幕が上がる
「みなさん、楽しむ準備は出来てますか~?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「あぁ~あ、なんか胃が痛くなってきた気がする」
「気のせい気のせい。 いざやるとなったら、ノリノリになるんじゃない?」
「出来るなら周りの目なんか気にしないで楽しくやりたいところだけどな……」
まあ、参加は決まっちゃったしな。
今から何を言ってもどうしようもない。
「こんなに盛り上がってて大丈夫なのか……? 誰かしらやらかしそうな気配がするんだが……」
「そこはみんなある程度わかってるでしょ。 この学校は頑張って勉強して入った人しかいないもん。 素行不良の生徒なんか誰一人いないって。 先生もちゃんと見てるしね」
「いや、明梨…………それがさ……あれ…………」
そう言って僕はそーっと後ろを指差す。
立ち上がって声を上げている生徒たちのさらに奥。
各クラスの先生が集まっている中、一人だけ背丈が高い人。
その先生は、大半が座っている先生方の横で…………
「いいぞぉぉぉ! もっと盛り上げろぉぉ!」
一人生徒に混ざって大声を出し、その大きい身体を使ってはしゃいでいる。
ほとんどの生徒は物凄い盛り上がりで全く気付いていない様子だが、近くの生徒は驚くどころか呆れている様子だ。
生徒たちの視線を受けても先生は声を出し続けている。
それどころか、周りの先生たちにも絡み始める始末。
挙げ句の果てに、先生方も全員立ち上がって、よりこの場を盛り上げようとし始めた。
「…………なんか……すごいね、あの人…………」
「う、うん……澤谷先生も、あんなにはしゃぐことってあるんだな。 あんなところ見たことないよ……」
流石の明梨もあの様子を見たら少し引いているみたいだ。
……いや、仕方ないだろ。
普段はさわやかなイケメンで、何かあっても冷静に対応することから女子生徒からの人気も高い澤谷先生。
そんな先生が突然立ち上がって熱くなっている様子を見たら誰でも一回は引くだろう。
そんなことを考えながらそのまま先生を見続けていると、うっかり目があってしまったようで僕と明梨は慌てて目を逸らす。
あんなに笑顔で……先生もめっちゃ楽しんでるなぁ……。
「あの様子じゃ、この熱気は全く冷めそうにないね。 まあ、みんな楽しみにしていた宿泊行事なんだし、その初日の夜だもん。 楽しまないと逆に勿体ないよ」
そう言って、明梨も立ち上がって声を出し始めた。
不思議なものだ。
宿泊行事だとか、修学旅行だとか。
誰もが普段見せないような一面を見せる。
普通なら、こういう場所はみんなに乗っかってでもはしゃいで、騒いで、楽しむべきなんだろうな。
今までは、自分のことばっかり考えていたのか、こんな気持ちになったことはなかった。
こんな非日常だからこそ、出来ることがある。
少し羽目を外したところで、誰も悪意を込めて笑わない、誰も良い意味で気にかけない。
「まず最初は、音楽部によるライブです! 皆さん、もっともっと盛り上がっていきましょう!!」
司会の声がホールに響く。
それに合わせて、僕ら生徒たちのボルテージも上がる。
……それに続いて先生方も。
「ほら、優も立って! この夜は一度きりだよ!」
そう言って明梨は笑顔で座っていた僕に手を差し出す。
僕のキャラじゃない。
そんな言葉はまるで元から存在しなかったかのように、ふありと頭から消え去る。
「この夜は一度きり、ね。 ほんと、明梨にはいろんなことを教えてもらってるな」
「ほーら、カッコつけてないで、優も騒ぎまくっちゃお!」
「なっ、いや、カッコつけてるわけじゃーー」
「いいからいいから!」
こうして、一度きりの夜が始まった。
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