第44話 第三章 舞台の始まり (1/3)
オーシャン・ドームは、エルメ湾の内側にある、半径五十メートルにも満たない、小さめのドームだった。海上に浮かんでおり、ドームからは四方に陸につながる道が水上に用意されている。
しかし実際はその道を使う人はあまりおらず、みんな船やボートを移動手段にする人がほとんどだった。
今回のエルピナスの講演については、皇室が来ることから記者陣も合わせて500人近くがドームに集まることになっていたが、彼らはドームの近くに着いたあと、厳重なチェックを通っ者だけが通行許可をもらうと言う流れにされていて、不審者は通れなかった。
ドームの周りは、護衛用の船が四方にあり、その中にガーディアン二人が待機していた。ドーム内では、イルザが統括として内側の配置や、不審物の確認を行なっている。
そして、警護の一人としてドーム内にスーツを着たイージスがいた。イージスは女性の受付にネクタイを直してもらっている。
「すまない。こういうのはあまり着ないんだ」
女性の職員は初め、怯えていたが『何もしないよ』と彼が言ったので徐々に緊張が解けていた。
「はい。できました」
「ありがとう……。それと君」
「なんでしょう」
「受付が終わり次第、陸に戻るといい。君はここにいると死にかねない」
イージスの表情は穏やかだが目は冷たく女性の目をとらえていた。
海側には戦艦の他、小回りのきくエンジンボートがいくつかありその中には、バルキリー・ドッグ達がスタンバイしている。アレックスがドッグのボスであるデイルに戦艦内で指示を出す。
「お前らは、主に海側からの攻撃をカバーしてもらう。だが、必要に応じて、ドーム内のカバーも頼む。臨機応変に動いてくれ」
「ラジャー」
デイルは他のドック達にも、同様の指令を下し始める。
その様子を見ていたアレックスはイルザに連絡を取る。
「指示は出し終わりました。やけに素直なのが気になりますが……。一旦配置につかせます」
イルザはその連絡を受け取ると、ロブ部長にも情報を伝える。
「ドッグ達も、配置についたようです。彼らの様子に少し異変があるそうなのですが、特に変わったオーダーをされてたりしますか?」
部長は首を振る。
「いや……。まあだが、念には念を入れるか、昨夜1時間ほど連絡が取れなかった時間がある。いつもは気にしないが、今日だけは失敗できん」
「一応、待機しているうちの班に昨夜何か動きがないか調べさせます」
ロブは頷いた。イルザはそのままこの会話の録音を本部で待機しているナターシャ達に連携する。
講演の時間が近づき、皇室の面々が会場入りを始める。
「ねぇ、母さま。なんで私まで出なきゃいけないの? おじいちゃん達が興味あるだけなんでしょ」
12才になった彼女の服の胸には、オックスコムの紋章である羽の模様が付いたバッジがつけられていた。
「イメルダ。わがままを言わないで、今日は大事な日なの」
第一王妃、アリルはおてんば娘の行動に手を焼いていた。
「行儀良くしてろ。終わったら、ブレルニアの観覧に行ける」
兄のリオルの嗜めもあってなんとかイメルダのおてんばはおさまった。
一方出演者用の控え室に通されたエルピナスはパッドを眺めていた。
「株価は持ち直した……。利益率も悪くない……。ただやはり、研究費がかさみすぎているな」
エルピナスの補佐役に任命されている、コーカスが苦言を呈す。
「お言葉ですが、社長。我らの会社にとって研究は全てです。そこをコストカットしてしまうと、技術発展が望めなくなるかと……」
エルピナスは笑う。
「君はまだわかっていないようだね、経営というものを。私がなぜパッケージを導入したかわかるかね?」
コーカスは悔しそうに首を振る。
「それまでは、注文は全てオーダーメイドだったね、しかしそれでは顧客はあれもこれもとできもしない注文を重ねるだけ、こちらもありとあらゆる可能性に対処しなくてはいけなくなった。その労力のわりに顧客満足度は低いまま……。しかしパッケージを導入すれば良くも悪くもそれが指標になる。顧客も何も考えずに選びやすくなるんだ。」
「それと研究費の削減となんの関係が?」
エルピナスは笑う。
「ひとたびパッケージが導入されて仕舞えば、それ以上の商品は滅多なことがない限りは必要なくなる。むしろ少しパッケージに慣れさせるために次の技術ができても、商品化は遅らせる。ということは……」
「技術的な進歩は必要なくなると?」
「今よりはという意味だ。それに研究者というのは金の正しい使い方を知らん。与えれば与えただけ工夫せずに湯水のごとく研究のために使う。ここらで一度、工夫して成果を出すということを学んでもらう必要がある」
コーカスは言い返せなかった。前社長は元々研究者で研究の予算は糸目をつけなかったが、そのせいで経営が傾き出して今に至っている。
「今日はその第一歩だ。見ておくといい。これでパッケージが売れれば会社はさらに発展する」
クロスハイドはドッグの一人、ギリアムがいるエンジンボートに黒いフードを被ったまま座り、自身
の手を見つめていた。しかし実際はスキンを使っていて周りのカメラからはドッグの一人としてしか認識されない。
「もうすぐでそっちに行けそうだ。エリー」
エリーとクロスハイドが最後に話したのは、大戦に行く直前だった。
「同胞を守るための戦いだ。相手国の政府も、民間の村には手は出さないとしてる。怪しいもんだが……。危なそうだったらすぐ避難するんだよ?」
エリーは泣きながら頷いた。
「必ず戻ってくる。だから待っていてくれ」
そういうと、エリーとクロスハイドは抱き合った。
大戦が終わりなんとか帰り着いた後、クロスハイドが見たのは、焼け爛れた村だった。
なんとか家を探したが、あるのは無惨に焼かれた死体だけだった。なんとかエリーの家を探し出すと、焼け爛れた瓦礫を漁った。そこで彼が見つけたのは、彼が与えた指輪をしたエリーの亡骸だった。
「エリー……どうして!」
クロスハイドはそれを抱きしめて泣いた。その日から彼は何が起きたのかを徹底的に調査した。戦争の流れ、誰が村を焼き誰がその指示を出したか。
バルキリードッグの一人が、クロスハイドに銃を手渡す。




