2章5話 答え合わせ
帰宅して1時間後。
犬飼と海道くんが帰宅する。
犬飼はかなり不貞腐れた表情でご立腹だ。
まあ、首藤さんと生活指導室に残されたしな。
最近お留守番ばかりだし。
「ただいま、天空さん。」
「お、おかえり。」
なんか照れくさく感じてしまった。別に出迎えたわけじゃなかったんだけど、海道くんは私の顔を見ると微笑んでくれる。
「はいこれ。天空さんの荷物。」
「う、うん。」
私は海道くんからカバンを受け取る。
だめだ。なんか恥ずかしい。私こういうの恥ずかしいみたい。
赤面してしまう。
まるで、夫婦みたいなやり取りじゃない。
例えば、こんな感じの……。
マンションの一室。帰ってきた夫から荷物を受け取って、夫はネクタイを緩めながら囁くの。
『鈴華、ただいまだぜ?』
そしてエプロン姿の私が出迎えて……
『おかえりさなさい。カイト♡』
───────って。
わ、私はひとりで何を妄想しているんだ!どうせ妄想するならアキラでしょ!
一瞬脳裏に過ぎる存在しない記憶を振り払う。
「何にやけてんのよ。」
犬飼がジト目でこちらを見てくる。
「は!?にやけてないわ!」
「ふーん。で?そっちはどうだったの。」
「……ああ、それね。」
立ち話もそこそこに、私たちはリビングに向かう。
わたしと海道くんはそのまま席に着くが、犬飼はテーブルの横に控える。
「……犬飼も座ったら?話しにくくない?」
「気にしなくていい。使用人は主と席を共にする訳にはいかないもの。……一応、アンタは主なわけだし。」
「一応って……というか、シノビ一族の当主様は座ってるけど?」
「ほら、スタンスの違いだよ。僕は主が勧めるなら従おうってタイプ。皐月はあくまでも、使用人としての態度を貫くっていう感じかな。」
「……まあ、好きにさせてみてはいかがですか?」
どこからともなく雉木さんが現れ、私と海道くんに紅茶を出してくれる。
そのまま、犬飼同様テーブルの横に控える。
「……まあ、いいか。」
二人とも徹底しているな。海道くんだけはいつも通りだけど。
色々気になるけど、この人達に突っ込んでも仕方ないので、お茶を飲みながら話を始める。
「───────って感じかな。」
私は一通り起きた出来事を二人に伝える。
大鳳妃奈は妖怪派の混血に被害を受けていたこと。
それも、芽木シュウトのグループ、つまり、今回の紅の悪魔による被害者たちにだ。
そして大鳳さんの話によれば、芽木くんのグループにはあと一人いたこと。
紅の悪魔に被害を受ける可能性がある人がもう一人いるということ。
私の考察では『雨野メア』が最有力候補であるということ。
それらを伝えた。
「予想通りだったね。」
話を聞き終えた海道くんはお茶を一口含み呟いた。
「やっぱり関連ありそうね、今回のふたつの事件。……次はお兄が調べたことについて整理が必要ね。」
「そうだね、聞いてもらおうかな。」
どうやら、ここから本題らしい。
雉木さんも何故か話を聞いているが、まあいいだろう。
ひとまず海道くんの話を聞くことにする。
「まず僕はサッカー部にもう一度行ったんだ。もし、いじめと被害者たちが関連してるなら、周囲の人から話を聞いた方が早いからね。そしたら、部長さんに芽木くんのことで釘を刺されてね。『ようやく、シュウトが戻ってきたんだ。くだらない妖怪派は来ないでくれ』って。」
「なにそれ、どういうこと?」
「どうやら、僕のことを妖怪派の人だと勘違いしたらしいんだ。」
「お兄が妖怪派?馬鹿じゃないの、そいつ。」
「まあ、問題はそこじゃないよ。なんでそんな勘違いが起きたか、だよ。」
「どういうこと?」
海道くんの話に疑問符を浮かべる犬飼。
「あっ、もしかして!!!」
黙って聞いていた私だが、ひとつの答えに辿り着く。
あの時、私と海道くんは妖怪派のことについて聞き込みをしていた。
そして、その直後、雨野くんが現れた。
サッカー部の部長はそれを見ていたんだ。
「やっぱり雨野くんは妖怪派の人なんだね。」
「どうやら、そうみたいだよ。部長さん曰く『あのおかっぱ頭とつるむようになってから全く部活来なくなったんだろうが。連れ戻しに来たってそうはいかねえ。あいつの足はイジメなんかに使うには惜しい代物だ。』ってね。」
サッカー部の部長さん怖い人だったんだろうな。
海道くんのモノマネが輩すぎる。
「そこから芽木くんを中心に調べてみたんだけど。
神威さんからの情報で『あー、シュウちゃんねー。
元々はエースだったけど、妖怪の力でズルしてるって次第に言われるようになってー。
チームで浮き始めてたって聞いてるよ。そこからヤケになってワンマンプレーが目立つようになって、部員怪我させたみたいで。
それで部活来なくなったとか。』って、言っててね。
まあ噂話に過ぎないけど、実際に怪我した部員もいたし、他校との練習試合だったみたいで、見てた人も多くてね。ほぼ間違いない情報だと思う。」
「そんな抜け方した人が普通に今は部活ね〜。」
犬飼が呆れたように呟く。
全くその通りだ。
これで不確かだった芽木くんも、紅の悪魔による被害者だと考えられるようになる訳だ。
これで被害者の数は正確に9人。
そしておかっぱ頭の男の人との関連。
間違いなく芽木シュウトと雨野メアには接点があった。
「聞き込み大変だったけど、そのほかの紅の悪魔に襲われた人たちも、全員妖怪派に所属していて、イジメの加害者だったよ。」
海道くんはカバンから書類を取り出す。そこにはいじめを受けたという趣旨の記載がびっしり書かれていた。
「最初はみんな話したがらなかったけど、加害者の人達がみんな記憶無くしてるでしょ。それで話す気になったみたい。許せないって。証拠も次々出てきたし。こうなったら、周りの人達もどんどん証言を出してきてね。いじめを見たとか、酷いことをされていたとか。」
「傍観者たちはいつも都合のいいものね。」
犬飼に全く同意見だが、みんな最初から過度にいじめをしていたのだろうか。
なんだか引っかかる。
本人たちの記憶が消された以上、なんでそんなことをしていたのかは分からない。
でも芽木くんの件を聞く限り、周りの人達も悪かったような気もする。
それに、大鳳さんは言っていた『芽木くんはいじめには参加していない』と。
「それでその、芽木くんがイジメに加担していたって言うのは、わかったの?」
「ううん。それは誰も言っていなかったな。芽木くんとよく一緒にいた人たちにやられたって言ってた。」
「どっちでもいいでしょ。そんなの。リーダーなんだから、どっちにしろ悪いっての。」
「まあ、そうか……」
別に同情するつもりはない。
ただ、今ここで彼らだけが悪い、という調べ方をするのは少し違う気がした。
どんな事情があれやってはいけない事だったと思う。
それでも、彼らはもう記憶や血を失っている。
もし仮に私たちの調べたことが間違っていたとしても、それを知る方法は無い。
だから、ちゃんと調べないといけない気がした。
「気になるならもう少し調べてみるよ。」
「う、うん。ありがとう。」
私は多分難しい顔をしていたのだろう。海道くんが微笑んでくれる。
「でもこれで、妖怪派のイジメと紅の悪魔は関連があるってわかったわけでしょ。それならあとは雨野が狙われているって報告して終わりじゃない?」
「いや、それが雨野くんがいじめに参加していたかどうかは分からないんだ。」
「……え?」
「リーダーの芽木と仲良かったんでしょ。確定じゃない。」
「さすがにそれだけじゃ、ね。他の八人みたいに証拠が出てきた訳じゃないから。断言できないかなって。」
「でも実際に、私たちは彼が狙われているのを見た。それに少なくとも芽木くんのグループの人たちは襲われているし、ここまでのことは報告してもいいんじゃない?前よりはかなり信ぴょう性が増したと思うよ。」
「まあ、そうなんだけど。あとは正体と目的だよね。紅の悪魔の。それさえ分かれば協会も動いてくれると思う。現状はただ、襲われる人の特徴がわかっただけだからね。ずっと雨野くんを護衛してもらう訳にもいかないし。現れる条件も憶測でしかないしね。」
全員その場で頭を悩ませる。
かなり事件の事はわかってきたが、現状を打開する方法にまでは至らなかったわけだ。
ここまで来て行き詰まってしまった。もうできることはないのだろうか。
「───────なら、揺さぶりをかけてみるのはいかがでしょうか。」
沈黙を破ったのは雉木さんだった。全員の視線が注がれる。
「揺さぶり……?」
思わず私は聞き返す。
「ええ。件の雨野さんは自分がいじめをやっていたことも、紅の悪魔に襲われたことも隠していたのでしょう?実際前者については、証拠もなし。それなら、調べたことをそのまま伝えればいいではありませんか。」
「そうか!!!!」
海道くんは立ち上がり納得してみせる。
私はまるで理解できていない。
「はあ、説明してあげる。」
理解に苦しむ私を見て、犬飼は溜息をつきながら説明を始める。
「明日雨野に言ってやるのよ。『紅の悪魔に狙われていたのは妖怪派の混血であり、最近過度なイジメを引き起こしていた9名でした。あなたはそうじゃないので、襲われる心配はありません。それにもう9人全員襲われてしまったので、現れる心配もありません。これで解決です』ってね。」
そうか!そういうことか!ようやく私でも理解できた。
事件解決を拒否してしまえば、自分が10人目ということを認めてしまい、ずっと隠していたいじめのことも話さなければならない。
雨野くんは受け入れるか全て話すしか無くなるということだ。
受け入れた場合、雨野くんはいずれ紅の悪魔に襲われることになるが、協会に説明しているので対策が可能。私たちは必要最低限の依頼を達成出来る。
全て話した場合は、さらに事件の手がかりを得ることができる。記憶が残っている最後のひとりなのだから、そこから紅の悪魔の情報も得られるかもしれない。
どちらにせよ、これ以上私たちができることはない。
あとは雨野くん次第ということだ。
方針が固まり、ようやく前進したような気分になる。
複雑な依頼だったが、私達はできることをしただろう。
◆◇◆
翌日の放課後。
風紀委員のメンバーは学校の屋上で待機していた。
そして、予定通り先生が雨野くんを連れてきた。
雨野くんが何故私たちに『紅の悪魔』に襲われていたことを隠しているのか分からない以上、警戒はするべきだ、という話になり、屋上で人払いも済ませてある。
最悪の場合戦闘になることも考えられたので、全員緊張した面持ちだ。
風紀委員の受付は首藤さんと神威さんに任せてある。
申し訳ないけどね。
わたしは先生から『その目できちんと見ておけ』とだけ言われた。
ついに答え合わせの時間がやってくる。
雨野くんは何かを隠している。
この事件の最後の瞬間だ。
「皆さん、怖い顔していますね。こんなところに呼び出した、ということは、何か事件について進展はあったのでしょうか。」
「私たちが調べたことを報告しようと思って。」
「今回の件は学校的にも、大きな問題になることが予想されたからね。」
「人目のないところできちんとお話しようと思いまして。」
「既に霊能協会にも報告済みだ。安心して聞いて欲しい。」
私たちは順番に口を開き、打ち合わせ通りに話を進める。
「そうなんですか!それは心強い!それで、紅の悪魔はどうなりました?なもちろん、倒してくれたんですよね?」
「待った。依頼内容を履き違えるな。俺たちは紅の悪魔を調査しただけだ。お前を守ることも、助けることも、悪魔を倒すことも依頼されていない。忘れたか?」
「そうでしたね。早とちりしてしまいました。」
雨野くんは分かりやすく肩を落としてみせるが、大切な確認だ。
先生が釘を刺してくれて助かった。
「それじゃあ、報告するよ。」
海道くんがいよいよ報告を始める。
雨野くんは真剣な眼差しで話を最後まで聞く。
話の内容は言うまでもなく、これまで調査してきたわかったこと。
そして、昨日考えた通りの揺さぶり。
あくまでも雨野くんが『紅の悪魔による被害者ではなく被害者となりうる可能性がない』と仮定した上での話だ。
そんなことは無いとわかっているし、ここからが本番だ。
「───────と、いうわけで、紅の悪魔はもう襲ってくる心配はないと思うよ。まだ倒せた訳じゃないけど、君を襲うことはないと思うし、霊能協会にも報告済みだ。前よりはきちんと調べてくれると思うよ。」
海道くんは和やかに話を切りあげる。
───────さあ、どう来る?
「そうなんですね!調査してくれてありがとうございます!これで、安心してくらせます!さっすが、噂に聞く風紀委員ですね!」
───────そう来るのか。
雨野くんは嬉しそうに微笑む。
だが、待ちわびた答えは遠のいた気がした。
次第に晴れていた空は雨雲を呼び寄せていく。
雨野くんの表情に反して、全員暗い面持ちとなる。
犬飼は溜息をつき呆れる。
先生は切り替えるように背を向け、屋上から立ち去ろうとする。
「それじゃあ、戻ろうか。」
海道くんは笑顔でわたしの肩に手を触れる。
わたしはなんとも言えない表情で海道くんを見上げる。
「これで終わり……?」
「ここまでだよ。」
「やれることは全部やったわ。」
海道くんも犬飼もこれ以上の詮索はしないらしい。
本当にこれで終わりなのだろうか。
これでいいのだろうか。
確かに証拠なんてない。
でも大鳳さんの涙と震える手がまだ記憶に焼き付いている。
雨野くんがイジメに関係しているなら、このまま逃がすなんておかしい。
もし、霊能協会が雨野くんを守れなかったら?
もし、紅の悪魔が他の人を襲う可能性があったとしたら?
もし、記憶を失った人たちが本当は加害者じゃなかったら?
全ての答えを知っているのに、なんで彼はそれを隠すの?
全部自分のため?
頭によぎる多くの謎。そしてあらゆる可能性。
ここで終わっていいはずがない。
全員が背を向ける中、私は雨野くんに向き直る。
刹那。私は絶句した。
振り返り視界に入った雨野くんの姿が答えだったからだ。
その姿をあえて形容するならば、──────邪悪な笑顔。
そして、突如大雨が降り出し、それと同時に屋上の扉が開かれる。
人払いをしていたはずなのに、どうして。
そんな疑問が吹き飛ぶほど、現れた人物に全員困惑した。
「……大鳳……さん?」
そう、現れたのは、大鳳妃奈。私の横を通り過ぎ、静かに呟く。
「───────私、前に進むよ。見てて。」
大鳳さんは、雨に濡れることを構うことなく、雨野くんの前に震えながら近づく。
「この人が私に暴力をふるった人です!」
その言葉に全員が息を飲む。これは紛れもない証言であり、告発だ。
大雨の中、全員の視線が一人の少年に注がれる。
雨を弾く少年は、ゆっくりとその口を動かす。
そして、髪をかきあげながら、醜く微笑んだ。
「あぁ〜あ、バレちゃったか。……まあ、無能だし、及第点だし、仕方ないか。」
「認めるんですか。あなたが大鳳さんに酷いことをしたって。」
「いやだってさあ。そいつ邪魔だったんだよね。いっつも邪魔ばっかしてくれてさ。」
可愛らしい顔付きだった雨野くんは見る影もなく、歩き回りながら話し始める。
本当に同一人物?
いや、これこそが彼の本性?
「クククッ。それにしても、傑作だなぁ。あんなに怯えて泣き喚いていたのに、ノコノコ僕のところに来るなんてさぁ!!!!もう一度、見せてみろ!あのだっせえ顔をさぁ!!!!」
刹那。雨野くんは大鳳さんのクビを掴み持ち上げる。
「ぐっ!?」
「大鳳さん!!!!」
私は叫ぶが、次の瞬間地面に倒れていた。
「あぐっ!?な、なに!?」
「顔だけの女は黙ってろよ。」
何とか顔を上げて雨野くんを見る。どうやら、彼の力らしい。
よく見ると手足に水の鎖が巻かれ、地面に固定されている。動けない。
「大鳳さんを離せ!!!」
海道くんは咄嗟に青いオーラを纏い、雨野くんに槍を突きつけるが、次の瞬間には水の膜の中に閉じ込められていた。
「ごはっ!?」
「お兄!!!」
「海道くん!」
私と犬飼は同時に叫ぶ。
突然の事に困惑する海道くん。息が苦しそうだ。衝撃で水を飲み込んでしまったらしい。
「君のことは警戒していたんだ。僕と同じ水に縁のある力だったからね。でもいい誤算だったよ。君は自分の力を知らないみたいだった。なら、僕の力も通用する。」
そうか、あの時、紅の悪魔に襲われた時雨野くんは見ていたのか。
全部彼の計算通り。
最悪だ。
「お前、全部計算通りだったわけか。」
先生はポケットに手を入れ、雨野くんに向き直る。
「冷静ですねえ、先生。なんもしてこないんですか。風紀員の皆さんくそ雑魚ですよ?」
ニヤつきながら、大鳳さんの首を強く締める雨野くん。
「くるし……やめ、て……」
「そうだよ!そう!お前はそれでいいんだよ!大人しく家でいい子してればいいんだよ!」
そのまま大鳳さんを地面に叩きつける。
「かはっ!?」
「先生!!!大鳳さんを助けて!!!」
「……安心しろ。もう助けた。」
「……え?」
先生は突然、指をさす。
───────そういえば、犬飼はどこ?
いつの間にか視界のどこにも映らない。
先生は頷き微笑む。
「犬飼!」
先生の指さした方向に目線を送ると、緑のオーラを燃え上がらせる犬飼がそこにはいた。
そしてそのオーラは次第に大きな白い犬の姿へと変質し、雄叫びを上げる。
ワォオオオオオオオオン!!!!!
耳を割くような雄叫び。
犬飼はその圧倒的な霊力を纏い、雨野くんを殴りつける。
「何ぃっ!?」
たった一撃。
その一撃で雨野くんは地面を転がり、その場を支配していた全ての力が失われる。
大鳳さんは咳き込みながらもわたしに微笑みかける。
海道くんも水の膜から解放され、犬飼に抱き止められる。
瑞を大量に吐き出すが、無事なようだ。
私は駆け出し大鳳さんに抱きつく。
「良かった無事で!!無茶しすぎです!」
「えへへ。前に進まなきゃって、鈴華ちゃんが背中を押してくれたから。」
「もう!……でも、ありがとう!助かったよ!」
「はい!」
私たちは微笑み合いながら抱きしめ合う。
雨野くんの方は先生が引きずりながら、こちらに運んでくる。
どうやら、さっきの犬飼の攻撃で動けなくなっているらしい。
「僕に何をしたぁあああああ!!!」
こちらに荒れ狂いながら、怒鳴りつけてくる。
先生は背後から雨野くんを押さえつけ、地面に体を押し付ける。
「私にも分からないわよ。お兄がが捕まって夢中だったから。たぶん概念契約だと思うけど、今まで使えなかったから分からない。」
「なんで!なんで、能力が使えない!!!お前、紅の悪魔なのか!?」
「だから、知らないっての。自分でもわかんないの。」
「ま、それは置いておくてして、色々話してもらうぞ。……協会でな。記憶をなくしたお仲間も待ってることだしな。」
「仲間ぁ?ふざけんなよ。あんな雑魚ども知るかよ。全員紅の悪魔の餌にしてやったさ!」
「どういう意味?」
「簡単な話さ。悪魔は何故か僕たちを襲ってきた。狙われてるなら、くれてやればいい。みんな僕の身代わりになってくれたよ!」
「最低ね。仲間を売ったの?」
「だから仲間じゃねえって言ってるだろ!シュウトがいちばん使えなかった!革命活動もなにも手伝わず、ただ虐められている妖怪派を助けるだけ!終いには、その目障りな女を黙らせたら抜けるとか言い始めて!?クソみたいな人間のせいで僕たちは苦しんできたのに!なんでこの革命を理解できない!!!」
「芽木くんは自分と同じ想いをしている人を助けたかった、それだけなんだと思います。あなた方はそれを履き違えた。あなたたちがやったことはその憎い人間と同じ行動だった。だから、抜けたんですよ。そんなことも分からないんですか?」
大鳳さんは震えながらも、雨野くんに言葉をかける。
わざわざ言ってもきっと、この人には何も響かない。
それでも大鳳さんは彼が変わることを祈っているんだ。
「だからなんだよ。改心するとでも思ってんのか?んなわけねえだろ!バァアアアアアアアアアァ〜カ!!!!」
笑いながら、その場にいた全員を馬鹿にした雨野くん。
もう彼に聞くことはないだろう。
ただ、不快なだけだ。
「私はあなたを絶対許しません。」
大鳳さんは最後にそう言った。
「ああ?そうだなあ。僕もお前の泣き叫ぶ顔忘れないと思うよ。『ごめんなさい、許してください』だったかぁ?あっはははは!!!お前が僕にされたことは、一生消えないだろうさ。だって、事実だから!ボクに怯えて逃げた!アハ!アハハハハハハハ!!!」
最低な人だ。もう構う必要なんてない。
真実の追求は霊能協会がしてくれる。
そして、その罪も裁かれることだろう。
彼らはその力を悪用したのだから。
大鳳さんを除いた全員が、その場を後にしようと動き出す。
「どいつもこいつも無能ばかりだったよ!あっははははははは!!!」
雨野くんは負け惜しみのようにその場で叫び続ける。
先生に押さえつけられているが、挫けることもなく何度も叫んだ。
惨めだ。
「もういい。行きましょう。」
その場に黙って立ちすくむ大鳳さんに声をかける。
「絶対に、許せない。」
瞳に涙を浮かべる大鳳さん。
無理もないだろう。
少なくともこれで、紅の悪魔からは逃げれるのだから。
どう転がっても彼の思惑通り。
紅の悪魔から逃げ延びる。それだけのための作戦だったのだろう。
『よく言った。我が宝よ。』
「なっ……」
刹那。脳裏に聞き覚えのある声が響く。
この声、どこかで聞いたことがある。
そんなことを考えていると、荒れた空は突然、快晴となる。
眩しいほどの太陽。
そして大鳳さんに触れていた手が熱くなる。
「あっつ!?」
私は咄嗟に離れ、肩で呼吸しながら海道くんが割って入る。
「下がって!!!」
「な、なに?」
「いいから下がるの!」
犬飼は私の手を取り、先生は雨野くんを担ぎ出口に向かう。
刹那。目の前に炎を纏う大鳳さんが現れ、微笑む。
「大鳳……さん?」
「その穢れた血はこの俺の獲物だ。横取りしてくれるな。」
「まさか───────」
私はようやく事態の深刻さに気がつく。
大鳳さんの姿はみるみるうちに見覚えのある姿へと変わっていく。
忘れるはずがない。
間違うはずはない。
紅の悪魔は───────大鳳妃奈だった。




