14.誕生日プレゼントへの道のり10
レストの支度を整えたリーファたちは憔悴したレストを連れ作法の伝授をするための部屋へ移動していた。
移動している途中リーファはこっそりとレストを窺った。そう問題はレストだ。いや、問題が無いところが問題なのである。何故かというとレストには違和感が無かったのだ。貴族の中に居ても違和感が無い。レストの態度は一貫して粗野な部分が見えず、堂々としたものだった。伝授をしなくても今から貴族の中に出しても恥ずかしくないくらい様になっている。だが、その態度は孤児が身に付けられるものではない。また、その様な態度をした孤児など悪目立ちするだけである。しかし、レストはその様なことに陥ったことは無い様である。それはつまり、下層の者から上層の者までの態度を使い分けられるということになる。その様なことはどの様に身に付けたのか…?伝授することはあまり無いということになるかもしれない。まぁ、作法部屋に着き次第事情を訊こうとリーファは思ったのだった。
レストは大き目の鏡が壁に埋め込まれた部屋に通された。此処が作法部屋のようだ。鏡はカーテンが掛けられていたが、ミルシェがカーテンを引いたことで鏡が顕になっていた。レストはこれから何やら鏡の前でやるのかと思ってみていたのだが、師事する者のために置いてあるであろう円机の方にリーファによって呼ばれた。ミルシェとフルーレは元々2脚しか置かれていなかった椅子を4脚にすべくもう2脚運び込んでいた。
リーファに椅子を引かれレストは座るように促されてその椅子に座った。本来ならば主人と同席しない彼女らではあるが今回は例外として座ることにした。まだ、その様な貴族の作法はレストには馴染み無いことからの措置である。何となくではあるが、これから先も人目さえなければこの様な状態なのではないかと思うメイドたち三人ではあるのだが。それはさておき、レストはリーファに尋ねられた。
「レスト様、レスト様の立ち居振る舞いを見て思ったのですが、そもそもその点においてはお教えすることも無いように思うのです。その様な振る舞いはどの様にして身に付けられたのでしょうか?」
レストにとってその質問は不可思議なものだった。これまたレストにとって当たり前のことについて尋ねられたからだ。
「え~と、身に付けた?というと、俺の歩き方とかを誰かから教わったってことか?」
当たり前のことだった故に質問を返すことになった。
「その通りです」
リーファは真剣な表情で頷き返してきた。だが、質問の意味は分かったが返す答えが無い。敢えて言うならば教わったことはない、という事だけだ。レストは己の加護精霊のフェシェイドに困ったように目を遣った。それを見たフルーレとフルーレの加護精霊のユハナーシェは察したように顔を見合わせて頷きあった。
「あの、リーファ先輩。多分なのですが、レスト様は精霊たちの立ち居振る舞いに基本的には倣っているのではないでしょうか」
「どういうことですか?フルーレ」
「レスト様は高位精霊の方々に育てられたものだそうですからその様になったものと。先程、レスト様と話していたときにその様な話を聞きました。精霊が視えない方々は分からないと思われますが、高位精霊の方々の所作はとても綺麗で人の貴族の方々と共通する部分が多々あるんです。その、精霊の方々の所作を人間が真似ていると言った方がいい様ですが」
フルーレの隣でユハナーシェが満足したように頷き、フェシェイドはその通りだと頷いている。リーファには全く見えないのだが。更にフルーレは続けた。
「ですからレスト様は自然に身に付けたと言った方が正しいかと思います。それにレスト様が場によって使い分けているのも同じ理由からかと思います。レスト様の置かれていた環境とはそういったものだったと想像も付きます」
「成程。そうですね。そういった理由ならば納得です。では、所作には問題は無いと言ってもいいものだとしましょう。問題は貴族特有の振る舞いですね。今回は挨拶程度で大丈夫でしょう。ですから今回はお辞儀のみ伝授しましょう。手本に兄を呼びましょうか」
こうしてアインダートは作法部屋に召喚されることになったのだった。
待つこと数分、アインダートは作法部屋に連れてこられていた。今日、運悪くカルスタールに拉致られて来た少年は今日から主の一人になることになったようだ。そして、その小さな主にお辞儀の手本を見せて欲しいとのことである。止められなかった罪悪感と謝罪のため幾らでも手本を示そうと決意した。が、あっさりとその決意は覆された。そう何度も示す必要が無かったからである。それこそレストはあっさりとやってのけたのだった。右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出すという所謂Bow and scrapeというものだ。
それを見たアインダートは予期せずアジェス同じことを呟いた。即ち「教師泣かせになりそうだ」と。アインダートはレストのお辞儀を見てはしゃいでいるユハナーシェや流石レストと言って頷いているフェシェイド、レストの周りを楽しげに回っている小さな下位精霊たちを見て和んだので満足だった。何せ自分がレストに教えることなど今回限りであるのだから。結構自分本位のアインダートであった。
こうしてレストの誕生日プレゼントへの道のりは終着地点が見えてきたのであった。後は誕生日プレゼントになるのみであった。
やっと、準備が終わりました。
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