第14話 第一章 マッド・ドラゴン(4/5)
妹を救うため、エースは病室の中で戦い続けていた。
自由も、未来も奪われたその身体で——それでも、諦めるわけにはいかない。
そんな彼のもとに現れるのは、
科学庁の落ちこぼれ、そして命を狙う刺客たち。
彼らがもたらすのは、救いか。
それとも、さらなる絶望か。
登場人物
エヴァン・アトラス:主人公 通称『As エース』
バルギーム:科学庁長官
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
「ここは……」
中は、ただの廃墟ビルのような所だったが、アカリは近くの廊下をトントンと足で叩いた。
すると、廊下が反転して、地下へと続く階段が現れる。
そのまま、アカリに背負われて下に降りる。地下は太いコードの束が廊下を分断するように引かれていたり、大きな試験管の中に、ロボットが漬けられていたりと、一階とはまた違う、仰々しい雰囲気だった。
エヴァンが雰囲気に圧倒されていると後ろから声がする。
「ここは『ラビド・ミスル』の初代首領の忘れ形見だよ」
声の主はDr.竜宮だった。アカリは近くのソファにエヴァンを座らせる。その前に竜宮は座る。
「ラビド・ミスル? あなたは彼らと関係が?」
エヴァンは不快感をあらわにした。
「無理もない……。体を奪うきっかけを作った相手だもんね。しかし、僕らはもう彼らとは関係ないよ
」
「もう?」
「私は、彼らの初代首領、リビドとは遠い親戚でね……。その縁からここを譲り受けたんだ。もっとも、彼はもう死んでいて、今は三代目が仕切っていると聞くがね」
エヴァンは辺りを見渡す。
「ここは危険ではないのですか? おそらく襲ってきたのは、彼らでしょう」
「首領の隠れ家で、彼らは知らないよ。アジトは別に構えていたからね。彼が死ぬ前からほとんど僕が家として使っていたんだ」
話していると、後ろからミキが現れる。
「本気なの? こいつを入れたいって」
Dr.竜宮は頷いた。
「そうだね……。彼ほどの逸材はなかなかいないんだ。どうしてもね」
エヴァンは話が見えない。
「僕が何に入ると?」
「殺し屋家業だ。彼女達と一緒にね」
Dr.竜宮はニヤッと笑って、ミキとアカリを見た。エヴァンはアカリの今日の動きから、彼女がとてつもない身体能力を有していることはわかったが、殺し屋だとは思っていなかった。
「なぜ僕が入ると?」
「君は使わざるを得なくなる。あれをね」
Dr.竜宮はちらっと奥を見た。エヴァンがそちらの方向を見ると。そこにはガーディアンのような格好のロボットがケーブルにつながれていた。
「あれは……」
「ドラグーンとでも呼ぼうか。僕が作った新しいロボットだ。君が実験体になる予定のね」
「その話は今日お断りしたかと……」
「状況は変わったろう。君は狙われる側だ。彼らに対抗するには力がいる」
「なぜ僕を狙うんです?」
「ラビド・ミスルは君を殺すつもりだ。先の事故でも標的は明確に君だった。あとは巻き込み事故さ」
「問いは変わりません。なぜ僕を?」
「そりゃ遺伝子科学の結晶だからね。君が成功してしまえば、これから先、遺伝子科学の発展はさらに加速する」
エヴァンは疑問だった。
「それだけで殺すのですか?」
「正直なところをいうと、君を狙っていたのは他にもいる」
「他に?」
「そう」
Dr.竜宮はミキに指示する。ミキが指を鳴らすと、空中に、ホログラムで狼のロゴが現れた。
「これは……ウルフ社ですか?」
言わずと知れた、エヴァン達のような子供を産むための遺伝子操作技術を開発した会社だった。
「どうしてシトラス社が?」
「彼らの社長は最近、エルピナスに変わったのはニュースでみただろう?」
エヴァンはうなずく。それまでの優しそうな研究者だったバルナデス社長に代わって半年ほど前に社長になったのが、ビジネスマンの雰囲気バリバリのエルピナスだった。
「エルピネスはね、利益至上主義者だ。だから選ばれたんだが、前任は金を使いすぎたと判断されて、徹底してコストカットする方針に変わった。そこで目をつけたのが、エース基準の見直しだよ」
ミキが、ホログラムをさわると、会社のロゴの近くにアビリティパラメータが表示された。
「見直し?」
「アビリティ・オールAを作る上でもっとも難しいことは何かわかるかい?」
エヴァンは首を振る。
「それはね。人間性と、能力値の高さの共存だ。能力値が高くなればなるほど、人間性というものは本来失われていく。世の天才を見れば明らかな話だがね」
「そんな……」
「だが現実そうなんだ。人間性の中にある共感の項目などは特に、能力値を高めれば高めるだけ、失われやすい。まあこういう能力は一人では何もできない人間が、他の人とうまくやっていくために養われる能力だ。人に頼らないでいい能力を持っている人間には必要無い」
エヴァンはまだ繋がりが読めない。
「しかし、どうしてそれで僕が?」
「君はいわば、かなりきつい基準をたまたま満たしたイレギュラーだったんだ。正直量産には向かない」
「量産には向かない僕を排除することで基準を作り直したいと?」
「彼はそのつもりなようだね」
ミキが今度は新聞の電子データを見せた。
『ウルフ社、アビリティパラメータの、項目カットを検討か』
「それは危険なのでは? 遺伝子操作の懸念として、人間性を失わせることは禁忌として定義づけられていたはずです」
「全て削らなくても、いくつか削るだけでいい。少なくとも共感能力を削れば、大幅に難易度は下がるだろう」
エヴァンは自分の体を見つめた。
「しかし、本当にそれだけであそこまでの事件を?」
「もう一つ、黒幕がいる」
竜宮がミキに合図する。もう一つ出てきたロゴはガーディアンを司る、シトラス・カンパニーだった。




