第12話 第一章 マッド・ドラゴン(1/5)
妹を救うため、エースは病室の中で戦い続けていた。
自由も、未来も奪われたその身体で——それでも、諦めるわけにはいかない。
そんな彼のもとに現れるのは、
科学庁の落ちこぼれ、そして命を狙う刺客たち。
彼らがもたらすのは、救いか。
それとも、さらなる絶望か。
登場人物
エヴァン・クリスティアン・アトラス:『As エース』 遺伝子操作によって作られた完璧な人間
バルギーム:科学庁長官
Dr.竜宮:科学庁のお荷物
ミキ・竜宮:エヴァンのクラスメイト
アカリ・竜胆:エヴァンのクラスメイト
バッカス。それは国の中央に位置する政府の研究機関が集まる場所だった。
各建物はそれぞれの研究用に特化した建物になっていたが、中心に位置する建物はミネルヴァと呼ばれ、科学技術庁の役人が勤務する場所となっている。
ミネルヴァ自体の外観は他と同じただの大きなビルだったが、唯一違う点として入り口におおきな階段がある。
そこにちょうど長官のバルギームが何人かの護衛を連れて通りかかった。階段を上る途中で一人の男がバルギーム達の前に現れる。
「すいません長官。一瞬だけ私の話を聞いてもらってもいいでしょうか?」
護衛達が、バルギームを制す。
「長官お下がりください。お前、急に表れて無礼だろう!」
バルギームがその護衛を窘めた。
「良い。知り合いだ」
「バルギーム……。覚えていてくれたか」
「Dr.竜宮、知らないわけないだろう」
隣にいたバルギームの側近が口を挟む。
「この人。有名な方なのですか?」
「君も聞いたことがあるだろう。マッド・ドラゴン……」
「マッド・ドラゴンというと、あの? 使えない発明ばかりを繰り返す、バッカスのお荷物……」
バルギームが喋りすぎと言わんばかりに手で制す。
「そう。黎明期のマザーの開発に携わったというだけで、ずっと科学庁は彼を雇い続けてきた……そう私が来るまではね」
バルギームの目が鈍く光った。もともと、発明には金がかかっている。
特にマザーやガーディアン・システムを維持するためのコストや研究費は年々莫大になっていて、その財姿勢管理をまかされたのがバルギームだった。
二人の嫌味が全く耳に入らないのか竜宮は尋ねる。
「君にぜひ頼みがあるんだ! 私が最近提案させてもらった、新しい発明の実験に人を用意してほしいのだが……」
バルギームはため息をついた。
「何度も言ったのだが……君は今週で解雇だ。通達が行っていないのか?」
竜宮はうなずいた。
「いや、通達は来た。だが今週までは私はここの勤務だろう? であれば……実験体一人で構わないんだ。最後だと思って何とか都合してもらえないか?」
バルギームは少し顎をかくと喋り始める。
「そうか……。君の言いたいことはよくわかった」
竜宮は純粋な目を輝かせた。
「わかってくれたかい?」
「ああ、なんとかやれるだけやってみよう」
そう言うと、バルギームは歩き出した。建物に入り竜宮が見えなくなった辺りで側近が尋ねる。
「長官、手配されるんですか?」
バルギームは側近を一瞬見ると、笑った。
「本当に手配をすると思っているのなら……お前はまだまだだな」
竜宮は自分の研究施設のビルに戻ると荷物をまとめ始めた。周りの部下が尋ねる。
「どうしたんです? Dr.竜宮?」
竜宮は笑った。
「私がここでやることはもうない。今日最後の頼みをする次いでに長官に会いに行ったが、あの様子では望みは通らないだろう」
「竜宮さん……」
「世話になったね。ありがとう」
そう言うと竜宮はバッカスを後にした。
ミアはエヴァンと喧嘩した夜、家に戻ると憂鬱な気分で両親と食卓を囲った。
ミアの父は穏やかな人だった。ミアに対しても常に優しく、気配りを忘れなかった。
母も同様でミアは愛情たっぷりの家庭に育てられたことをいつも感謝していた。
ただ一つ、他の幸せな家庭と違うことがあるとすれば、それは家族全員の聡明さだった。
両親ともに遺伝子研究の専門家で研究を共にした縁から結婚した経緯があった。
当然娘であるミアは二人の研究の恩恵を色濃く受けていて、通常の能力補正よりも入り色々な調整が施されていた。
父はミアの表情が芳しくないのを察した。
「どうした? 食べないのか?」
「ごめん。おいしくなかった?」
母の心配そうな視線に気づいて、ミアははっとした。
「ううん。ちがうの。今日はいろいろあって……」
父は鋭かった。
「エヴァン君の事かい?」
言われてミアは顔を上げる。
「そう……。今日会ってきたんだけど、あまりいい感じにならなくって」
両親は互いに顔を見合わせた。
「エヴァン君とどんな話をしたんだい?」
ミアはゆっくりと話し出した。
「エヴァンがね……お父さんとお母さんは交際に反対するだろう……ってそう言うの」
父は目を丸くした。
「それはエヴァン君がこうなったからという意味かい?」
ミアはゆっくりとうなずいた。
「父さんたちはそんなこと言わないよね……」
ミアは恐る恐る、聞いてみる。父は母と目を合わせた。
「私たちは常にミアの幸せを一番に考えている。だからこそ言うが、ミア、もうエヴァン君とは別れなさい」
ミアは絶句した。
「どういうこと?」
「エヴァン君は、この先ミアの負担になるだろう。それはエヴァン君の望むところではないはずだ。であれば彼の言うように分かれてあげるのが望ましい」
ミアは必死で否定する。
「私の意志はどうなるの? 私はエヴァンと別れたくない」
リゴルの目が冷たくなる。
「それは本音かい?」
ミアはリゴルの目をなぜか見づらくなっている自分がいるのに気づいた。
「もしそれが本音なら、エヴァン君に何を言われようが、私たちの意見など気にしなかったはずだ……。今日私たちにこの件を相談した時点でミアの中には悩みがあるのだろう?」
ミアは言い返せない。
「おそらく彼と私たちの願いは一緒だ。君に幸せになって欲しい。それだけなのだよ。そのためには一度別れた方が良い。そして彼を気にせず、自分の道を進むことだ。そして夢をかなえた後、もう一度彼を選ぼうが、もう私たちは止めはしないよ。ただ今のまま、迷いがある状態で彼を支援する道を選ぶのはやめなさい」
ミアは初めて自分の選択を否定する父にすこし驚いていた。
「いつもは私の選択を尊重してくれるじゃない」
父はうなずいた。
「それはそうだ。しかし今回は違う。何よりミア。君は迷っているだろう?」
「でも……。今のエヴァンを放り出すなんて……」
「友達としての援助ならいい。しかし恋人というと勝手は違う。特にミアは優しすぎるから彼に尽くしてしまうだろう……。しかしそれはどちらにとってもつらい」
ミアはもう何も返せずうなだれるしかなかった。




