第3話 序章(3/4) 鬼人四十面相と女刑事
高層ホテル最上階。
当選を祝うパーティーの最中、一人の殺し屋が姿を現す。
――鬼人四十面相。
標的は政治家グラハム。
現場に居合わせた女刑事イルザは、“剣聖”ヴエロと共に暗殺阻止へと動く。
登場人物
イルザ:女刑事
アレックス:イルザの後輩
グラハム:政治家
鬼人四十面相:殺し屋
ヴエロ:剣聖
ガーディアン・ブルー:特殊部隊『ガーディアン』の一員
「合言葉はリヒナだ……」
瞬間イルザは何も言わなかったもう一人のグラハムに銃を向ける。
銃を向けられたグラハムはとっさに本物のグラハムに抱き着くと右手に仕込んでいた隠しナイフを首筋に突き付ける。
イルザは銃を構えたまま呼びかける。
「もうやめなさい! 彼を殺した瞬間、あなたの命もなくなるわ。私はあなたをここで逃がすくらいなら、命一つ犠牲にしても構わない……」
イルザの言葉にも鬼人四十面相はグラハムの姿をしたまま表情一つ変えない。
逆に鬼人はイルザにこう尋ね返した。
「なら今そうすればいい。二人とも撃てばいいのになぜそうしない?」
イルザは返せない。はったりだと見抜かれていた。鬼人は微笑むとそのまま、本物と一緒にビルから飛び降りる。
「待って!!」
イルザは追う。鬼人は本物のグラハムを手から離して自分はワイヤーでビルの下の窓に割って入る。
本物のグラハムは絶望した表情で空に手を伸ばしていた。しかし助けはなく、すごいスピードで落下していく。
――間に合わない!
その瞬間、青い人影が、飛行しながら落ちて行くグラハムの所に近づいていく。そして彼が地面にたたきつけられる直前で、腕からレーザーを放った。
レーザーはグラハムとその青い人影の腕を繋いでいる。グラハムは空中で静止して動かなくなった。イルザはほっと一息つく。
「間に合った……」
イルザの脳裏に警察と契約したと会見で発表した時のシトラス・ビアンテス社長の声がよみがえってくる。
『現実世界にヴィランは存在しません。しかしヴィランが存在しないからヒーローはいらないか? それはノーです。身近な起こりえる悲劇を救う真の意味でのヒーローがこの世には必要なのです』
そう言って、彼が発案したのが、今、グラハムを救い聴衆の歓声を浴びているヒーロー、通称『ガーディアン』だった。
『『ガーディアン』は、現在警察で使用されている、事故予測システム『マザー』と連携して事前に事故現場に直行します。 そして、事故の際にはこの……』
そういってビアンテス社長が紹介したのが、ガーディアンの標準装備である、通称『ストッパー』だった。
ストッパーは高度なレーザー技術で、対象事象をその場で静止、さらに操作することができる。この技術でガーディアンは発足以来、幾多の事故から人を救ってきた。
無線でイルザに呼びかける声が聞こえる。
「お疲れ様です。イルザさん。間一髪でしたね……」
声の主はグラハムを助けたガーディアン・ブルーだった。スーツの全体は青く、頭のメットまでブルーでコーティングされているが顔の正面は黒いグラスでおおわれている。
それはビアンテス社長が子供の頃憧れたという特撮ヒーローを想起させる見た目だった。
「助かったわ。『予測事故』じゃないのに、待機ありがとうね」
イルザは事前に必要になることを予測してガーディアンの待機を要請していた。
「何とかグラハムは助けられたわね……」
しかしガーディアン・ブルーがグラハムとゆっくり降下を始めたその時、突然、レーザー光線がグラハムの胸を貫いた。
驚いたガーディアン・ブルーがその方向を見るが、目視できるところに狙撃手は見当たらない。
イルザは驚く。
「何? 今の……」
ガーディアン・ブルーはグラハムを何とか、地上へと降ろす。
しかし、グラハムは目を見開き、口から血を流していた。観衆から悲鳴が上がる。イルザはすぐ連絡を取った。
「グラハムは?」
ガーディアン・ブルーはバイタルを確認するが、反応はない。
「ダメです。 やられました。どこかに狙撃手が待機していたみたいです」
――鬼人は単独犯じゃないってこと? こんなの今までなかった……。それに狙撃? ありえないわ……。管理局は何やってるの?
イルザのとめどない思考を分断するようにアレックスから、割り込み通信が入る。
「イルザさん! 指示をください」
イルザはすぐに頭を切り替える。
「アレックス! 鬼人はビルの中層階に入った! エレベータをロックして!」
「合点!」
アレックスは一時的にビルのシステム管理権限を自身のデバイスに付与させると、エレベーターを止める。
一方、ビルの一階では、防弾装備などで武装した警官たちが、出口を固めていた。そこに一人の警官が傷だらけで下りて来る。
「上の階に鬼人がいる……。応援に向かってくれ!」
その呼びかけに警官達は一斉に階段側に向かう。一人の警官は残ってその傷だらけの警官の手当てをしようとする。
「大丈夫か? 外に救急隊も待機している。そこまで手を貸すぞ」
「ありがとう……」
だが、手を貸した瞬間、傷だらけの警官は一言、「すまない」というと、助けようとした警官の足にナイフを突き刺した。
「ぐう! なにを!」
しかし警官はすぐに気を失ってしまう。
「眠って……」
そう言うと傷だらけの警官はビルから出て行く。ビルの周りには観衆が溢れていた。その中にはグラハムの家族たちもいる。
グラハムの両親は彼の妻のリヒナ・アーガスタインと共にもう動かない息子に必死で呼びかけをしていた。
その様子を返り血で血だらけのガーディアン・ブルーはただ見つめるしかできない。
アレックスは階段を上がって来た警官と鉢合わせする。
「お前ら何をしてる? なんで上がって来たんだ。下で待っていろと……」
「いや、怪我をした隊員が上に鬼人がいると言って……」
瞬間アレックスは階段にワイヤーをかけると、5階分を一気に下へ飛び降りた。
そして銃を構えたまま、一階に出る。一階には警官が一人、気を失って倒れていた。
「おい! 大丈夫か!?」
アレックスは警官が怪我をしていることに気が付く。
――傷がある。前と同じだ。ナイフに麻痺性の毒を仕込んでるな。
アレックスはイルザに連絡する。
「やられました……」
イルザは屋上から階段に入っていたが、その知らせを聞いて壁を殴った。




