29.侍従探しと風の牙
R15指定
少々残酷表現がありますので苦手な方はお逃げください。
涼しげな風が吹く――。
アーチ形の柱が続く回廊に風が吹き渡る。昼間は暑く日が焼けつく様だが、夜になると途端に空気は冷えていく。ここは砂と火の国である砂漠の国。
今は夜。月は細く新月に近い。明かりは星ばかりだろうか。月が煌々と地上を照らしている時には柱の影と月明かりがくっきりと分かれる回廊が今日はやけに暗い。
ここはとある将軍の屋敷。屋敷の主である将軍は将軍職に就くにしてはまだまだ若い。三十代の前半という若さである。だが、彼の将軍は元々有望視されていた軍人であった。故に大隊長には達していた。また、時期が良かったのもある。老将軍であった将軍が将軍職を辞したからだ。個人の技能、能力に加え、指揮能力、人望等々詮議を重ねた結果彼に決まったのであった。一つ難があるとすれば家柄の問題であった。一応彼の出自としては貴族となっているが、幾らもしない下級貴族に加え元々庶子であったためだ。だが、そこに目を瞑るにしても有り余る能力が有ったが為の抜擢であった。
しかし、この事について面白く思わない者は数多く居るのである。人間の嫉妬心とは斯くも醜きことかな…。その妬心により行動を起こす者もいるのだ――。
夜も更けて人々が寝静まる頃、若き将軍は自身の居室にて酒を飲みながら軍の編成を練っていた。新しく精鋭部隊を幾つか立ち上げる算段のためだ。砂漠の国は多部族から成る国だ。国内のいざこざが絶えない。あちらこちらで多発している。その為の少数精鋭部隊を幾つか作り派遣する体制を作りたいと思っているのだ。今の体制では一々いざこざが起きる度に編成している為時間が掛かりすぎるのだ。その為レスポンスを高める為に専門の部隊を立ち上げようと考えている。お偉方がまた伝統だ、何だと煩いのだろうが、それを乗り切るためにその算段を整えなければならない。
ふと、居室の窓から入る風が途切れる。若き将軍はその事に不自然さを感じた。何かが遮る様に風が途切れたと感じられたからだ。居室は暗い。明かりなどは入れていなかった。風が動いた。若き将軍は座った椅子に立掛けてある剣を素早く手に取り鞘から剣を引き抜く勢いを利用して目の前で光った物を弾き返した。
キィィン
甲高い音がして銀の刃が遠のく。返す剣で影に切りかかる。影は身を引き若き将軍の刃から逃れた。
「っち、避けるか…。貴様相当の手練れだな」
影は答えない。そのまま加速して切り掛かって来る。それを体を捻ってやり過ごすと、若き将軍は上段から袈裟懸けに斬り下ろす。影はそれを床に這うように身を屈めて横に避けてやり過ごした。
ガギィン
鈍い音がして若き将軍の剣は床に刺さる。若き将軍の動きが剣を床から抜くために鈍ったところを影は見逃さない。若き将軍の首筋に体を跳ね上げるようにして刃を走らせる。が、間一髪で若き将軍は逃れた。咄嗟の判断で剣を手から放したのだ。若き将軍は正統であるあることに拘らない。若き将軍も暗器を仕込むことを旨としていた。それらを放つ。影は体を跳ね上げた体制から直ぐには戻れないと判断しての事だった。暗器は影に吸い込まれて、そこで終わるであろうと思われた。若き将軍は目を見張った。暗器が悉く弾かれたからだ。風と水によって。若き将軍はこの現象に心当たりがあった。近年噂されている暗殺者の事だった。
「まさか、件の暗殺者か…?確か”風の牙”と言ったか」
呟き油断なく目の前の影を見据える。いきなり影が加速した。人に出来ない加速であった。そして若き将軍の眼前を影が覆った。
「っぐ!?がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
体に激痛が走る。何が起こったか解らなかった。ただ、暑かったそして急速に寒気がした。段々と思考が鈍って来る。
(今、何が起こった?今、自分はどうなっている?今――――…)
若き将軍から急速に生気が失われつつあった。やがて目は濁り、何も映さなくなった。それを確認して、影は現れた時のように闇夜に溶けて消えた。
騒ぎを聞きつけ護衛兵が駆けつけた時にはもう若き将軍は遺体となっていた。護衛兵が居室に入った時思わず「ゔっ…」と口を押えてしまうぐらいにひどい有様であった。血臭もさることながら凄惨な光景のためであった。それはまるで獣に噛み千切られたような有様だった。居室中に血が飛び散り血痕の量が半端ない。内臓は飛び出ており腸らしき血塗れのものが血溜に沈んでいる。有り得ないほどに体の部品があちらこちらに落ちているのだ。遺体の傷跡はどれも獣の牙で引き千切ったかの様であった。そしてこの様な殺され方をする事件が近年多く起こっていることを思い出す。
”風の牙”
近年恐怖を齎す暗殺者の名を伴って…。
彼の暗殺者は狂人かはたまた自己顕示欲の強い者なのか、ただその影は未だに掴めないのだ。
「――ということで、レストの侍従を探したいと思う。」
いきなりカルスタールは朝食の席でそう言った。
レストはいきなりなんだという顔をした。
「何故いきなりとか思ってるでしょう?」
「あぁ、いきなりどうしたかと思ったよ。父さん」
「まぁ、レストを迎えるに当たって全然準備できていなかったから、まだ、侍従も用意できていなかったんだよね」
「絶対要るものなの?」
「うん。要るものなの」
レストは釈然としないものの曖昧に頷いておいた。それを見たカルスタールはあ、解ってないな?と思い、後で詳しく説明しようと思ったのだった。
こうしてレストの侍従探しが決行されることになったのだった。
お気に入り登録していただいている方有難うございます。
何時も読んで頂いている方も有難うございます。
今後もよろしくお願いします。




