26.『精霊の寵児』認定1
何時もの様にレストは目を覚ます。
貴族となっては二日目の朝だ。長年の早起きの習慣は抜けない。やっと日が出てくる時間帯。カーテンの隙間から朝日が零れ落ちてくる。レストは目を眇めて欠伸をした。まぁ、この時間帯に起きることを止める気はさらさら無いのだが。
昨日の間に今日着る分の服は出してもらっている。昨日の二の舞には成るまいという思いと忙しい時間に煩わせるのもなんだから、とは建前で人に世話を焼かれるのになれていないレストの苦肉の策である。寝巻きを脱ぎ捨て着替えていく。普段着はラフなものである。清潔な白いシャツに膝下までのズボンが基本である。布地は質のいい物だが。脱ぎ捨てた寝巻きをきちんとたたみ着る分が入っていた籠に入れる。
カーテンを開け部屋に光を入れると書置きをテーブルに置き、そのままドアまで行き、そっと廊下に出た。書置きはレスト付きの侍女であるフルーレ宛である。フルーレがレストを起こしに来た時にレストが居なくて心配するかと思い、一応庭に出る旨を書き置いたのである。
レストが廊下を歩いていくと掃除中のメイドたちとすれ違う。レストは邪魔にならない様に歩いて声を小さくして挨拶をする。まだ、この家の主たちは夢の中であるので。それにメイドたちも心得たようにニッコリと笑い挨拶を返すのであった。この朝の出来事は毎朝繰り返されることになり、掃除係のメイドたち朝の癒し時間となるのだった。
レストは庭に出た。今日は一段と庭の植物たちの色合いや艶が好い様である。というか、世界が一段と輝いている。
其処彼処に居る精霊たちをレストは生暖かい目で見やった。昨日の件がまだ尾を引いているようだ。とてもテンションが高い。レストが来ると精霊たちが我先にと飛び付いてきた。幾分何時もよりスピードもアップしている気がする。まぁ、分かっていたことだ。何より起きた時に既に分かっていたのだ。レストの加護精霊であるフェシェイドがそうであったからだ。生き生き艶々している。何時もに増して。起きた瞬間に聞こえたのが
(昨日は楽しかったな~♪レスト!まさかあんな体験が出来るとは!?初めてだったぞー肉体を纏ったのは!)
とテンション高くはしゃいだ声だったのだ。
(大体、あんな大掛かりな事したのは今まで無かったぞ。なんて言ったって世界規模だ!!世界規模の一大イベントだった!入れ替わり立ち代り世界中の精霊たちが来てたんだからな~自分の管轄ずっと離れているわけにはいかないから少しの時間ずつだったみたいだけどな~)
とケロッと爆弾発言をかましてくれていたが。知らないほうがいい事ってあるよな、とレストは遠い目で思っていた。そんな衝撃的な世界規模はいらなかったよ、とも・・・まぁ、楽しんでくれて良かったと思おう。実際周りの精霊たちの状態は何時に無く良好である。様々な所に影響は現れるだろう。良い意味で。結構大雑把であり、面倒くさがりの彼らは余りやりたがらない事がある。例えば砂漠に雨を降らす事とか。砂漠は地の精霊と火の精霊が強いところなのである。その分水の精霊は少ない。そんな所に雨を降らすとなると労力は半端ないのだ。普通の場所の5倍くらいの労力を使ったりするらしい。その場所の水の精霊の数と精霊の力の大きさによってその差はあるらしいが・・・。とりあえず、今日は雨が降るのではないのだろうか。他にも面倒くさがっている精霊たちもしっかり今の高いテンションで仕事をしていることだろう。
庭をぐるりと廻る。精霊たちがレストに挨拶をしてくるのでレストも挨拶を返していった。水草や水花のある池の畔に腰を落としてしばし精霊たちを眺めだした。精霊たちが池の水の上で踊っていた。
(♪♪♪~)
(きのうはたのしかった~♪)
くるりとターンをしながら口ずさむ。
(そうそう~)
(このくにのひとたちはいいひとおおい~)
(とくにおうとはいいよね~)
(きのうはおどってもらったの~)
(からだのおおきさぜんぜんちがったけどね~)
(でもおどってくれた~)
(たのしかったね~)
(うんうん、たのしかった、たのしかったー♪)
きゃらきゃらと昨日の謁見という精霊たちのためのイベントについて語っていた。和むのだがレストには微妙な話題である。レスト自身にも多く実りのあった謁見ではあったのだが、如何せんイベント部分が大きすぎて、しかも主役は一応レスト自身であったから。国の中枢の人たちはレストを知ったわけだ。友好的に捉えてくれた様で良かったが。『精霊の寵児』となると国単位で把握していた方が良いのだ。国としては。直接『精霊の寵児』を如何にかする事は決して出来ない。それは世界である精霊たちが良しとしない為に阻止されるからだ。それでも、他の国または碌でもない犯罪組織などから狙われないとは限らないのだ。『精霊の寵児』に何かがあるとは余りに危険すぎて考えたくも無い事柄なのである。国にとっては『精霊の寵児』は恩恵をもたらす宝であり、精霊たちの怒りでもたらされる爆弾にもなる恐れがある超取扱注意人物なのである。把握できてないと怖いのだ。そんな危険な人物を十年間も野放し状態で把握できてなかったので更に気になったものであろう。孤児で、しかも路上生活者だったとのことでとんでもない悪童なのでは?と思っている者も多かったらしい。あの謁見の間の人の多さはその様な事情があったようだ。レストの人となりを知ってホッとしたとか。
精霊たちを眺めながら昨日の事を思い返しているレストに声を掛ける人物がいた。
「お早う御座います。レスト様」
レストの侍女のフルーレである。
「お早う、フルーレ」
「そろそろ朝食の時間になりますので、準備をお願いします」
「うん、分かった。行こう、フルーレ」
「はい」
こうして昨日の謁見の影響を引きずりつつレストの一日が始まったのだった。
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