48.剣の師とファガー家2
カァーン、カン、カン・・・
ファガー家の鍛錬場で模擬刀での剣戟が響き渡る。
ファガー家剣術指南役のミルシェとレストが模擬刀で打ち合う音である。
模擬剣ではなく模擬刀であるのは理由がある。ここで言う剣は直剣のことである。刀は日本刀と同様の物と考えてもらっていい。刀はミルシェの生まれ故郷の独自の武器であると言っていいものである。
武器の形状に違いがあるのは使用方法が異なるからである。
直剣というのは斬るというより突くことに重点が置かれているものである。最もよく分かるのはフェンシングを見れば分かると思うが剣の腹で相手の剣の腹を弾き剣先を逸らしながら突くという戦闘スタイルである。斬るときは正しく叩き切ると表現するのが正しいであろう。大剣系の直剣は正しくそれに当たる。完璧に力技である。
それに比べ湾曲した剣というのは斬ることに特化している。刺すことは余り考慮されていないものである。
上記の二つの特徴を併せ持つものが刀である。直剣の“突く”、湾曲剣の“斬る”を併せ持つのだ。
ファガー家で特に刀を使用するに至ったのはファガー家の血に関係がある。『祝福持ち』とは大体は一代限りということが少なくないがエトルア国は別である。ここは精霊国家なのだ。『祝福持ち』同士が結婚して精霊たちに好かれやすい特徴が濃い人種の国なのである。ファガー家は風の精霊の加護を受けやすく“風”のファガー家として有名な家だ。“風”と付くようにファガー家の戦闘スタイルは早さにある。速さを活かすために斬ることが出来る刀を採用したのだ。特に刀は切れ味か良く、撫で斬りが可能である。少し滑らすように動かせば斬れるのだ。そこに早さが加われば一押しである。特に居合い、抜刀術において発揮される力は絶大である。故にファガー家では速さで斬る戦闘スタイルが主となったのだ。必然使用する武器は刀となる。刀は特殊な武器であるためミルシェの知り合いの鍛冶師に頼んで打ってもらっている。何でもミルシェ曰く世界で最高の鍛冶師だとか。
カァーンと一段と高い音が響いて打ち合いが終わった。最後の音はレストの模擬刀が跳ね飛ばされた音の様だ。レストの手には模擬当が無く、数ファス(ファスはメートルと同様)離れた所に落ちている。
レストは上がる息を抑えながら師に向かって一つ礼をした。
師であるミルシェはそんなレストを見て
「しばし、休憩を取りましょうか」
と言って休憩所にレストを誘った。レストは素直にその後に続く。休憩所ではフルーレとファルデルが待機していた。フルーレがミルシェとレストに飲み物を給仕する。レストは少し温めのレモネードを一口飲みホッと一息ついた。運動後ということで少々の塩も入っているらしい。
レストはふと疑問に思っていたことを丁度良いからと師に尋ねてみた。
ミレイヤのことである。
「師匠、師匠は半精霊とは言っても精霊して分からないことも多いとのことでしたが疑問があるのですが」
「疑問・・・ですか。私に答えられるものは答えましょう。どの様な疑問です?」
「ミレイヤのことです」
「ミレイヤ様の?」
「はい。エトルア国では『祝福持ち』は血によっても生まれるとは習いました。ミレイヤは確かに上位水精霊の加護を持つ母上が生んだので水の精霊の加護を受けるのは分かりますが何故精霊王の加護が?」
「可笑しい事ではないと思いますが・・・」
「王族に近い方が精霊王の加護を受けやすいと思うのですが。確か初代の国王やその兄弟たちが精霊王の加護を持っていたのですよね?」
「その血筋は公爵家に当たるのでそこの家から出ないでファガー家から出たのが不思議なのですね?」
「その通りです。師匠」
「そうですね。よろしいでしょう。私も永き時をこの国と供に過ごしてきました。その辺りは生き字引と言っても過言では無いですからね。私は」
「師匠は答えを知っているのですね?」
「えぇ、その辺りは見てきていますので。余り大したことではないと思いますけどね。答え自体は。そうですね。少々エトルア国の歴史、と言うか王家の血脈の在り方に関わっていますので順を追って説明致しましょうか」
そう言ってミルシェは昔を思い出すように目を眇めて遠く此処ではない何処かを見ながら口を開くのだった。
エトルア王国の昔語りであった。
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