第34話 第二章 赤い守り (2/6)
「今日は面白いものが見れるぞ」
ミキはそう言うと、ホログラムを見せ始める。
「依頼者はキュービック社顧問の、エレナ・デルピエーノ。27歳、一応本社の在籍も確認して、スキン未使用なことも確認済みだ」
相手が大企業と言うこともあり、ミキはかなり慎重に見えた。
「キュービック社の依頼……。想像がつかないな」
エヴァンの言葉にミキはうなずく。
「だろうな。依頼内容だが……」
ここホログラムが切り替わる。
「こいつだ」
そこには赤いガーディアンの画像があった。
「これは……ガーディアン・レッドか……」
エヴァンが驚いているのが気になったのか、アカリがチラッと反応する。
「本名はエランド・ノートンっていうらしいね」
長身かつ、さわやかな笑顔のエランドの姿が映し出される。
「あんたの前のトップスコア・チャイルドらしいじゃないか」
エヴァンはアカデミアの資料でエランドを見たときの事を思い出す。
アカデミアでは在籍時代の総合成績を順位付けする制度があった。過去の在籍者も順位に入るため、結果的に学生たちは昔の生徒の成績を知ることになる。そしてエヴァンが入るまで長らくトップに居続けていたのが、エランド・ノートンだった。
「依頼理由は?」
ミキは電車内の映像を出す。
「今回はなぜまたガーディアン・レッドを?」
いつもの通り地下鉄で、パーカーをかぶって白人のスキンをつけているアカリの対面に座るエレナが答える。
「基本的には弊社の脅威になるというのが正しい動機です。シトラスは、近いうちガーディアンに犯罪者の対策もさせるつもりでいる。しかもその際使う兵器はうちの会社の者ではなくシトラス社のものだ」
シトラスとキュービック社がライバルなのは業界内では有名だった。
「ではそこに一石を投じるためにガーディアンを殺すと?」
エレナはうなずく。
「そうです。わが社の邪魔になるものはいらない」
ミキはここで映像を切る。
「受けるのか? この依頼」
エヴァンはしっかりとミキを見つめていた。
「やらない理由は無い。やりたくないのか?」
エヴァンは逡巡していた。その様子を見てミキが意を決したように言う。
「ちょうどいい依頼が来ていたから言うが、あんた、あたしたちが殺す理由がある相手を選んでいると思っている節があるよね」
アカリは座って剣を抱えながら、ゆっくりとエヴァンをみた。
「違うのか」
ミキは言う。
「殺す価値のある相手なんていないんだよ。そもそもね。あたしたちはただ金をもらい人を殺す。自分の都合で。それだけだ」
エヴァンはミキを睨む。
「それで平気なのか?」
アカリがここで初めて喋った。
「相手に殺される理由があると思うほうが良くない」
エヴァンはアカリを見ると少しうつむいた。
「わかった。これは俺の覚悟の問題だ。今回は俺を入れずに計画してくれ」
そう言うと、エヴァンは車いすを動かしてロビーを後にした。
「ミキ。いじわるだね」
アカリはそう言うとミキにコーヒーを渡す。
「ここが本当の分岐点だろうと思う。あいつがほんとに私たちとやれるかどうかのね。はやくこういうのが来てよかったよ。むしろ」
ミキは受け取ったコーヒーをグイっと飲み干した。
エランドは自動運転の車にのり、ハイウェイを南下していた。
「ヒート・セイバーか……。ありきたりな名前だな」
自分に割り当てられた兵器のホログラム・カタログを眺めながら、酒を飲む。
すると、車内のスピーカーから音声通信が流れた。
「バーク地区のマンション、パークヒルにて火災発生予測。コールレッドです」
「ちっ。今日は外れか」
そう言うと車に常備している、酒覚ましのドリンクを一気飲みし、車のAIに命令を出す。
「天井をあけろ。直接換装して向かう」
車の上の天井が左右に開いていく。エランドが右の時計を押すと、音声が発せられる。
「アーマー・オン」
エランドの体に赤いガーディアン・スーツが装備されていく。
「ここからの距離を教えろ」
エランドは話す相手を車から腕時計のAIに切り替えた。
「およそ、2.5Kmになります」
「ナビを頼む」
そう言うとエランドは背中の空中制御システムを稼働させて一気に空中に飛び出し、そのまま現場方向に向かって飛んでいく。道中、エランドは昔のころの記憶を思い出していた。
エランドの父は厳格だった。息子にも完璧を求め、生まれる前から熱心にデザイン・チャイルドの研究を実施した。その結果生まれたのがエランドだった。生まれた息子の能力の高さに、父は大層喜んだ。母親は、普通の女で父とは違いエランドに優しく接した。
そんな家族の状況が一変したのが、クオンタム・ビルの爆発事故だ。
当時はまだマザーの精度もそこまで高くなく、事故発生予測も不完全だった。爆発の直後、ビルの近くのマンションに住んでいたエランドたちの部屋に、ビルのがれきの破片が落ちて来る。
次エランドが意識を取り戻した時に見た光景は父が燃え盛るがれきの下で必死に自分を逃がそうとしているところだった。
「父さん!」
母はすでにがれきに潰されていた。
「隙間がある……。逃げろ」
父の腕がもう限界なことが見て取れる。エランドは涙をこらえて、がれきから脱出した。しかし上層階にあるエランドのマンションも脱出はかなり厳しいように見えた。
エランドの心を絶望が支配しかけたその時、空中からガーディアンが現れた。当時は初代で色が付いておらず、ただのグレーのスーツだったが、エランドにとっては救世主に見えた。
「父さん!」
泣き叫ぶエランドを初代ガーディアン……ガーディアン・ワンは難なく抱えると現場から飛び去った。
「すまない、もっと早く来れていれば……」
それは女性の声でエランドは子供ながら、女性がこんな危ない現場に来ているんだという思いでが脳裏に深く刻まれた。
両親の葬儀が済んでから、エランドは自然とガーディアンを志していた。そして辿り着いたのが、『色付き』それもトップと言われるガーディアン・レッドの座だった。
「におうな。近いか?」




