87.入学式と邂逅6
お待たせしました。
一年間とちょっと経ってしまいましてすみませんでした。
お楽しみ下さい。
さて、主席が来ていない状況だが、その事は関係なく時は進むのである。
刻一刻とその時は近づいてくる。
腕章授与されるその時がジリジリと迫りくる。
焦燥感が増すのが窺えるレイノルド。
その様子を窺い、つられて焦燥感が増すレストとフォスター。
誰かの喉が鳴った。
と、その瞬間小さな変化が生じた。
変化に気付いたのは僅か四人であった。その位小さな変化であったのだ。
ひたすら主席の席を気にしていたレイノルド、レスト、フォスター。(レストとフォスターは次席の人であるレイノルドを気にしていたのだが)それに常に会場内を把握していたエトルア国国王ファルトリート・クラヴィアス・ル・エトルア陛下その人であった。
小さな変化とは主席の席に小さな光が生じたことであった。それは本当に小さな小さな光で、米粒の様な小ささであった。その光はその大きさを変え平たい円状に広がっていった。文様が描き込まれたそれは手のひらサイズになりその大きさを変えるの止めたのであった。文様が描き込まれた円状の物は魔法陣であった。
魔法陣が浮かんでいる下。椅子の上には小さな布の様な物が在る様である。どうもそれが光――魔法陣の出現元であるらしい。
「良し、間に合ったらしいな…。それに成功だ!!」
レイノルドが小さく呟いていた。どうも件の魔法陣は転移陣の様である。が、しかしレストとフォスターは釈然としないものを感じたのであった。なぜならば、その呟きの中にあるのは彼の主席が間に合った安堵よりその後に呟かれた何かに対する成功に重きが置かれていた様に聞こえたからである。
だが、後に知ることになるのである。この時の二人の直感は的を射ていたのであった。
この時、移動陣で移動してきたのは主席本人だけではなかった。もし、主席本人だけがそこに出現したのならば他の人々が気付くこともなかったであろう。それ程ファルトリート陛下の挨拶に皆集中していたのである。
だが、その集中を途切れさせる出来事が起こったのであった。何かが落ちる音である。必然的にその音が鳴った方を向くことになる。そして、反応は二つに分かれたのである。
紅い髪に碧玉の瞳を持つ少年。彼もまた端正な顔を持っていた。その姿は直ぐに貴族と分かる。だが、悪戯っ子の様に始終楽しそうな雰囲気を醸し出す少年であった。そのきらきらと輝く瞳が今は失敗したなぁ、と云う様に困った色を載せている。そして、少年は自分と共に出現してしまった少年の私物――フラスコ等々と何やら実験道具らしき物々をかき集めて件の転送陣らしき陣を発動させて突っ込んでいた。
そんな彼――音の発信源を見てまたか、という表情で納得する者と吃驚して呆気に取られる者との二通りである。実はこの前者は王都に住まう者、後者は地方に住まう者である。
前者の王都にいる者では彼が奇矯な行動をすることを知らない者はいないのである。何せ彼の奇矯な行動は王都では毎回のことで枚挙に遑がないのだ。それ位王都では彼の奇矯な行動は常識であり名物である。実はその奇矯な行動には相方がいる所までが常識であったりする。
例を挙げれば彼が10にも満たない歳で疾走した件があった。それは彼が魔法陣の移動魔法陣について研究のため実験をしていた時に起こったのであった。それは相方の少年とは一緒にいなかった折に起きた出来事であった。
大人たちは慌てた、大いに慌てた。捜索も大掛かりな物であった。何といっても彼はエトルア王国の四大公爵家の内の一つに連なるワイズナー家の嫡子だったからである。
そんな中一人冷静な者がいた。相方の少年である。彼の少年は大人たちに「心配しなくてもその内帰ってきますよ」と言い放ったのだ。しかも読んでる本から顔も上げもせずに、である。大人たちは憤った。彼の態度に大いに憤ったのだが、後に彼が言ったことが正しかったことを知るのだ。
相方の彼が言ったように紅い髪の少年は数か月後無事に帰ってきたのであった。拍子抜けするほどケロッとしており、心配したことが莫迦らしいほどだったと云う。そして相方の少年は「ほら云った通りだったでしょう?一々心配していたらきりがないし、無駄ですよ」と諦観していたらしい。この件で相方の彼が子供らしくない子供だと知れ渡ったのは余談である。
何回かその様なことがあったので、その内当たり前のこととなっていったのである。
その為、地方組が呆気に取られている中、式は何事も無かった様に粛々と進んでいくのであった。
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