20.少年とお守り。
「おまもり?」
あらかた整理が終わった子供にアイテムを渡すと、不思議そうに首を傾げて問い返した。
「そうだ」
「こういうの、学校で見たことあるよ。先生がこういうのがあるって、教えてくれた」
そう言ってから、子供は様々な角度から、守護アイテムを見やる。この街…否、この世界に住む者は、必ず守護アイテムを持っている。基本的には魔物除けであるが、我々のような街の外部で仕事をする者などは、それ以外にも効果を持つ物を所持している。それだけ、この世界には脅威が多いのだ。例え街の中であっても、油断してはならない。
そして守護アイテムは常時身に着けていなければならないため、ペンダントやブレスレット、指輪など、アクセサリーのようになっている物が多い。子供に買ってやったのも、ペンダント型のものだ。水に強い素材で出来ているので、そのまま入浴しても問題ない。眠るときだけは首が締まる可能性があるため、外して近くに置いておくくらいだろう。恐らく子供も、学校でそう教わったに違いない。
「これはずっと持っていなきゃだめなんだよね?」
「ああ」
確認するように続けて子供に問われたので、我は首肯した。それを見てから、子供はネックレスをつけた。小さな石以外は特にこれといった装飾のないものだが、それでも印象はがらりと変わった。
「にあうかな?」
上機嫌な表情で再度問われたので、我は良く似合うと返してやった。望んだ返答が来たからか、途端に、子供が満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう、おじさん。僕、うれしい」
礼を言う子供の頭を、我はそっと撫でてやる。最近は学校で出来た友人と出掛けたり、ひとりで図書館に行く機会が多いので、ちょうど良かったともいえる。街の内部…特に子供が出歩くような場所には、街全体のものより強力な結界が張ってある。そうであっても、過去に悲惨な事件が起きていた。
大人と違い、子供たちは脅威に対する抵抗力を、ほぼ持っていない。この子供も術式適性は高いものの、だからといって戦闘能力を持ち合わせているわけでは無い。いずれはそれを活用する日が来るだろうが、それはもっと先の話になるはずだ。この子供はまだ、自分の住む世界のことしか学んでいないのだから。
「それから、夜は絶対に出歩かないように」
「宿屋から出ちゃだめってこと?」
「そうだ」
先ほど少女が語っていた幽霊話を思い出しながら、我はそう子供に釘を刺した。
「でもごはんを食べて、お風呂に入ったら、僕眠くなっちゃうから、お外には出ないよ」
そう、子供が語る。確かに共に食事をとり、入浴を済ませてしまえば、この子は自分のベッドで本を読みながら眠ってしまう。時折宿題の残りを片付けていたりしているが、宿屋の外から出たことは一度もない。信用していないわけでは無いが、保護者として言っておく必要があるだろう。
「最近、街の外が物騒になっている」
「ぶっそう?」
「危ないということだ」
さすがに物騒という単語は通じなかったらしい。相手にも分かりやすく言い直すと、分かった、と子供が頷いた。これは聞き分けの良い子だから、我の言いつけを破ってまで外に出たりはしないはずだ。とりあえず一安心、といったところか。
「そうだ、これ、おじさんに」
そんな会話を交わした後、何かを思い出したかのように、子供がカバンを漁って、一枚の紙を取り出す。そしてそれを我の目の前に差し出した。
「どうした」
子供から手渡された紙には、学校からの通達である紋章と、学校の保護者への連絡内容が綴られていた。よく目を通してみると、どうやら子供たちの日々の授業を保護者が観覧する、いわゆる授業参観があるようだ。日程は次の週になっている。
はてさて、困った。無意識に低く唸ってしまっていた。我は子供の保護者だ。それは周知の事実ではある。我もそう自認している。だがこの巨躯では周囲の保護者の邪魔になるだろうし、何より我はそういうものに慣れていない。見知った者と過ごすならまだしも、ほとんど知り合いのいない場所に飛び込む勇気などない。さっきまで保護者気取りで話していたというのに、あまりにも大人気なく情けない話だ。
事情を話して女主人に頼んで代わってもらおうか。彼女はそういうことに慣れているし、そつなく保護者をこなしてくれるだろう。うむ、その方がいい。問題は彼女が応じてくれるかどうかだ。そこが難関なのだが、何とか突破せねばならない。
「おじさん、きてくれるよね?」
にこにこと微笑みながら、子供がそう聞いてくる。この子供は我が来てくれるものだと信じ込んでいるらしい。女主人にこの件を頼み、そして子供に我は行けぬと説得せねばならない。どちらも至難の業と言っていいだろう。この子供はこう見えて頑固なところがある。まさかこんな些細な理由で困るとは想像すらしなかった。
「少し、考える」
我は答えに困ってしまったので、そうやって誤魔化してしまった。本当に、情けない話だ。
今回はここで終わりです。次の更新までお待ちくださいませ。よろしくお願いいたします。




