第4話 序章(4/4) 鬼人四十面相と女刑事
高層ホテル最上階。
当選を祝うパーティーの最中、一人の殺し屋が姿を現す。
――鬼人四十面相。
標的は政治家グラハム。
現場に居合わせた女刑事イルザは、“剣聖”ヴエロと共に暗殺阻止へと動く。
登場人物
イルザ:女刑事
アレックス:イルザの後輩
グラハム:政治家
鬼人四十面相:殺し屋
ヴエロ:剣聖
ガーディアン・ブルー:特殊部隊『ガーディアン』の一員
アカリ:??
ミキ:??
今回の事件が起きる二ヵ月前、グラハムの婚約者リヒナ・アーガスタインは車で自宅に帰る途中だった。
道中おもむろにリヒナは運転手に指示を出す。
「そこで止めて頂戴」
運転手はうなずくと、ちょうど地下鉄の入り口近くの交差点でリヒナを降ろした。
リヒナはそのまま階段を下りて地下室のホームに向かうとちょうど来た電車に飛び乗る。
リヒナは少し周りを確認しながら、九号車まで移動した。そしてガラガラの席の真ん中に腰かける。
すると次の駅で、一人のフードをかぶった男が入って来る。
男はリヒナの正面に座ると相手の目をゆっくりと見た。
「リヒナ・アーガスタイン……本人に会えるとは思いませんでしたよ」
リヒナは尋ねる。
「どうして地下鉄なんですか?」
「あれですよ」
男は電車内の監視カメラを指さす。
「町のどの場所も、『Vision』に見られています。正直地下鉄も例外ではないですが、地下鉄はそもそもハードのレベルが低いから、ハッキングしやすい」
「ハッキングしているのですか?」
男はうなずく。
「そうです。あなたはここに一人でいるだけですよ。履歴には残らない」
リヒナはうなずいたのを見て男は続ける。
「あまり時間がありません。依頼を伺いましょう」
「私の夫、グラハム・ベルリッドを殺していただきたいのです」
「なるほど……。期限は?」
「彼が貴族院で最初の投票をする前です」
「一応、理由を聞いておきましょうか……」
「彼はオックスコムのいいなりです。このままいけば、デルタ地区の改革案、地区特権の剥奪が可決されてしまう……」
「デルタ地区……。ですか。ですがあなたはここの出身でしょう? 実害はないはず」
リヒナはここで黙った。そして決意したのか、ゆっくりと喋り始める。
「私の父方の先祖はそうです。しかし母のメヒナ・アーガスタインは元はデルタ地区の出身です……。あそこには私の親戚や友人達がたくさん住んでいる」
「グラハムさんはそのことを知らないのですか?」
「知っています。しかし、あくまで特権を剥奪するだけと言ってききません……。」
「それは事実では?」
「地区特権がなければ、常駐している軍は撤退を余儀なくされます。軍がいなければあそこはテロリスト達に占拠されてしまう。オックスコム達は費用を削減したいのです」
「彼一人を殺しても同じか、むしろ逆効果では?」
ここでリヒナは明確に首を振った。
「彼はデルタ地区改革法案の広告塔です。その彼が、テロリストに殺されたとあれば、世論は対テロリストに対する軍備拡張に傾きます」
「まあ効果は定かではありませんが、内容としては分かりました」
リヒナは恐る恐る尋ねる。
「引き受けていただけますか?」
「わかりました」
男とリヒナは握手を交わした。
時を戻して、グラハムが死亡してから、およそ30分後、リヒナが乗っていたのと同じ路線の地下鉄に一人の男がフードをかぶったまま乗り込んできた。
席に座ると男は周りに客がいないのを確認して、顔を二度触る。すると、男の顔は眼帯をした女の顔になった。女は肩を抑えるとふーっと息を吐く。通信デバイスから女の声がする。
「アカリ! 聞こえる? 傷は?」
アカリは言われるがまま傷を見る。
「痛むけど……。問題ない」
「よかった。 応急キットがあって助かったね。 早く戻ってこい」
「グラハムは?」
「死んだよ……。 奴がやった」
アカリの表情が一瞬固まった。
「そう……。ついに……だね。」
相手も一瞬黙ったが、また話し始める。
「とにかく早くかえって来な。一応こっちでも見ている感じバイタルは安定してるし、問題ないと思うけど、何かあると面倒だ」
「わかったよ。ミキ」
そう言うと、アカリは通信を切る。ミキは、10個ほどのモニターが並ぶ部屋に一人でいた。一度眼鏡を取って汗をぬぐうと、その部屋を出て地下室に向かう。
地下室には一人の男が近くの装置にケーブルでつながれた状態で寝ていた。ミキは男に呼びかける。
「おい。 聞こえるか?」
男は目を開けた。
「ああ」
「グラハムは死んだ。あんたの手柄だ」
「そうか……」
「報酬は約束通り三分の一だ。いいね?」
「問題ない。ありがとう」
ミキは部屋から出ようとすると、男に呼びかけられる。
「君らもこんな気持ちになったのか?」
ミキは振り返った。
「初めての時?」
「そうだ」
ミキは苦い顔をした。
「それはアカリに聞いた方がいい。あたしじゃそれに答える資格がない」
ミキはそれだけ言って部屋を出ようとするが直前で止まる。そして、
「今日は助かった。ありがとう」
とそう言って部屋を出て行った。
男は体を動かせないのか、起き上がらずに天井を見ていた。




