15.誕生日プレゼント
ホール内には楽団の音楽が響き渡り、着飾った貴族の人々が幾人か集まりあって談笑している。そんなホールはシャンデリアが煌々と輝く蝋燭の灯を反射してキラキラとした光を放っていた。端には飲食物が並び人々は思い思いに手に取っている。ここに集まっているのはファガー侯爵家の子息であるエアリード・ファガーの5歳の誕生祝いに来た人々であった。
そんな人々が集まりだしていた頃、エアリードは珍しくソワソワしていた。今日のエアリードの出で立ちは白いアビ・ア・ラ・フランセーズである。詳しくはアビ、又はジェストコールという膝丈のコート。首周りにはスティンケルク、所謂スカーフである。ベストに膝丈半ズボンと靴下。靴は白の布靴である。それぞれ黒と金の刺繍糸で上品に刺繍が施されている。メインに黒の刺繍をポイント的に金の刺繍糸で縫い取られている。そんなエアリードは普段の落ち着き振りとは反して落ち着かない様子で控室内をウロウロしている。エアリードも『祝福持ち』である。故にエアリードにも勿論加護精霊が憑いている。そのエアリードの加護精霊であるファルシューファは少々その落ち着かなさぶりに呆れていたが、自分がエアリードにもたらした情報によりこの様な状態に陥ったのには反省していた。エアリードの加護精霊であるファルシューファもファガー家の特徴である風の加護精霊である。故に風の精霊の特性、又は性分と言っていい性質を例外なく持っていた。それは噂好きということである。風の精霊の“風の噂”は噂とは付くもののほぼ正確な情報である。持っている情報を話したくなるのは風の精霊の性であった…。まぁ、今はそのことについては内心で猛反省中であるが。流石に見かねたファルシューファはエアリードを諫めた。
(エアリード。ちょっと落ち着きなさいな。みっともないわよ)
溜息を付きつつ苦言した。
「あぁ…。分かっています。ファルシューファ」
そう言いつつもキョロキョロと意味も無く周りを見回している。
(はぁ…。本当に珍しいわね。今みたいなエアリードは…。貴重だけど本当に落ち着いて頂戴。もうそろそろ時間よ?)
そんなファルシューファの言葉にハッとしようにエアリードは飾り棚の上の時計に目をやった。確かにファルシューファの言葉通りにもうそろそろ時間である。準備は出来ている。先程とは一転して真剣な表情でその時が来るのを待った。
数分後、控え室の扉がノックされた――
この祝いの席に呼ばれた貴族たちは皆その瞬間を待っていた。そして、その時が来た。ホールの出入り口ではなく、ホールの奥にある扉から招かれて彼は姿を現した。ファガー侯爵家子息、エアリード・ファガーその人であった。鳴り響いていた音楽は少々抑え目になり、客人たちは彼の言葉を待っていた。
エアリードは一歩前に踏み出し、優雅にBow and scrapeをして見せた。
「今宵は私、エアリード・ファガーの誕生日祝いの席に来ていただきありがとうございます。まだまだ、未熟な私ですが、日々精進していく所存です。我がファガー家の跡継ぎとして恥ずかしくないよう努力していきたいと思います。本当に皆様、来て頂きありがとうございます。これからも宜しく願います」
5歳児とは思えないほどの完璧な挨拶をし終えた。周りからは賛辞の溜息が聞こえる。
その後、ファガー家の当主であるカルスタールが挨拶をした。そして、その後に一人の少年を招き寄せ言った。その行動にホール内がざわつく。
「今日から我がファガー家に家族が一人増えることになりました。皆様にご紹介します。今後ファガー家の者になるレスト・ファガーです。どうぞ皆様、今後この子も宜しく願います」
その言葉の後、招き寄せられた少年――レストは一歩前を出ると口を開いた。
「今日からファガー家の一員になりました、レスト・ファガーと申します。どうぞお見知りおきを」
そう言うとBow and scrapeをし、挨拶を終えた。客人たちは呆気に取られていた。何故嫡男の誕生日に合わせて養子を取ったのかと訝しんだからだ。何故か数人の客人は噴出していたが…。客人たちはエアリードの反応を伺っていた。だが、エアリードとレストは何とも微笑ましいほどの光景を繰り広げていたのでホッとしたようだ。そんな客人たちにカルスタールは声を掛けた。
「では、皆様、この後はダンスや食事などを楽しんでいって頂きたいとおもいます。音楽を!」
この一言で客人たちは思い思いに散って行った。
レストは今、一人の少年――エアリードを前にしていた。エアリードは酷く興奮しているようだ。頬が興奮で薔薇色に染まっている。
「あの、本当に兄上になってくださるのですか?」
その言葉にレストはクスリと笑った。
「なる、じゃなくてなったんだよ。うん、お前かわいいなぁ」
そう言うとレストはエアリードの髪をセットを崩さないように撫でた。ポカンとした表情になったエアリードを見て、自分の言葉が悪かったかとレストは口を開く。
「あぁ、すまない。言葉を直すべきかな…?」
そんなレストに慌てたようにエアリードは首を振って否定した。
「いいえ。そのうれしくて…。本当に貴方の様な方に兄上になっていただけてうれしいです」
そう、はにかんでエアリードは言った。そんなエアリードを見て思わずレストは抱きしめていた。
という顛末を客人たちは見ていたわけである。
レストは暫くエアリードの質問攻めを受けていたが、エアリードに挨拶に来た貴族たちが居たので、エアリードを宥めて挨拶を受けるよう促した。その姿は正しく“兄”であった。
こうして、レストは誕生日プレゼントとしてファガー家の一員となったのであった。レストとしては自分の弟がとても可愛い弟だったので、とても満足であった。今日一日の苦境はこのことによって昇華され、レストの中では『報われた!』ということになったのだった。
余談だが、噴出した貴族たちはカルスタールの悪友たちである。今回のプレゼントの件を知っていた面々である。いや、知っていた、と言うよりプレゼントの内容を仄めかしていたのを知っていたのだ。だが、実行するとは思っていなかったのである。彼らもカルスタールが斜め上方向に行く人物だとは長い付き合い上分かっているが、なんとなく本気でやったのか!と思ったのも事実なので、結果あんな反応に成った訳である。
プレゼント完了です。
今後はファガー家にて色々やっていきます。
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