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魔族の子。  作者: フツキ。
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19.少年と菓子。

 我が食事を終えた頃、学校から帰ってきた子供が、こちらへとやって来た。その小さな身体には不釣り合いなカバンをさげ、手には本を持っている。どうやら宿題が出されたようだ。出入り口に近いカウンターに座っていたからか、我の身体が他人より大きいからか、すぐに子供の目についたらしい。

「ただいま、おじさん」

「うむ」

 速足で駆け寄ってきた子供の方へ、我は身体を向ける。するとカウンターの少女も子供の帰宅に気付いたのか、いつもの接客以上の、極上の笑顔を見せた。

「おかえりなさい!」

「ただいま、お姉さん」

「何か飲むか?」

「うん。でもこれ、置いてくる」

 そう答えて、子供がカバンと本を見やる。長期間の「仕事」でなければ、我の部屋にはほとんど鍵をかけない。長期間滞在しているのが我だけというのもあるし、ここの宿屋は安全面に関しては全幅の信頼を寄せている。本当は鍵など必要ないくらいに。なので子供はすぐ戻るねと告げてから食堂を出て行った。

「よーし、ミルクとお菓子でも用意しようかなっ」

 弾んだ声で、少女がそう言いながらキッチンの方へ進んでいく。そのときにさりげなく我の皿をきちんと持って戻るあたり、彼女もプロなのだと思わざるを得ない。もしかしたら、接客業ではそれが当たり前のことなのかもしれないが。

 そう考えているうちに、子供が戻ってきた。まだ幼い身体では、座るのに、カウンターの椅子は少し高い。座るのを手伝ってやると、キッチンから少女が温かいミルクとクッキーよりもやや大きめの菓子を持ってきた。あまり見慣れぬものだ。我は菓子の類に詳しくないというのもある。

「ミルクとスコーンよ。新作の試作品なの、食べてみて」

「すこーん?」

 少女の言葉を、不思議そうにかくりと首を傾げつつ、子供が反芻する。子供の手のひらに収まるような菓子は、スコーンと呼ぶらしい。我も聞いたことの無いものだ。普段口にしているクッキーよりもだいぶ分厚く、そして皿の上には何らかのジャムと、薄黄色い塊が乗せられている。

「別の街で流行っているお菓子なんですって。だから試しに作ってみたの。ジャムとか、クリームとかつけると美味しいらしいのよ」

 やはり我の予想は当たっていた。ジャムの隣にあるのはクリームのようだ。子供は不思議そうに手中のスコーンを様々な角度で眺めてから、その小さな口でスコーンをかじった。途端に、満面の笑みが広がる。どうやらそれは子供にはかなり美味だったようで、スコーンをかじる動作は止まらない。

「そんなに急ぐな」

「うんうん。結構パサパサしてるから、ミルクと一緒に食べるのよ。ジャムもつけてみて。今回はいちごだよ」

 少女にそう説明され、子供はおっかなびっくりといった動作で、スコーンの欠片にジャムをそっと塗ってから口に運ぶ。また子供の顔がほころんだ。

「おいしい!おいしいよ、お姉さん」

「良かったぁ~!作ったかいがあったわ」

 にこにこと笑う子供に対し、満面の笑みで少女もそう答える。思いがけない菓子を食べれたのか、子供はかなり満足そうだった。我も食事を終えたので、共に部屋へ戻ることにした。これに守護アイテムを渡す必要もあるし、夜出歩かぬよう釘を刺しておかねばならない。

 小さな身体で我の後を追いかけながら、子供は今日学校であったことをあれこれと話している。やはり宿題が出されたようで、カバンの中身を整理してからやらなければならないと語った。宿題は難しい内容なのかと聞けば、たぶん大丈夫、と子供が答えた。子供は我に嘘をつかない。ならば本当に問題が無いのだろう。

 がちゃりとドアを開けると、子供が窓際にある自分用のテーブルに駆け寄っていく。そこにはカバンと本が置かれたままだったので、これから整理をし始めるのだろう。合間を見て、声を掛けるとするか。我は守護アイテムを手に取ってから、大きめの椅子に座った。

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