第25話 第二章 クロノスタワーの攻防 (3/4)
アカリとミキ、そして新たに入ったエヴァン。
三人が今回暗殺のターゲットに選んだ人物は、エヴァンと同じ、遺伝子操作によって自身の能力を引き上げられらたデザイン・チルドレンだった。
厳重なセキュリティが施されたクロノス・タワーで果たして三人は暗殺を成功させられるのか?
登場人物
エヴァン・アトラス:主人公 通称『As エース』
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
クロノス:本話の暗殺対象
エリス:クロノス暗殺の依頼者
ライハ:クロノスにやとわれた弁護士
人型の警備ロボは男が入ってすぐのところで迎え入れると、安全確認用のスキャンを始める。
「危険物所持なし、身元確認終了。ライハ様入館を許可いたします」
ライハと呼ばれた白人の男は頷くと、クロノスタワーのビルをエレベーターで上がっていく。ガラス張りで透明なエレベータは150階を指したところで止まる。
ライハがエレベータの外に出ると、社長室までのルート案内が空中に表示されると同時に音声が聞こえた。
「社長室で社長がお待ちです。案内に従い、社長室に向かってください」
ライハは指示に従ってクロノスタワーを進む。社長室にたどり着くと自動でドアが開いた。
「入ってください」
ライハは入ると、自分のプロフィールを空中に表示させた。
「ライハ・ブルディスク。弁護士です。この度はご契約ありがとうございます」
クロノスは弁護士ライハをゆっくり見た。
「こちらこそ、どうしても今回の新商品売り出しについては専門的な知識を持った人が必要でね……。にしても良くできている……。顔の右半分かな? わが社の製品じゃない事に悔しさを覚えます」
ライハは自分の顔を触りながら笑う。顔の右半分が、鈍く光っていた。右目は義眼なのか時折、あたりを見渡すようにひとりでに動く。
「人工知能による脳機関補填……昔の技術では夢のまた夢でしたが、クロノスさん。あなたがそれを変えてくれると信じてますよ」
二人が会話をしていたその瞬間、ビルの窓ガラスが割れる。直後衝撃で、クロノスとライハは吹っ飛んで部屋の壁にぶつかった。
「なんだ……」
クロノスがゆっくりと見上げると、衝撃で割れた窓ガラスのところに日本刀を持った黒人の男が現れる。男はかけているサングラスをクイっと上げて直す。
「これは噂に聞く、『鬼人』か……。エリスだな」
クロノスはそう呟くと、空中のボタンでセキュリティをコールした。すぐに警報音が鳴り響き、人型のセキリュティロボが、社長室に向かって来る音が聞こえる。
砕けた窓ガラスの前にいる侵入者は、腰の剣に手を置いて構える。そして一度クロノスから目線を外して低く沈むと一気にクロノスに踏み込んで切り込む。
しかしクロノスに当たる直前で、その剣は横から足に蹴られる形で弾かれた。アカリが驚いて顔を挙げるとそこには無表情のライハの顔がある。
「このライハ・ブルディスクの前で人殺しはさせない」
ミキはロビーの複数モニターを見ながら唇をかんだ。
「なんなのこいつ……。 ただの弁護士じゃないの?」
アカリは数日前にしたブリーフィングを思い出す。
ミキがエリスとの会話音声を流す。
『社長は地下の技術室にいて、滅多に出てこないけど訪問者があるときは社長室で対応することになってるの』
『社長室……。そこで殺すほうがいいと?』
尋ねているのはミキの声だ。
『技術室は地下にあるし、侵入も困難よ。社内にはセキュリティロボが身辺調査をやってるからアポイントがないと弾き出されるわ』
『しかし……。社長室は150階ですよね……』
『ええ。だからこそセキュリティは少し緩く作ってある。狙撃はダウナーが検知してしまうからね』
そこでミキは再生を止める。
『ダウナー』 通称ダウンウェポンシステムは、政治家が集まるこの街独自のシステムだった。
監視カメラの技術発達で居場所が簡単に割り出されるようになった近代社会で、重要人物に対する狙撃やテロは首都の社会問題化していた。それを取り除いたのがダウナーである。
ダウナーは常駐する浮遊型狙撃監視装置で、街全体をスキャンしている。第一段階で観測地域内の全ての爆発物を検知し、第二段階で一定以上の高さにある狙撃可能な武器を全て観測する。
そして銃であればレーザーで対象の武器を無力化するのだ。
「エース。今回はあんたの力が必要になる」
後ろにいたDr.竜宮は微笑むと、エヴァンを別室に連れて行く。
「これを教えないとね」
Dr.竜宮がベットの横にある布をめくると、中から縦1メートル弱ほどの銃口が付いたスナイパーライフルが出て来た。
「これは銃ですか?」
エヴァンはロボット姿でそれに触る。
「そう。こいつがメインウェポン。通称DRAGOONだ。綺麗だろう? 高出力のレーザーが打てるスナイパーライフルだ」
エヴァンはまじまじとドラグーンを見つめる。
「スナイパーライフルですか……。ダウナーはどうするんです?」
Dr.竜宮は微笑む。
「当然対策してある」
そう言ってDr.竜宮は掌二つ分ほどの長方形の部品を見せる。Dr.竜宮がそれをエヴァンに投げると、それはエヴァンにたどり着く前に空中で浮いて静止した。
「これは……」
「レーザー反射板さ。君はドラグーンをここから地上から空中に向けて打つ、それをこいつで反射させるんだ」
「それだとダウナーに感知されないと?」
「ダウナーは領域範囲内、とくに標高20メートル以上の銃火器を検知してる。しかし、そいつは銃火器じゃない」
Dr.竜宮は反射板を指差す。エヴァンは納得した。
「打つ位置を常に低い状態にして、実際に当たるところは反射で調整するわけですね。ですがそれだと打つ場所が特定されかねないのでは?」
Dr.竜宮が、パチっと指を鳴らすと全く同じレーザー反射板がさらに三つ飛び出してきた。
「4つある。かつ君が打った後すぐ移動しておけばまあ、位置の特定はかなり難しい」
言いながらDr.竜宮は耳につけていたチップを外して、エヴァンのロボにつける。
「これがあれば、反射板の位置は制御できる」
エヴァンはロボにアクセスすると、反射板を動かしてみた。バラバラだった反射板たちだったが、30秒もするとまるでジャグリングの弾のように回り始める。竜宮はそれを見て苦笑した。
「触るのは初めてのはずだよね? いろいろ触った僕でもここまで動かせない……」
エヴァンは反射板を見ながら言う。
「かなり感度が高いんですね。多少調節できたりしますか?」
Dr.竜宮は頷く。
「エリスによると、新人が来るのは三日後らしい。そいつに合わせてアカリ、あんたは空中制御パックで150階まで行きな。久々に透明化のスキンを使う。30分なら持つだろ」
ミキが近くにあるバックパックをパンパンと叩く。アカリは頷いた。
「そんで、スタンバイしたら、エース。あんたが窓をあのバカの銃で壊して」
エヴァンは尋ねる。
「アカリの剣でも壊せるんじゃないか?」
ミキは首を振った
「あのレベルの窓のシールドを壊すには、ムラサメを『抜く』必要がある。あれはね軽々しく使いたくないんだ」
エヴァンは意味も分からず聞いていたが、何となくこの前の剣聖ヴエロとアカリの戦闘シーンを思い出していた。
「反射板にもスキンつけとくから、合図したら打つんだよ」
そして当日、アカリはライハの後方に浮かびながらついてきていた。
そして、ライハがビルに入るとホバーで一気にクロノスタワーの150階まで上昇する。彼女の真横には、反射装甲の一機がピッタリとついてきていた。
ライハが社長室に辿り着くと、ミキはタイミングを見はからう。
「今だ」
言われてエヴァンは、ドラグーンの発射レバーを押した。




