第7話 第一章(3/3) エースの転落
遺伝子操作によって生まれた完全な人間――エース。
その能力は、あまりにも人間離れしていた。
それでも彼は、妹とともに“普通の高校生活”を望んでいた。
友人に囲まれ、笑い合う日々。
だが――その平穏は、たった一度の悲劇で崩壊する。
全てを奪われたとき、彼は“人間”でいられるのか。
登場人物
エヴァン・クリスティアン・アトラス:『Asエース』
ブルーノ:エヴァンの親友
ミア:エヴァンの彼女
マリー:エヴァンの妹
ミキ・竜宮:エヴァンの同級生
アカリ・竜胆:エヴァンの同級生
学校を出てブルーノに別れを告げると、妹のマリーと合流する。
マリーはどこか浮かない顔をしているのにエヴァンは気が付いていたが、あえて触れなかった。しばらくして、車が来ると、二人は乗り込む。
車は、高速道路を走行している。
何もしゃべっていなかったマリーは意を決したように兄に喋りかける。
「ねえ。兄さん。高校の先生は良い人?」
エヴァンは紙の本を読みながら返事をする。紙の本を持つ者がほとんどいない時代にもかかわらず、
エヴァンはこの質感が好きだった。
「ああ、申し分ないと思う。父さんには感謝しないとな」
「私ね……。高校は違うところに行きたいの。エデンタールじゃないところに」
エヴァンは紙の本をパタンと閉じた。
「そうか……。もう決めたんだな?」
マリーは驚いた。
「反対しないの?」
エヴァンは優しい目をしていた。
「どうして、お前が決めた事を否定するんだ? 悩み始めてからちょうど半年か。良く決断したな」
マリーははっとする。
「気づいていたの?」
エヴァンはうなずいた。
「妹の変化に気づかないわけがない。確か、芸術の授業を取り出したあたりだな。逆算すれば、アビリティで出た数値より別にやりたいことができたことまでは容易に推測できる」
マリーは愕然とする。
「どうして言ってくれなかったの?」
「いえばお前は俺のアドバイスに乗っかるだろう。それは嫌だった。お前自身の選択を邪魔したくなかった」
兄の優しい目にマリーの目から涙があふれた。
「アビリティは所詮一つの指標でしかない。その人の本当にやりたいことと素質が必ずしも合致しているとは限らないからな」
「お兄ちゃんが言うと説得力無いよ」
マリーの思わぬ指摘に、エヴァンは苦笑いする。
「なんにしろ、いい機会だ。さぁ今から父さんを説得する方法を考えないとな……。父さんの説得なら俺が加勢しても問題ないだろう」
マリーは兄を抱きしめたい衝動にかられた。そんな二人の様子を運転手はほほえましく感じていた。しかし次の瞬間、エヴァンは大声を上げた。
「前を見て!」
運転手が前を見ると、横向きに横転した大型トラックが回転しながら向かってこようとしている。
瞬間、エヴァンは自分とマリーの席のシードガードのボタンを手動で押した。
シートガードはカプセル状に二人の体を包む。
エヴァンは刹那の中、衝撃を計算していた。シートガードは本来であれば事故の瞬間に起動する装置だが、その手前で起動させることでさらに衝撃を緩和できる。
直後トラックがマリーたちの乗る車を直撃する。トラックが当たって車が爆発し、衝撃でエヴァンはシートガードごと、反対車線まで吹き飛ばされる。
そのさなかでもエヴァンは瞬時に当たる角度を調節して受け身を取った。だがいくら受け身を取ったとはいえ、ダメージは避けられなかった。
体中の痛みで朦朧としながらボロボロのシートガードカプセルから這い出て立ち上がろうとする。
ぼんやりとした視界に入る光景は、車があちこちに転がる大惨事だった。
薄れゆく意識の中でエヴァンは疑問を持った。
――なぜ『ガーディアン』がいない。
本来、事故予測をもとに現場にいるはずの『ガーディアン』が一切見当たらなかった。這いつくばりながら、必死でマリーを探そうとする。そんなエヴァンの背後に車が迫っていた。
エヴァンは一瞬その車の方を見て露骨な異変を感じ取る。
――スピードが落ちない……。危険探知は?
エヴァンは運転手と目が合った。運転手はハンドルを握りながら恐怖の表情を浮かべていたが、ぶつかることを悟ったのか目を閉じる。
――避けなきゃ……。
エヴァンが何とかよけようとしたその瞬間体が突然麻痺したように動かなくなった。
――ストッパー……?。
エヴァンの視界に最後の瞬間入ったのは空に浮かびストッパーをこちらにむけるガーディアン・ブルーの姿だった。




