56.奇跡の鍛冶師7
「悲劇・・・?」
レストはアースルトの言葉を少し考えてみた。
精霊たちにとっての悲劇は回避できたということだった。ならばそれらは当て嵌まらないのだろう。となると、人間側の何らかの事情であろう。または、時代の関係か。
「それか人と時代両方か・・・」
レストが思わずという風に呟く。
その呟きを耳聡く拾い上げたアースルトは一つ頷き。その呟きに対して
「その通り」
と答えた。
「あの時代は戦の時代だったからな」
アースルトは思い出すようにその時を見る様に少し遠い目をして先を話し出した。
そう、アースルトが人として生きてきた時代は正に争いの時代であった。武器の需要は大きく鍛冶師たちは国お抱えの者も多く居た時代だった。
国お抱えの鍛冶師は鍛冶師の中でも腕が優れたものを選んでその地位を与えていた。鍛冶師にとっても大きなステータスになっていた。腕が確かなことを証明することになるからだ。多くの鍛冶師たちが国から誘われてお抱えとなった。だが、国が最も欲しい人材であるアースルトは首を縦に振らなかった。決して振ることは無かったのだった。
理由はふたつ。
ひとつ目の理由は国に縛られたくなかったからだ。国お抱えの鍛冶師になるということは、国の注文しか受けず自らが造りたい物が造れないと言うことになる。アースルトはより良くした物を造りたかった。今まで造った物で満足などしたくなかったのだ。いつでも色々なものに挑戦をしてみたかったのだ。
だからこそ、自らの工房を開いたのだから。
ふたつ目の理由は武器という物は人間に対して使うということを目指していなかったのだ。人間以外の者。あくまで人間が自衛のために魔物と戦う際使うことを目的にしていたのだ。アースルトは。故にアースルトは自らが良しとした者に対して武器を破格で売り渡していた。
だが、アースルトは精霊が宿った武器を造った。魔術が使えない者すら魔術を使えることが出来る武器を。
これを見逃す国ではない。他の国より抜きん出たくば、より良い武器が必要なのだ。故に国はアールストを国お抱えの鍛冶師にすることで他の国の者にその武器が流れないようにしようとした。全て国に武器が納められるようにしようとしたが、それはアースルトが頷かなかったために目論見が外れた。
だが、このままではアースルトは他の国に工房を移すか、または他の国の者に武器を売り渡すことがあるだろう。ならばいっそ、と国は考えた。
「国自体は俺がお抱えの話を蹴るとは考えなかったんだろうな。だから先走って戦争を他の国に仕掛けてたのさ。俺が造る武器を当てにしてな。それなのに結果は断られた。武器の製造すら拒否したってんで俺は罪人として囚われたのさ。国家反逆罪で」
「えげつないな・・・」
「国なんてそんなものだろう。この頃は違う国も多いみたいだな。エトルア国然り、某魔法国家然り・・・」
「そんなに違うのか(某魔法国家って何処だろう?)」
「・・・まぁ、変人の集まりみたいな所はある・・・」
「・・・解る」
「そんなこんなでその戦争は俺が発端みたいなものでな。かなり罪悪感があるんだよ。さらに無責任にも俺が死んじまったからな。まぁ、殺されたんだけど」
「それは責任無いんじゃないか?それに人間が悪い訳だから。半精霊になった時点で関わる必要は無いだろ」
「レストはかなり割り切るな~。まぁ、“風の噂”で生い立ちを知っているから何となくわかるけどな。結構色々煩わしかったからさ。とっとと半精霊になってしまったんだよな。人間性で言えばあまり良い方では無かったと自分で思うよ」
「そうか・・・?」
「まぁ、どちらかと言うと元々精霊側に立って考えていたからな」
「?」
「俺は『始まりの人』だと言ったろう?初期の『祝福持ち』のことだ。半精霊は精霊とされているが、『始まりの人』というのは最も精霊に近い人間のことなのさ。だから考え方が精霊に近かった。あまりにも人と相容れなかったんだ。その存在が」
そこでアースルトは話を切り、レストを振り返った。
「さて、準備は整った。造ろうか」
そうしてアースルトは明るく笑ったのだった。そこにはわくわくとする子供の様な光りを宿した瞳があった。
そんな目を見てレストは思う。
(『始まりの人』とは何なのだろう?本来の意味するところはもっと別の所にある様に思える)
レストにとっての謎が一つ増えたのだった。
・・・ふたつかもしれない。
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