第46話 第三章 舞台の始まり(3/3)
「ここはとおせんなぁ」
ドッグ達が一斉に銃を打ったが、それは全てイエローが両腕から展開した長方形のパルス・シールドに吸収される。シールドはイエローの両端に加えて2メートルほどまで広がっていた。
「弾き飛ばしてやる」
イエローが両手を地面にたたきつけると、シールドが両腕からパージして押し付けられ、ドッグ達はそのまま海に弾き出された。
「海側はイエローがいます。彼らが時間を稼いでいる間に体制を立て直さないと……」
イルザはキットを使ってイメルダの止血処理を完了させると、パニックになっているドーム内の統制を取り始める。
「皆さん落ち着いて聞いてください。今現在我々は海上から攻撃を受けています。順に避難誘導を行ないますので指示に従ってください!」
何とか周りの警護達を使って、観客達を誘導を始めさせた。
「アレックス。戦艦を横付けして!」
アレックスは乗っている陸側の戦艦一隻をドーム側に近づけて行く。
「イエロー。何とかなりそうですね。あとは一体ずつドッグを処理していけば……」
そう言いながら、ブルーがドッグの一人に狙いを定めていると、突然銃を上からレーザーが貫いた。
「何だ?」
一瞬空中を見るとそこにはレーザー反射版があった。
「こちらブルー。狙撃された! レーザーだ」
聞いてイルザはピンとくる。
――やはり来た鬼人の仲間。でもなぜ銃を? 本人を直接狙えばいいのに。
エヴァンは陸側の遠くのビルから狙いを定めていた。
「的中した。もう少しラビド・ミスルには頑張ってもらう」
横でモニターしているミキは、エヴァンの普段とは違う低い声のトーンに少し体が震えているのに気づいた。
「イージス! 天井にレーザーシールドをお願い!」
イルザの無線を聞いたイージスはドッグ達とバルカン砲でやりあいながら手を上に掲げる。するとドームいっぱいに広がる巨大なゲートが空中に現れて、そこからシールドが現れる。
――よし、これでレーザーはない……あとは皇室を戦艦に誘導しなきゃ……。
イルザは戦艦が横付けされた海側の出口を見る。しかし誘導虚しく、一斉にそちらの出口に向かって人が群がっていく。
「アレックス、救助員をこちらに寄越せる? 要救助者をそちらに搬送したい」
アレックスは自身も護衛の一人として入りながら、救助員を四人ほど戦艦からおろした。
イルザは叫ぶ。
「皆さん! 道を開けてください!」
しかし、イルザの声は届かない。イルザは銃を構えると、ドーム内の天井に向かって発砲した。銃声にみんなが振り返る。
「怪我人がいるんです。そこを通してもらいます」
皆、イルザの目におそれをなし、道を開けた。結果として、イメルダが撃たれていたことにより皇室を優先しやすくなったのはイルザにとって不幸中の幸いだった。救助員が開けた道からドーム内に入り、ストレッチャーに意識のないイメルダを乗せる。
「さあ、皆さん」
イルザはイメルダの家族及び、最重要人物であるその祖父母を護衛をつけて移動させる。
その様子をスコープで見ていたクロスハイドが呟く。
「まずいな。あれを逃がされると、こちらの優位がなくなる」
クロスハイドはドームの海側の出口で、再度海から這い上がって来たドッグ達ともにイエローと対峙していた。
「邪魔だな。お前」
ロボットではなく、しかも守りに徹しているイエローに対してクロスハイドは責めあぐねていた。クロスハイドは、ラビドにもらった剣を抜く。するとイエローはクロスハイドにしか聞こえないように呟く。
「行け。同士よ。風が吹いている」
瞬間、クロスハイドは察知した。
「お前……。そう言うことか……」
イエローは銃で殴れと目線を送る。クロスハイドは銃でイエローを殴ると、そのまま、会場内に入った。クロスハイドが銃を構える先にはイルザ達がいる。
「まずい!」
クロスハイドは皇室に狙いを定めてマシンガンを連射する。イルザは咄嗟に手のお守りを押してパルスシールドを展開する。
「遅いな」
クロスハイドは構わず周りの観客も含めて連射する。イルザは皇室を庇うように前に出て顔を背ける。イルザが目を開けると観客の前には周りに多数のシールドを展開したイージスがいた。
「僕が相手をしよう」
クロスハイドはニヤッと微笑む。イルザは胸を撫で下ろすと、そのまま皇室の面々を中から連れ出した。外に出てアレックス達に皇室を引き継ごうとしたその時、海側にいたドッグのエリポスがドームにたどり着く。そして、イルザ達に向かって銃を構えた。
――パルスシールドもない!
イルザが咄嗟に銃を構えようとしたが、庇うようにアレックス達警護部隊が前にでる。
「アレックス!」
エリポスは構わず銃弾を打ち込む。アレックス達は防弾装備をしており、何人かが当たって後ろに吹き飛んだが、アレックスが撃った弾が当たってエリポスはそこに倒れた。
「ほら連れてきた方がよかったでしょ隊長」
アレックスの緊張感を感じさせない軽口にイルザはホッとして微笑んだ。そのままイルザが皇室を戦艦側に誘導しようとしたその時、海側のドッグの一人、パーマーが長距離用のスナイパーライフルを構えた。
スコープの中にはイメルダの背後にいる祖父がとらえられているがうまくイルザが射線を封じていた。パーマーは邪魔なイルザに狙いを定めてトリガーを握る。
スコープから放たれているレーザーサイトに気づいたアレックスが叫ぶ。
「隊長危ない!」
アレックスはとっさにイルザを押しのける。パーマーの撃った弾はアレックスの胸の防弾チョッキを貫通した。
「アレックス!」
とっさにイルザと警護隊は海側に撃ち返すが、パーマーはそれを躱して逃げて行く。
パーマーが離れたのを見ると、イルザはすぐアレックスのもとに駆け寄った。
「アレックス……どうして……」
アレックスは口から血を出してイルザをじっと見つめる。
「隊長……無事でよかっ……」
アレックスはそのまま動かなくなる。
「ダメだ! 目を開けて!」
救助隊から簡易キットを借りて処置を施そうとするが、バイタルを確認しても機器はアレックスの死を告げるだけだった。
イルザは涙を必死で堪えた。ナターシャが無線で悲鳴を上げているのが聞こえてくる。
「早く、彼らを中へ!」
イルザは必死で叫んだ。警護隊は我に返りイメルダ達を戦艦に入れていく。
「部長、私は残ります」
一部始終を見ていたロブは冷静になろうと努める。
「お前、大丈夫か?」
イルザは血だらけの手を拭いた。
「どのみち要人を全員逃がせなければ我々の負けです!!」
ドッグは残り五人、三人は海でボートに乗っていて、残り二人はクロスハイドと一緒にドーム内に侵入していた。
――時間がない。なるべく早く避難させなきゃイージスも庇えない。
イルザは皇室が戦艦に入ったのを見届けると一気に避難を加速させる。
三十人がなんとか入ったかと言うところで、イルザは区切った。
「残り五十人近くいるんだぞ!」
記者の一人が吠える。
「順番です。この後もすぐ次が来ます。そちらに乗ってください」
イルザが言った通り、周りには警察本部が手配した船やボートが集まり出していた。
「部長なんとか皇室は戦艦に乗せました」
「ドッグとラビド・ミスルを殺せ。どのみち俺は終わりだ。狙撃許可を全体にだす」
ロブは半ばやけになっていた。
ドーム内ではクロスハイドとイージスが、撃ち合いを続けている。




