55.奇跡の鍛冶師6
鍛冶場に入ってレストの武器を作るための準備を始めたアースルト。武器作成には数日かかると思っていたのだが、そうでもないらしい。まぁ、アールストに限ったことらしいが。武器作成などをお家芸とするドワーフすらそれは本来無理なのだとか。まぁ、普通は武器などという大きな得物となるとそうなるだろう。ナイフなどはその限りではないだろうが。
準備中にアースルトが例の失敗の話をしてくれた。
「あれはまだ俺が人間だった頃でな、俺が半精霊になることになる切欠になるんだろうな」
少し遠い目で自嘲気味にそう話し出した。その後すぐに半精霊になったことについては後悔はしていない、と言っていたが。
「まぁ、俺は『祝福持ち』でしかも高位精霊四体から加護を享けていたおかげで色々なことの覚えも早くて身体も丈夫、身体能力も高かった。だから、最年少で鍛冶師にもなれた。
この鍛冶場を視て分かるように俺は精霊の使う力を使って鍛冶を行う。自然、人間であった時には下位精霊たちが率先して手伝ってくれていたものさ。そのおかげで火力の微細な調整も難なく出来ていたし、金属内に存在する不純物を取り除くことの出来、加工する金属の質も最高品質の上等なものだったわけだ。
だからと言って使う材料だけで良い物が出来てたわけでもないし、しっかり努力はした。出来上がるまではその職人の技術と感覚が物を言うからな。その技術と感覚を習得するのが大変なんだよ、職人っていうのは」
その様なことを話している時、レストの目はとてもキラキラしていた。ちょっと熱に浮かされた感じに。それに気付いたアースルトは心配げにレストを見やり声を掛けた。
「その、大丈夫か?レスト。何かこう異様にテンションが上がっている様な?」
「流石職人!格好良い!!」
「そ、そうか・・・」
思い掛けないところで尊敬する言葉を聞いてちょっとばかり照れるアースルト。気を取り直すように咳払いをしてから続きを語りだす。その間も準備をする手を止めない。
「それで、何処まで話したかな・・・。そうそう、それで一人前になり数もこなして金も貯まったから独立することにしたんだ。工房を立ち上げて色々試行錯誤しながら新しい試みもしてみたりとかな。うん、色々やったんだ」
アースルトはそこで話を区切り、入れ槌を作業場所に立て掛ける。かなり大きなものだ。人間では扱いきれないだろう大きさである。『祝福持ち』は可能かもしれない。
「それで、少し精霊の力を練り込めないか試したんだ。火造りの時に火属性の練りこみを試してみたんだが、これが失敗だったんだな。あの時の情景は未だ確り覚えている――」
火炉の中から熱した鋼を取り出し整形していく。カーン、カーンと槌の響く音がして熱した鋼を叩く度に熱した鋼の欠片が飛び散る。熱した鋼の上では火の精霊たちが愉しげに踊り、飛び散った鋼の欠片にくっ付いた火の精霊が愉しそうにきゃらきゃらと笑っている。
そしてアースルトは火の精霊たちに鋼にその力を注いでくれるようにお願いをした。すると火の精霊たちはどんどん熱した鋼へと集まっていった。火炉の中の精霊たちも一緒に集まり、やがて鋼の中に消えて行ってしまったのだ。
流石にアースルトは慌てた。精霊たちを消してしまったのではないかと思ったからだ。精霊が消えるということは消滅するという意味である。正しく存在が消えるのだ。
だが、アースルトを加護する高位精霊たちはそんなアースルトを落ち着くように宥めた。消えていない、大丈夫だ、と。そしてよく視てごらんと示したのだ。整形していた鋼を。すると鋼は火属性の力を宿し、さらに火の上位精霊が宿っていた。
本来ありえないことが起きたのだった。下位精霊がどんなに集まっても下位精霊である。個々の精霊なのだ。上位精霊に成るということは在りえない。だが、別の存在として生まれ変わったと言っていいのだろう。精霊は身体は持っていないが、それが与えられた状態になったのだ。故に統合されて高位精霊になった。奇しくも下位精霊たちだけが集まったから成された奇跡であった。
何故ならば、中位精霊や高位精霊は確固たる個を持った存在であるからだ。下位精霊は確固たる自己をもたない存在である。故に統合されても支障が出ずに済んだのであった。
他にもアースルトが高位の四属性の精霊の加護持ちであったことなども関係があるのだが、その為に奇跡が起きたのだった。
「それが悲劇を引き起こすことに成るとは思わなかったけどな」
とアースルトは苦く笑ったのであった。
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