変態お嬢様いるから、なんとも言えないけど。
鳳凰の制裁を受けている先生は、そのまま放置して陸上部へと向かった。
「あらどったの?みんな揃って……でもないね。というか知らない子いるし。」
陸上部の練習場へ到着すると、神威さんはいつも通り気さくに迎えてくれる。
普通に話しているところは随分久しぶりに見る。
ジャージに首元にはタオル。明るい茶髪をいつも通りポニーテールにしている。
どうやら、練習は一段落したようだ。
「練習中すみません。少しお話いいですか?」
海道くんが率先して前に出る。
「いいよいいよー!なんか最近調子出なくってね。今日は帰れってさ、今言われたところなんよね。あ、でも、大会近くてガチってるから風紀員の勧誘はお断りよ?」
「今更しませんよ、勧誘なんて。」
「なら、カイトちんは陸上部考えてくれた?それともやっぱ水泳部?いや、こないだサッカー部も出入りしてたか!」
「いえいえ、風紀員とバイトで忙しいですから。」
「ちょっと、お兄!本題入って!」
神威さんと海道くんが世間話に花を咲かせていると、頬を膨らませる犬飼が割り込む。
「ありゃ、そうだったね。要件はなんだい?というか知らない子いるし!すずかにゃんもいるのに、隅に置けないにゃ〜!」
ニヤニヤと笑ってみせる神威さん。
「僕なんて相手にされてませんよ。天空さんには好きな人がいますから。」
「あらそうなの!残念だったねえ!」
またまたニヤニヤ笑ってみせる神威さん。
元気だなあ。
「お兄!」
「は、はい!本題入ります!」
犬飼に肘で突っかれ、ようやく本題に入るようだ。
「神威先輩、一緒に琴上家に行きませんか。不調の原因取り除けると思います。」
「え!?まじ!?」
「マジよ。大マジよ。それに愛しの推しとも普通に話せるようになるかも。」
「それって、アタシのことなんかわかったってこと?」
「はいその通りです。向こうには既に連絡してあります。ここにいる野村シロさんが案内をしてくれます。」
「おぉ!!!ありがと!助かるよ!これで鈴華にゃんの推し活ができる!部活に取り組める!最高だ!ヒャッホーイ!ね、ね、ね!!!せっかくだからお礼に占いしてあげるよ!」
「え?」
神威さんは大喜びしたあと、シロさんにグイッと近づいて、両手を握る。
「『運命の扉、開かれる時、魂の在処を知るだろう。汝、鍵となる時は近い。その時、全ての謎は解かれるだろう』だってさ!」
「は、はあ。」
「相変わらず意味の分からない占いね。」
また意味の分からない占いだった。しかもちょっと長め。
でもあの占い、私の時は当たったんだよな。
シロさんは気圧されて困惑している。
犬飼と海道くんは慣れているのかそのまま琴上家へ向かう流れとなった。
ここ天緑町から琴街へは電車か車が必須だ。
学校から出ると、大きい赤い外車が停められており、私たちは乗り込む。
お嬢様はなんでもありだ。
年老いた運転手が扉を閉めて、発進する。
フカフカのソファにテーブルまで備え付けられていて、飲み物まである。
何だこの高級車は。
みんなはお菓子を食べたり、飲み物を飲んだり、楽しくお話したりしている。
私とリアラさんは物に触れられない状態なので、黙って座っている。
私もお菓子食べたい。
「今更ですけど、私とリアラさんついて行く必要ありました?お菓子食べれないのに意味ありました!?というか、物に触れないのに車には乗れたり、歩けるのはなんで!?お菓子食べれても良くない!?」
「術者の見える範囲で存在を固定しておりますの。その中では現実に即した行動を取る必要がありますの。ただ、物に触れる行為は世界に影響を与えるので制限されますの。いまもソファに座っているように見えて実は座っていないのですわ。先程も歩いておりませんし、今もシロに見えるように存在しているだけですの。」
「難しいです!お菓子食べたい!」
というか、この能力について、めちゃ詳しいじゃん。
この人、さっきめちゃくちゃに暴走して、シロさんのパンツ覗いていたのに。
あれ絶対わざとだ。
「今度家に招待して差し上げますわ。その時はとびきり美味しいお菓子をご用意致しますわ。」
「約束ですからね!?」
お菓子を食べられない不満と、リアラさんの読み切れない人柄に警戒するような視線を送っていたが、豪邸への招待で私の不信感は消えていた。
ああ、お菓子食べたい。
そんな感じで、他愛のない話をすすめていると、白く長い階段と、その先に大きな鳥居が見えてくる。
どうやら、到着したらしい。
琴上家。
現存する最後の御三家。
◆◇◆
車から降りて、白い階段を登り、鳥居を抜ける。
神社の社の前には一人の青年が佇んでいた。
無造作な黒髪を跳ねさせ、黄金の瞳がこちらを捉える。
ブレザーの中に灰色のパーカーを着こなし、黄金のオーラを纏っている。
間違いなく目の前の青年こそが、琴上新だろう。
「人払いは済ませてある。お前らが姉貴の言っていた連中だな。こいよ、全員ぶちのめしてやる。」
ポケットに手を入れて、高圧的な態度でこちらを見下す。
ぶ、ぶちのめす?なんで戦う前提?
リアラさんなんて説明したの?
解説を求めるように、私はリアラさんを見やる。
「黙って見ているといいですわ。直ぐに終わると思いますわ。」
「え?」
自信満々に微笑むリアラさん。
目線を再び新に戻すと、神威さんが黒い影に飲み込まれていく。
やっぱり神威さんは琴上家に反応しているんだ。早くとめないと!
元に戻そうと犬飼と海道くんが霊力を解放するが、シロさんに止められる。
「新くんを信じて。直ぐに終わります。」
「でも!」
「そうよ!」
「───────まあ、見てろよ。」
刹那。新の体から膨大な霊力か爆発する。
そこにいた私たちはその力に圧倒される。
「やっと、やっと、やっと!!!見つけたぁあああああああ!!!!」
ついに神威さんが完全に影に飲み込まれ、一瞬で飛び上がると、新に襲いかかる。
新は目を瞑り、ポケットに手を入れたまま、上体を翻す。
神威さんの攻撃は通ることなく、容易く新に背後を取られる。
「力の使い方、間違ってんだよ。」
振り上げた足は神威さんの頭を捉え、直撃する。
神威さんはあっけなくやられ、意識を失う。
そして姿は元のものへと戻る。
「神威さん!!!!」
駆け寄る私。気がつくと、私の姿は実体を取り戻していた。
シロさんが能力を解いてくれたのだろう。
視界の端のリアラさんも元に戻っていた。
「安心しろ、気絶してるだけだ。」
確かに彼の言うとおり、抱き上げた神威さんは静かに呼吸をしていた。
私はそのまま顔を見上げ、新を視界に入れる。
彼と目が合った刹那、頭の中で何かが繋がったような音が鳴る。
頭を抑えるが、痛いわけじゃない。
今理解したんだ。
目の前の青年と血縁関係にあると。
もしかしたら、リアラさんと会った時も、こんな感覚に襲われたのかな。
あの時は先祖返りしてたから覚えてないけど、今は確かに確信した。
「アンタが天空鈴華だな。……どうやら本当に厄介らしい。アンタは御三家の血が強すぎるみてえだ。」
同じく新も頭を抑えている。どうやら新もわたしと同じ感覚を、共有しているらしい。
「おい、シロ。お前はなんともねえのか?」
新は少し声を張り上げシロさんに質問を投げかける。
「はい。どうやら、新くんと鈴華さんだけのようです。」
シロさんはすまして答えてみせる。すると、横にリアラさんが並び立つ。
「それで?この案件受けますの?新。」
一体なんの話をしているのか分からなかった。
だけど、シロさんもリアラさんも新に何かを確認しているようだった。
「ったく、面倒だな。まあいいか。」
ため息を吐きながら、頭を搔く新。何かに区切りをつけたように見える。
「まずは、自己紹介と行こうか。……俺は琴上新。琴上家の当主やってる。……だがまあ、俺はどうやらコトノハ一族の血が濃いみたいでな。なんと言っていいのかわかねえけど、この案件受けることにした。」
「神威さんのこと引き受けてくれるんですね?」
前後の文に繋がりは見えなかったけど、どうやら神威さんのことを引き受けてくれるらしい。
「そういうことだ。神威美琴のことも、天空鈴華のことも、俺にとっちゃ、無関係ではいられない案件だってことだ。」
「それは何か美琴さんについて思い当たることがあるってこと?」
「なんだ、ちっこいの。ここは遊ぶところじゃねえぞ?」
「はぁあああああっ!?」
犬飼が話を進めようとしてくれたが、新は犬飼を子供扱いしてみせる。
確かに新はかなり身長が高く見える。
「失礼ですよ。新くん。ワンチャンはあなたと同い年です。」
「誰がワンチャンよ!!!!」
「うへえ、タメかよ。見えねえー」
「ガルルルルル!」
まるで犬みたいな威嚇の仕方をする犬飼。
海道くんが、笑顔で割って入る。
「まあまあ。こちらとしては少しでも情報が欲しくてね。霊能協会は神威先輩の扱いには困っているんだ。」
「……お前、どっかで会ったことあるか?」
眉間に皺を寄せて、海道くんに顔を近づける新。
どこまでもマイペースだ。こちらの事情と言うよりも、自分の事情にしか興味が無いように見える。
「多分、初対面だと思うけど。ね?皐月?」
犬飼に確認を求める海道くん。記憶が無いから断言できないのが寂しいところだ。
「ええ、お兄とそこの失礼男は初対面よ。」
新はさっそく犬飼に嫌われたようだ。だがしかし、二人に面識があるというのは、ただの勘違いだったようだ。
「そうか?なんか見た事あるんだけど……まあいいか。それで神威美琴の存在がなんなのかって話だよな?」
「うん。良ければ、教えて欲しい。彼女は霊能者の家系でもなければ、混血でもないんだ。それなのに、今みたいに異形化する。もちろん今回それを解決するために来たんだけど、そもそも彼女という存在がなんで異形化するのかが、分からなくてね。」
それは確かに、最初から話してきたことだ。
神威さんの異形化は何とかできるという話にはなった。でも、そもそもなんで、霊能者でもなく混血でもない神威さんが異形化するのか、それすらも分からない状況だ。
鳳凰の依代である大鳳さんの件もあるから、他の可能性もあるのかもしれない。それでも、今の私たちはほかの可能性すら見出だせない状況だ。
「んなもん、ひとつしかねえだろ。───────こいつ、転生してんだよ。」
新の言葉に私たちは固まる。
どういう意味だろうか。
言葉を発した新にとっては、当たり前のことなのかもしれない。いとも容易く神威さんの状況を言語化して見せた。
だが、それは私たちにとって、あまりにも馴染みのない現象だ。
転生?生まれ変わるってこと?何から何に?
身内以外呆けた顔をしていたんだろう。新は続けて話してくれる。
「霊能者でもねえ、混血でもねえ、なら、魂が『なんか』なんだよ。神でも妖怪でもなんでも転生してたら、わかんねえだろ?そして、それなら一番納得出来る。……俺はなぜか分かんねえけど、こいつを見た時何とかしてえと思った。それに琴上家に反応しているみてえだし。俺らと昔になんかあった『なにか』なんだろうよ。……ま、調べてみねえと分かんねえけどよ。……うちの家系には鬼から転生した奴がいたって話もある。まあだから、そういうこともあるって事だ。」
これが最も古い霊能者ならではの意見なんだろう。
犬飼も海道くんも驚愕している。
今までそんなこと考えたこともなかったんだろう。
妖怪や神が人間に転生。そんなこと本当に有り得るのか。
仮にそうだとして、神威さんは一体何者なんだろうか。
疑問は尽きないが、着実に前に進んでいるのだろう。
ひとまず神威さんのことは、新に任せることになった。
神威さんを助けること、何とかなりそうだ。
約束をようやく果たせる。




