第11話 第一章 堕ちたエースの戦い(4/4)
事故に遭い、目覚めたエースを待っていたのは――想像を絶する悲劇だった。
奪われたものは、あまりにも大きい。
それでも、立ち止まることはできない。
エースは運命に抗うため、静かに動き始める。
登場人物
エヴァン・クリスティアン・アトラス:『Asエース』
ブルーノ:エヴァンの親友
ミア:エヴァンの彼女、知能評価はA
マリー:エヴァンの妹
ミキ・竜宮:エヴァンの同級生
アカリ・竜胆:エヴァンの同級生
ディラン:エヴァンの同級生。彼をライバル視している。
ミハエル・ロッド:ガーディアン・ブルー
彼はエヴァンの須賀を一目見ると絶望したような表情になった。
「これは。どういうことだ……。」
エヴァンはディランを見るとつぶやく。
「ディランか。来てくれるとは思わなかったな」
「なんてざまだ。『エース』が寝たきりか」
エヴァンは視線を自分の体に落とした
「そうだな。もう自力では起き上がることもできない……」
「終わったな……。やはり優れているのは俺の方だと証明された」
そうは言っていたが、ディランの表情はなぜか複雑そうだった。
「そうだな……。ようやくお前の望む通りになったな」
言われて、ディランはワナワナと震え始める。
「どうしてだ……。なぜ悔しそうじゃない?」
エヴァンの目はゆっくりとディランをとらえる。その目には光が感じられた。
「悔しがっていて欲しかったのか?」
「当たり前だ! どうしてお前はいつもそう、どこか高みから見下ろしたようにしゃべるんだ。まるで俺たちとは違うみたいに……。今のお前はどんな人間よりも矮小で、無価値な存在だ。なぜ平気でいられる?」
「お前の言う通り、俺はもう昔の俺ではない……。ただそれを俺は受け入れただけだ」
ディランは分からないという表情を浮かべる。
「受け入れた?」
「そうだ。変えられないことは受け入れるしかない。俺はこの体になってから、まず最初に状況を受け入れることから始めた。そうじゃないと、次にやるべきことを考えられない」
ディランは唖然とした。
「次にやるべきことだと? お前はもう終わりなんだよ。一生地べたにはいつくばって過ごすしかないんだ」
「一生地べたに這いつくばることと、終わりはイコールじゃない。不思議なことに選択肢が狭まったことで、得たこともある」
ディランは付いていけないとばかりに首を振った。
「お前はどこまで……」
「わざわざ、俺が落ち込んでいるかどうかを確認しに来たのか?」
ディランはエヴァンの射抜くような視線につい目をそらした。
「何を怖がっている?」
ディランはなぜか震えていた。
「ここに来たのは招待状をとりにきたからだろう?」
ディランは驚いた顔でエヴァンを見つめる。
「何を……」
「残念だが、あれはもうない。父さんに鑑定に出してもらった」
ディランは硬直していた。
「その反応……。やはりか、もらった時に、招待状に変な違和感があったが、これでようやくわかった。あれはマークだな?」
「マーク?」
「標的を僕だと見分けるための……そうだろう? 妹を狙うとは考えづらい。何か仕掛けたいのだろうとは思っていたが、まさか事故とは恐れ入った」
ディランは震えている。
「さっきから何を言っているんだ。意味が分からないぞ……」
「しらばっくれても構わないが、もう結果が出てるはずだ」
そう言うと、病室の壁にプロジェクターの映像が表示される。
「それを見てみるといい」
投影された画像には招待状の分解された画像が移っていた。
「僕のバックに入れていた。多少崩れたが、見てごらん? チップが入っているだろう? 他の招待客にも確認したが、他の人のには入っていなかった。なぜか僕ら二つ分だけ、識別用のチップが入っているんだ」
「……そんなの知らない……」
「そうか……今話してくれれば、これを全世界向けに公開しなくてもいいんだが、どうする?」
ディランはそれを聞くとボソッとつぶやいた。
「やめ……」
「ん?」
「やめてくれ……」
「公開をか? じゃあ認めるんだね?」
「認める。だからやめてくれ……。なんでもする……」
「そうか……。じゃあいくつか質問だ。なぜこんなことを?」
ディランは必死になった。
「俺も知らなかったんだ……。親父が、招待状を渡せっていうから渡した……。そしたら後になって、招待状を回収して来いって。そう言われて……」
「やはり、それで来たんだね? あとで妹の分の招待状を持って帰るといい、それだけでも十分だろう」
「いいのか?」
「その代わり、ディラン。これから先、僕にあることを誓ってほしい」
「あること?」
「簡単だ。君が父親から言われた情報や、家庭で見聞きした情報、全てを僕に秘密裏に共有してほしい……」
「父を裏切れっていうのか?」
「その情報を、君たちの失脚のために使うわけじゃない。僕の目的はただ一つ、妹を取り戻すことだけだ。それさえかなうなら、君たちは今のままの成功者であり続けられる」
ディランはがっくりと肩を落とした。
ディランが行ってしまった後、その日の夜に、エヴァンは父親にマリーの病室まで連れて行ってもらった。
マリーは病室のベットに呼吸装置をつけられた状態で寝ていた。エヴァンが呟く。
「マリー……」
「目覚める保証はないそうだ……」
マリーはまるで寝ているようにおだやかな顔をしていた。
「エヴァン。お前どうするつもりだ? 動画は見せたとおりだ。ガーディアンはあの場にいなかった」
「僕の記憶は今まで僕に嘘をついたことはない……。それに動画も観たが、あれには不自然な点がある」
父は振り向いた。
「不自然な点?」
「あの動画で僕は一瞬固まっていた。車が突っ込んでくる直前だが、あの視線の先にガーディアン・ブルーがいたはずだ。そうじゃないと体が止まる理由がない」
父はは考え込むように腕組みをした。
「それを認めさせるのは、至難の業だぞ。まずこの動画が編集されている証明がいるが……」
エヴァンは考え込んだ。
――技術力が違いすぎる。痕跡なく全ての監視カメラの動画の痕跡を消すなんて……。
「それに学校も、お前の進路だって……」
父の心配をエヴァンはひしひしと感じていた。
「学校はやめようと思う」
「お前……」
「もう決めたんだ。医者になる」
「マリーのためか? じゃあなおさら……学校に行かなきゃ……」
「通う時間が無駄になる……。学校の卒業認定は他でも取れるしね。他の事に時間を割く気はないよ」
エヴァンの目に本気の意志が宿っているのを父は察した。
「なら俺たちはサポートするしかない……。だが本当にいいのか?」
エヴァンは微笑みながらうなずいた。




