30.侍従探しと暗殺依頼
――カルスタールの居室にて――
コンコン。扉を叩く音がした。
「レストです」
「よしよし、来たね。アインダート開けてあげて」
処理している書類から目を離さずにカルスタールが言った。
「はい」
返事をしてアインダートは居室の出入り口である扉へ向かった。カチャリとノブを回し、扉を開ける。そこにはフルーレを伴ったレストが居た。
「御待ちしておりました。こちらに。主人がお待ちです」
扉を開けて招き入れたレストをアインダートが先導する。居室の中にある執務室に案内された。決算書類や領地の様々な案件の書類に目を通しサインしているカルスタールが居た。カルスタールは顔を上げず「これが終わるまで待っていなさい」と言いお茶の用意を指示して処理中の書類を捌いていった。
レストは座って待っているとお茶を運んできたメイドに「ありがとう」と礼を言いお茶に口をつけた。 ほんのりミントの味がしてスッキリした紅茶だった。見るとはなしに父であるカルスタールを見ていた。うん、仕事に取り組む父は実に格好良く見える。意識せずに「おー格好良い・・・」と呟いていた。
丁度処理し終わったらしく決済済み書類に処理し終えた書類を積み上げつつ嬉しげに「ありがと~」とにっこりして顔を上げた。
「で、本題だったね。侍従のことだよ」
「侍従・・・必要か?父さん。フルーレ居るし大丈夫だと思うんだけど」
「う~ん。館内だと別にそれでも良いんだけどね?外に出るときはそうも行かないでしょ。護衛も一応職務の中に入るんだよ。今回のレストに付ける侍従の位置は」
「護衛・・・貴族って面倒くさい」
「それが貴族ってもんだよ」
「俺、自分の身ぐらい自分で守るけど?」
「護衛業務だけじゃないくて、連絡手続き諸々もやってもらうことになるから。レスト専用侍従だから」
「あぁ~、分かったよ。とりあえず居なきゃ駄目なんだな・・・父さんに任すよ」
「まぁ、任せてもらうけど条件が結構難しいんだよね。レストだし」
「俺だと?」
「うん。『精霊の寵児』と言う部分が結構ね。『祝福持ち』の侍従が良いんだけど、そうそう居ないからねぇ」
「・・・そうなんだ。」
「そうなんだよねぇ。まぁ、この件はまた決まったら連絡するから楽しみに待っていてよ」
「制限が厳しくない人物を希望したいけど」
「まぁ、見つかってみないと分からないよ。性格もあるしね」
「だよな~」
相槌を打ちつつチラッとアインダートの方に目をやるレスト。そして、カルスタールに目を戻し、さらにアインダートを見やる。父に振り回されている侍従が現に目の前に居る。きっちりしている人物であるのは分かっているが、父がそれを上回って動くため苦労が絶えない哀れな侍従である。心の中で手を合わせてみた。ちょっとアインダートが嫌そうな顔をしたので止めた。何となく分かったらしい。多分、自分も父同様にこの侍従の様に振り回すであろう事は想像に難くない。何故なら大人しく守られることとやらをする気は無いからだ。まだ見ぬ将来の侍従に胸の内で謝っておくことにした。それを見たフルーレは苦笑し、アインダートはまだ見ぬレストの侍従になるであろう人物を思い哀れに思ったのだった。
まぁ、その未来のレストの侍従には当て嵌まらないことは今は誰も知らないことだった・・・。
――オアシス都市にて――
薄汚れた裏町。
饐えた臭いと猥雑な造りの家々が並ぶスラム街。
そんな薄暗さとは無縁そうな質の良い服装、かと言って飾り気が無く目立つでもない質素にも見えるが上等な布地を使った服を着た男が歩いていた。薄暗い裏町を奥へ奥へと進んで行く。その男の後ろにはそっとそれと分からない格好の護衛者が続く。男が供も連れずに歩いているのはその為であるらしい。まぁ、懸命な判断であり措置であろう。この様な場所に供を連れて歩いていたのならば、自分は身分ある者だと言って歩いている様なものである。物取りに襲われる事は必至だ。
男はやがて一つのテントのような小屋の前で足を止めた。周りを注意深く確認してその小屋に入っていった。小屋の中は暗い。必要最低限の火しかない。ローソクが一本きりである。お互いに姿をよく見えなくするためだ。ここはお互いを知らないほうが良い場である。その様な場所なのだ。この小屋は。
小屋の中には一人の男がいた。ローブを深く被っていて顔は見えない。ローブの男が口を開く。
「ようこそ。お待ちしていました」
声からしてまだ若いようだ。ローブの男の挨拶を煩わしげに男は言う。
「挨拶は構わん。早速用件を伝えたい」
「わかりました。どうぞ。どなたを御希望でしょうか?」
「この前認定された『精霊の寵児』を」
「・・・それはまた大それた方ですな」
「ふん。怖気づいたか?無理なのか?」
「いえ、申し訳御座いません。戯言ですよ。如何な者であろうと屠ってみせますとも我が組織『精霊の紅花』の名において、ね」
「これは約束の前金だ」
ローブの男は金が入った袋を受け取り、中を確認する。暫くして頷き、口を開いた。
「確かに。ではその件承りました。成果を期待してお待ち下さい」
その言葉を聞き終わると男は小屋を出て行った。その後姿を見ながらローブの男は口の端を上げて呟きながら考える。
「さて、誰を遣りましょうかね?『精霊の寵児』相手に手は抜けませんからね。愚問ですね。彼しか居ないでしょうねぇ。うちは精鋭の手練ばかりですが、今回は彼しか居ないでしょうね。そろそろ前の仕事から戻ってくるでしょうし、丁度良い」
男は考えが纏まったという様に立ち上がり火を消して依頼者と反対側から外へと出て行った。
後は静寂があるばかり―――
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