第10話 第一章 堕ちたエースの戦い(3/4)
事故に遭い、目覚めたエースを待っていたのは――想像を絶する悲劇だった。
奪われたものは、あまりにも大きい。
それでも、立ち止まることはできない。
エースは運命に抗うため、静かに動き始める。
登場人物
エヴァン・クリスティアン・アトラス:『Asエース』
ブルーノ:エヴァンの親友
ミア:エヴァンの彼女、知能評価はA
マリー:エヴァンの妹
ミキ・竜宮:エヴァンの同級生
アカリ・竜胆:エヴァンの同級生
ディラン:エヴァンの同級生。彼をライバル視している。
ミハエル・ロッド:ガーディアン・ブルー
エヴァンが目を覚ますと、横には心配そうなミアとブルーノが座っていた。
「起きたかよ……。ったく心配かけやがって」
「来てくれたのか……」
ミアは言葉を発せずポロポロと泣き始める。
ブルーノが代わりに説明する。
「ようやく面会オッケーだって言われてよ……。今親父さん達の代わりについてるんだ」
「そうか……。ありがとう」
「ひどいよ……なんでこんな……」
エヴァンは泣くミアを慰められない自分が情けなかった。
「すまない……起き上がれないんだ。助けてくれるか?」
ブルーノがエヴァンをなんとか起き上がらせる。
「本当に動かないんだね……」
「ああ、絶望的らしい。医療の進歩も追いつかないくらいの損傷だそうだ」
「そうか……リハビリとかしても変わらねえのか?」
「可能性は低いと言われてる」
「そんな……」
「これでもうガーディアンは無理かな……。首席で行くつもりだったんだが……」
エヴァンの軽口にブルーノは苦笑した。
「残念だな……お前がガーディアンになって皆んなにワーキャーされてミアが嫉妬してる所が拝めねえとは」
「バカ!」
ミアがいつものように嗜めたが、どこか悲しい響きだった。エヴァンは笑い終わると、ふとブルーノに合図する。
ブルーノは察して、飲み物を買いに席を外す。ブルーノがいなくなると、ミアは悲しさを紛らわせるように明るく声を出す。
「でも、これで私と一緒に研究者になれるね……」
だが、エヴァンはミアの目に映る悲壮感を見逃してはいなかった。
「ミア。俺たち、別れよう」
ミアは絶句した。
「何を言って。どういうこと?」
「俺は君の足手まといになるつもりはない。研究職は大変な仕事だし、そもそも俺の看護をしながらこの先ずっとなんて、今からミアに背負わせることは俺にはできない」
ミアは泣き始める。
「……そんなのおかしいわ! 私はあなたが好きなの! どんな状態になったってあなたが……」
だがエヴァンは首を振った。
「君が俺に惹かれたのは、肉体的素質の部分が大きいはずだ。知能では君の方がはるかに勝る……。ずっと情けで一緒に居てもらいたいとは思わないよ」
エヴァンはあえてひどい言葉を使っていた。
「肉体的素質だけに惹かれたわけじゃないわ! 性格や、他の全ての要素で惹かれたから私はあなたを好きになったのに……」
エヴァンは目線を下に落とした。
「じゃあ、俺が初めからこうでも好きになっていたかい?」
ミアは絶句する。
「それは……」
エヴァンはどこか達観した目をする。
「君は優しいから、自分からは俺を切れずに苦悩するだろう。その必要はない。それに……」
「それに?」
「君の両親は、こうなった今では交際を否定してくるはずだ」
ミアは怒り始める。
「どうしてそんなことがわかるの?」
エヴァンはしっかりとミアを見つめた。
「わかるさ。会ったこともある。その時に君の両親は君の幸せだけを考えていることもわかった」
「それがどうして交際を止めることになるの?」
「あの人たちは良くも悪くも、君を幸せにできるかどうかでしか、他人を判断しない。彼氏ならなおさらだ……。以前ならそれも自信があったけど、今となってはね……」
ミアは涙を流しながら怒った。
「いい加減にして! 私の両親を薄情な人みたいに言わないで!」
「何より一番悲しいのは、おそらく君もいずれ同じ思考になることだ……」
これに怒りが頂点に達したミアは部屋から飛び出そうとした。瞬間エヴァンが言う。
「次もし来るときは、一生俺の看護をすると心に決めたときにしてほしい。そうじゃないならもうここへは来ないでくれ」
ミアは一瞬立ち止まったが、そのまま病室を走り去って行ってしまった。
ブルーノが少し遅れて入って来ると、飲み物をエヴァンに飲ませてあげる。
「あそこまでやる必要があったのか?」
エヴァンは悲しそうにつぶやいた。
「ああしないと縛ってしまうからな。まあでも、両親のことは本音だ」
ブルーノは少し言うのをためらったが、ゆっくりと話始める。
「お前はすげえけど、もう少しあがいても良かったんじゃないか? 間違っているとは思わないけど、今結論を出さなくてもいいんじゃ……」
エヴァンは初めてブルーノに反論されて、目を丸くしていた。
「あらがうか……。確かにな。でも今回の事はどこか罰のような気がしているんだ。だからどこかで諦めている部分があるのかもしれない」
「罰?」
「そうだ。何もしていないのに遺伝子操作で素質をもらい、何不自由なく全ての機会を享受している……。今までずっと、どれだけ幸せでもどこか自分がそれに値するかは疑問だった」
「そんな……。俺たちはもうみんなそうだろ? お前だけじゃない……。それに才能だけが人間性の全てじゃないはずだ……」
「いや、人間性すら、才能だ。それがいまのデザイン・チルドレンの本質だろう? そうじゃなきゃ評価に人間性は入らない」
ブルーノは言い返す。
「お前の意志はどうなんだ? それすらも才能だとそう言うつもりか?」
エヴァンは少し黙った。
「影響がないとは言えないだろうな」
ブルーノはそこから少しして帰ったが、その後にディランが病室に訪れた。




