57.奇跡の鍛冶師8
カーン カーン カーン カーン
精霊石を打つ槌の音が響く。
槌を精霊石に打ち付けるたびに火花が飛び散るように光りの粒子が飛び散る。飛び散った光りの粒子はやがて文様を描き、打たれている精霊石へと還って行く。
只管アースルトの手によって繰り返されていく。
その作業を行っているアースルトは既に汗だくになっている。半精霊では珍しい焼けた肌を玉の様な汗が滑り落ちていく。この状態がまた半精霊にとっては珍しいことだ。半精霊はほぼ汗をかくという状態になる事が少ない。何故ならば彼らは自然に近い存在であるからだ。故に暑さや寒さなどに驚くほど強い。人間には耐えられない所でも平然としている。
その様な半精霊であるアースルトが夥しい汗を流しているということはそれ程の事が成されているからである。
光りの粒子が文様を描くまでには間がある。それはアースルトの成していることであるからだ。彼によって今造られている武器の性能が決まるのだ。武器の形状を変えたいというレストの為の作業である。
形状などの基本の型などを組み込み記憶させているのだ。今までアースルトでさえやった事の無かったことである。全ての武器を対応させようということは。今までは最高で三つまでを型の付与をしたことはある。しかし、それ以上に世の中の全ての武器となるとそれはそれは大変なことになる。
光りの粒子が描いている文様は所謂武器の設計図の様なものだ。だが、使用者のアレンジがきくように調整されているというチート仕様となっているものではあるが。故にその文様を描き出す作業は一つの武器を作り出しているに等しい。それでも描き出す時間の微々たるは流石と言うべきだろう。
ざわざわと周りが騒がしい。
ふと、レストは周りを見渡した。
確かにアースルトの側には精霊たちは居ないが、工房の外には詰め掛けた精霊たちで溢れかえっていた。
アースルトが行っている作業はそこまで精霊たちを惹き付ける物なのか、と少し疑問が湧く。精霊たちは愉しいことが好きな性分なのは理解しているが、それとも違う何かがここに集まってきている精霊たちにはあったのだ。
何よりも普段ではありえない高位精霊たちが集まってきている。一所に高位精霊がこれ程多く集まることはほぼ無い。
それこそ集まるに値する何かが起きない限りありえないのだ。
精霊たちが視えないミルシェも異常を感じたらしい。武人の勘とも言うものかもしれない。ミルシェが忙しなく周りに視線を走らせている。異常事態という感じである。
レストはそんなミルシェに目配せをし、小声で話しかけた。
「ミルシェ、何か様子がおかしい。高位精霊は本来一所に集まってこないはずなんだ。何か重大なことが起きない限り」
「成程。この少し圧倒される気配は高位精霊が多く存在しているということなのですね?レスト様」
「そう。今、工房のまわりが凄いうことになってる。精霊で溢れてるよ」
「何か嫌な予感がしますよ」
「悪いことが起こる様子は無いんだけどな」
アースルトの方に目をやってレストはミルシェの言葉に返す。
「悪いことかどうかは判りかねますが・・・。アースルトの例の失敗に順ずることが起こりそうですよ。精霊が宿る剣やら鎧やらを作ったときの状況が正にこんな感じだったらしいです」
「じゃあ、それが出来るということなのか?」
「いえ・・・、そこまでは分かりませんが・・・」
「・・・でも、精霊たちの顔が初めて出来る何かに対するわくわく感を感じるんだけど・・・」
「レスト様の感じていることが正しいのなら精霊が宿る物が生まれるわけではなさそうですね」
レストとミルシェは顔を見合わせてから揃って作業に没頭するアースルトの方へと顔を向けた。
二人が顔を向けた先でアースルトは最後の工程に入っているところであった。何時の間にやら槌の音は鳴り終えていた。初期の形状としては刀を、とのことだったので柄などの部分を作業しているところであった。
全ての作業が終わり一振りの刀が出来上がった。素晴らしい出来栄えであった。刃の部分には美しい波紋が描かれている。
鞘に収められた刀を渡される瞬間にアースルトに言われた言葉にレストたちは絶句するのだった。
「すまん。精霊が宿る武器じゃないが・・・精霊そのものの武器になってしまったみたいだ」
何か意思持っちゃったよ、とアースルトに言われて絶句するしかないレスト。またか、と呆れるミルシェなのだった。
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