42.侍従探しと加護精霊
“風の牙”が地に膝を付けたのは単純にレストと接触したからである。唯一度レストと微かに接触した、ということが問題だったのだ。
レストはこれを狙って“風の牙”の動きを注意深く探っていたのである。実はこれはレストの加護精霊であるフェシェイドの入れ知恵である。半精霊の自我を揺さぶってやったのだ。
“風の牙”が半精霊であるだろうとは陛下やエルーが感じ取った感覚からだが、その辺りは確実である。エルーの感覚は直感とも相まって超高性能な働きをする。レストの直感も獣並みに高性能だがエルーのそれはレストさえも超えることは証明済みなのだ。孤児時代のエルーは誰よりも直感が優れていてレストが指示を出す前に離脱を成し遂げていたという過去がある。エルーは半精霊であるため世界と繋がっている。それ故であろう。故に陛下やエルーが自らと同じと称した“風の牙”は半精霊であると確定されたのである。
フェシェイドが視た感じから言うと、“風の牙”は未だ自我が回復していないとのことだった。故にレストとの接触が有効であると判断したのだ。レストに触れると自我が甦ることはエルーで証明されている。半精霊として世界と繋がり、世界の情報を受けて整理する処理のため自我が抑圧されて表に出ることが無い。その処理をレストが肩代わりをすことにより自我が戻る。そうすれば“風の牙”はレストを傷付けることを恐れる。自らが最も愛する者を誰が傷付けようと思うのか。
だが、今のところ触れている瞬間のみが限度である。それを証明するように“風の牙”が膝を付いた瞬間には驚愕の表情だったが今や元の無表情に戻りつつある。
そして、フェシェイドが危惧したことが起こった。力の暴発。自我の無い半精霊が身を守れるようにと融合した精霊の最後の“加護”である。これは身の危険を感じと同時に反射的に起こるものだ。その力は制御が無いだけに絶大である。その力と拮抗するか、またはその力を凌ぐ更なる力で持って対抗するかしかない。だが、一介の高位精霊では“風の牙”の力の暴発は防げない。何故ならば“風の牙”は高位精霊2体を加護精霊に持つ“祝福持ち”であったからだ。高位精霊1体と融合した半精霊の力の暴発も一介の高位精霊には荷が重い。それが2体と融合した半精霊となるとお手上げである。
精霊たちの力は階位によって決まっている。そして階位毎に均等な力を持つのだ。故に高位精霊たちは皆同等の力を持つ。その高位精霊が唯一体では退けることの出来ない力の奔流がレストへと向かう。“風の牙”の宝石の様な二粒の瞳が輝きを増す。その瞳の先にはレストが居た。“風の牙”の呼び名は此処から来たのだ。風が牙の様にレストに襲い掛かる。その身体を引き裂かんとして迫り来る。
到達しようとした時、それは起こった。
レストを襲わんとする力が掻き消えたのだ。あるはずの無いこと。ありえない事が起こったのだ。それを成したのはレストの加護精霊であるフェシェイドであった。
そしてフェシェイドは悪戯っぽく言う。
(ざんねん。お痛は許さないぞ。例え子供でも)
一介の高位精霊であるはずのフェシェイドは成しえた行為を当然と言う様に誇るでもなくそこに在った。その非常識さに反応してか何度も“風の牙”から力の暴発が起こる。今度はフェシェイドに向かって。
(ふふふ)
フェシェイドは可笑しそうに笑う。それは“風の牙”に向かってか・・・。
(効かない、効かない。オレには一切お前の攻撃は効かないさ。お前とオレとの力の差は有り過ぎてオレに届かないからな)
更に目を細めて遠くを見るようにして笑う。
(何故だろうな~?風の精霊王は何を考えてオレを生み出したのか。オレは高位精霊だが、他と違うのさ。オレは風の精霊王に次ぐ力を持たされて生れ落ちた。永い時をオレは誰にも縛られずに過ごしてきたさ。今までにだって“精霊の寵児”は生まれてきた。今だってレストの他に2人の“精霊の寵児”は存在している。だけど、オレが選んだのはレストだった。多分必然だったんだろうさ。オレがレストの加護精霊になったのも。お前がレストの前に現れたのも)
可笑しそうな笑いは“風の牙”とフェシェイド自身に向けられていた様だ。そしてフェシェイドは“風の牙”に最後の宣告をするのだ。
(だから、諦めることだな。お前は捕まるさ。オレがレストに捕らえられた様に。お前もまた、レストに捕まる)
そう言ってフェシェイドは“風の牙”を抑える力を強めた。その為“風の牙”はもう力の暴発さえ出来なくなっていた。その場に蹲り動けない。
(何て言ったって、オレが手伝うんだから逃しはしないさ。捕まってしまえ)
フェシェイドは優しく言う。
“風の牙”の近くにレストが近付く。
“風の牙”は反応しない。出来ない。
そんな“風の牙”の側にそっと膝を付き“風の牙”の髪をさらりと撫でた。“風の牙”がレストとの接触のためにピクリと反応する。そして、そっとレストは囁く。
「大丈夫。安心していい」
優しく囁きかけて“風の牙”の身体を優しく抱きしめた。
永い永い時を縛られてきた半精霊たちを解放する言葉だった。
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