63.散歩と邂逅3
神殿でのお茶会で仕入れる話とは本当に世間話程度の些細なもので大掛かりな政治的、世界的事件とは程遠いものが多い。
例えば、○○さんちの飼い犬が△△さんちの飼い犬と喧嘩したとか誰かの落し物はどこどこにある、程度のことだ。だからと言って政治的な話が全然ないかというとそうでも無い。某国の伯爵がとある謀略を練っていたが頓挫して何処かから暴露されてお家断絶。どうも手を出した使用人が間者だったらしい。まぁ他にもボロを出して結構警戒監視されていたとう裏事情だとかも知っていたりする。神殿には“風の噂”統括部である“風の神殿”が在るからの情報の濃さであり正確さがあるのだ。下々のことからお上のことまで何でもござれ状態なのである。
そんなお茶会の話は今回は少々物騒な話だった。
近頃人攫い・・・人間だけでなく動物の類にまで及んでいるらしい。その特徴と言えば珍しいの一言に尽きる。珍しい生き物を攫っているというのだ。昨日攫われたのは工房区に居る仔猫であったらしい。毛並みは青銀、瞳は翠とピンクのオッドアイであるという。その仔猫はリュリュという名で“祝福持ち”で精霊の名付けを受けた珍しい仔であったというのだ。攫った手腕はなかなかのもので精霊たちを以ってしても犯人が特定できなかったらしい。
その様な話を今回は仕入れてレストはお茶会を引き上げたのだった。
神殿は工房区にあるのでレストはそのまま工房区を歩く。
その辺りを住処とする動物たちとの挨拶も抜かりない。レストは生き物については意思の疎通は可能だからである。挨拶は大切だ。いざと言う時のために様々な者と仲良くなっていて損は無い。まぁ、建前である。ただ友人関係にあるだけだ。
そして工房区の住人たちにも挨拶をしつつ情報収集を行う。やはり此処でも生き物攫いの話題が挙がった。どうも話題のリュリュはこの辺りのアイドル的存在だった模様。皆一様に心配していた。餌を食べにこない、だとか昨日から可愛らしい声が聞こえないだとか、猫たちのコミュニティでも“大事なちび”と可愛がられているらしく昨日から見かけない帰ってこないと言うことが頻繁に語られた。
次第に他の話外の中にも別の地区の珍しい色合いの犬が居なくなっただのと拉致が頻発していることが事実だと分かったのだった。
取り合えず、世話になっている鍛冶工房に寄る。アースルトに打ってもらった武器のメンテナンスをお願いしていたのだ。この工房の主はドワーフでアースルトも認める鍛冶師である。アースルトから精霊石で造られた武器類のメンテナンスの指導を受けている。ミルシェもお世話になっている鍛冶師である。
レストは工房の入り口を開ける。開ける前は小さい音であったカンカンという音は扉を開けたことで大音量で聞こえてくる。その音源に近付き音にかき消されない様に大きな声でレストは呼んだ。
「親方!」
レストの声が聞こえたのかレストの目の前のドワーフが道具を置いて振り返った。
「おう、レストか。メンテナンス出来てるぞ。変化する時に少し違和感感じたろ?その辺りを直しておいた」
「ありがとう。ケーナン親方」
礼を言ったレストは親方の様子が変なことに気が付いた。
「親方、どうかしたのか?」
「んー。レストは知っているか?最近生まれた毛色の違う仔猫がいてな」
「あぁ、リュリュとか言う仔だろ?」
「そうだ。今日は見かけんのだ」
親方が溜息を吐いて言った。
「なんだ、親方もご執心?」
「まぁ、可愛いのもあるんだが“祝福持ち”なのは?」
「ん、知っている」
「あの仔は地属性で特に鉱物系と相性が好いらしい」
「へー。ドワーフ種族と共通するなぁ」
「因みにドワーフよりよっぽど相性が好いぞ。あの仔が居ると鉱物が良く応える」
「それほど!?」
「あぁ、あの仔自身も鉱物の近くに居るのが落ち着くのかよく此処に来るんだが、今日は見んのだ」
「親方、良くない情報。その仔攫われた」
「何!?どうにかならんか!?」
「そうだな。色々きな臭いしこっちも調べてみるよ」
「頼む!」
「分かった」
レストは神妙に頷いて工房を後にしたのだった。
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