33.侍従探しと半精霊
『精霊の紅花』が半精霊を組織の内に抱えている、とは神殿側の見解であるがおおよその所その通りであった。ただ、その見解の間違いである所は、今では『精霊の紅花』内には半精霊しか存在していないという所だ。それは今の『精霊の紅花』に至る『精霊の紅花』の成り立ちにある。その事情ゆえに今の半精霊たちのみの組織へと至ったのだ。
さて、そこで半精霊という者をもっと掘り下げてみるとしよう。
半精霊とはそのままの意味で、肉体を持った精霊ということである。半精霊は珍しくはあるが、決して存在すら怪しいほどに少ないと言うわけでもない。半精霊の代表格としての良い例がエトルア国国王、ファルトリート・クラヴィアス・ル・エトルアその人である。
彼の国王は水精霊王と前エトルア国国王の間に生まれた生粋の半精霊であり前例の無い在り方の半精霊なのである。半精霊は生まれながらの存在ではないのだ。本来、半精霊という存在は突発的でイレギュラーな存在なのである。
何故ならば、精霊とは本来肉体を持たない存在であるからだ。精霊王とは世界そのものであるから肉体を纏うことを可能としている。この世界の全ては彼らそのものであるという事の証明でもある。全てが可能なのだ。故に肉体を纏い、子を作ることすら可能とする。その様な酔狂な事は今までに無かったことであり、これからも一つの例外以外には無いであろうことだ。
唯一の例外が現エトルア国国王なのだ。精霊とはそもそもが自然物から発生する者なのだ。故に植物や静物等から発生する実体がある精霊という者は半精霊ではなく正しく精霊である。また、動物が精霊化することもあるがこれは肉体が伴っているので、半精霊と言えなくも無いが区別するためもあり聖獣などと呼称される。
他の半精霊という存在は元来、人であった者たちだ。人とは言っても『祝福持ち』であることが条件であり、中位精霊以上の精霊の加護を受けた者たちが成る存在である。特殊な状況下に陥ったときに半精霊化は起こる。彼ら中位精霊以上の加護を受けている者たちの肉体の大きな破損が起きた時だ。
その場合、加護対象にある者の命の危機を感じ取ると精霊たちは加護対象の治療を試みる。だが、治療が達せられない場合、精霊たちは自身で加護対象の肉体的破損を補うのだ。
精霊とは世界の力が具現化したものだ。故に精霊たちはその存在を犠牲にして加護対象の補完を試みる。下位精霊だと力が及ばない為に精霊自身は消滅し、加護対象も補完が成されずに死に至る。中位精霊であると成功するのは五分五分である。高位精霊の場合は万全の状態ならば間違いなく完遂するであろう。
だが、ここで問題になるのは精霊と人である身が融合すると言うところだ。精霊とは人間より高次元の存在であると言って過言ではない。融合時に問題になるのは精神部分である。
この時受け入れる側の人間の精神的負担は重く、心神喪失、心神薄弱が起こる。これは精霊を受け入れる時、多大な世界の構成情報が流れ込んでくることにある。精霊は世界と繋がっている存在だ。世界を構成する一部である。世界から見れば微々たる物ではあるが、人たる身にとっては膨大で処理がしきれないのだ。
その処理には時間が多く掛かる。それは高位精霊に成る程顕著に現れるのだ。とは言え処理しきってしまえば心神喪失状態から復帰するとも言える。そして、高位精霊の加護を持つ者は処理速度が恐ろしく速いのも『祝福持ち』たちを見れば分かる。
また、半精霊の身である彼らには多くの時間が約束されている。半永久的な時間だ。さらに彼らは食を必要としない。直接に力を身体に取り入れることが出来るからである。精霊でもある彼らは力そのものであり、力を生産する側なのだ。
半精霊のことは一般にはエルフと呼ばれている。また、彼らは何かに導かれるように森に入り森で生活をすることから『森の人』とも呼ばれている。半精霊の実体は知らなくとも半精霊である事は知られている。故にエルフは生まれながらにエルフだと思われているのだ。
この様な半精霊の実体から浮かび上がってくることがある。それは肉体を大きく損なった『祝福持ち』である、ということだ。その様な存在のみが所属している暗殺組織『精霊の紅花』とは異様であると言える。
元々『精霊の紅花』には半精霊は存在していなかった。だが、『祝福持ち』は居た。その『祝福持ち』は思考を奪われていた者たちで、暗殺の手駒として扱われていたのだ。
その中の一人が事故で大怪我をした。その時にそれは、半精霊化は起きたのだ。この事は暗殺組織であった『精霊の紅花』とっては大いに歓迎する事実であった。加護精霊たちの邪魔も無く、洗脳などの煩わしい手段を使わなくても良いからだ。
それからは『精霊の紅花』の者たちはその様な『祝福持ち』を探し出して拐かしてきては暗殺者に仕立て上げてきた。または戦場から拾ってきたりもした。時にはその様な半精霊たちを作り上げさえしたのだ。
作るのは簡単である。中位以上の精霊の加護を持つ者を見つけ出してくる。これは噂などで大体特定が可能だ。そして、その村を襲わせるのだ。自分たちが直接手を出さずに盗賊や野党たちに襲わせる。その時に運悪く『祝福持ち』である人物が命に関わる大怪我をするのだ。
だが、ここで重要なのは『祝福持ち』とは精霊の加護によってその様な惨事はほぼ起きる事が無いのだ。普通ならば。『祝福持ち』を傷つけられるのはそれに順ずる者のみなのである。そう、その襲った盗賊や野盗たちの中に組織の半精霊を紛れ込ませておくのだ。傷つける人物を指定して送り込んでおくのである。
そうして半精霊を作り出すのだ。因みに半精霊には肉体的に特徴がある。大体目であったりするが、精霊が補った肉体部分に出ることもある。肉体部分に出た場合、複雑な文様が浮かんでいたりする。
先に書いた通り、半精霊化する際の情報量過多からの心神喪失状態は何時かは解けるのだ。故に今の『精霊の紅花』と成った。そう、心神喪失状態から解けたものが居たのだ。それは今の首領である者だった。
彼は愕然とした。彼の状況を知ったからだ。今まで自分が行ってきた事もしっかりと覚えているのだ。彼は混乱した。ショックであった。暴走した。
そして、組織の人間を一人残らず屠ってしまったのだ。半精霊以外残っていなかった。そして、彼以外の半精霊は未だ心神喪失状態から戻っていない。彼は考えた。だが、彼の精神は喪失した時点から止まっていた。彼が喪失状態になってから50年が過ぎていた。誰も彼を導くものは居ない。他の半精霊たちも自分が面倒を見なければならないだろう。
だが、彼は生きていく術を持たなかった。それ以外は知らなかったのだ。
彼は暗殺という職業しか生きる術を持っていなかった――
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