13.誕生日プレゼントへの道のり9
レストはリーファの先導によって次なる部屋に向かっていた。だが、実は先導しているリーファの更に先をフルーレの加護精霊のユハナーシェが先導していた。リーファやミルシェには残念ながら見えないのだが。そんなユハナーシェは楽しそうにフワリフワリと前を行く。
(レスト様、次のお部屋はこちらですよ~♪)
歌いだしそうな勢いである。それを見たフルーレは本当にユハナーシェがレストに懐いているのだと確信した。ユハナーシュは人見知りが激しいのだ。慣れた人たちにさえその性質を発揮する。それは視えていない人々にさえ、である。そんなユハナーシェがレストには自ら近付き話しかけているのだ。そんなユハナーシェをレストは楽しそうに慈愛に満ちた瞳で見ていた。フルーレはそんな二人を微笑ましそうに見ていた。そして、自分の幼い主とは仲良くやっていけそうだ、と思ったのだった。
暫く歩き続けているとユハナーシュとリーファが一つの扉の前で立ち止まった。
(レスト様、レスト様、ここですよ~)
ユハナーシェが元気良く教えてくれた。あまり変哲も無い扉である。だが、扉の中からは忙しそうに動き回る気配と声がする。
リーファはドアをノックすると声を掛けた。
「レスト様をお連れしたわ。準備は整っていますか?」
ドアが内側に開き一人のメイドが出てきた。リーファたちよりは年上であるようだ。しっとりとした落ち着きのある人物である。赤茶の癖のある髪を肩口でまとめた女性である。
「えぇ、リーファ整っているわよ。初めましてレスト様、私は衣装担当の者でアジェスといいます。宜しくお願いいたします。」
アジェスと名乗った女性はリーファに答えた後、レストに丁寧に挨拶をした。レストはそれに挨拶を返した。
「丁寧にありがとう。今日から世話になるレストだ。よろしく」
簡潔なものである。
くすりとアジェスは笑う。そして部屋の中にレストたち一行を楽しそうに招きいれながら言った。
「レスト様は教師泣かせになりそうですね」
それに反応するメイドたち。
「アジェスの予知だわ」
「予知?」
レストは斜め後ろにいるフルーレに訊いた。因みに今はユハナーシェを抱えている。
可愛いものが可愛いものを抱えているというのはとても和む。そんな光景に癒されつつフルーレは答えた。
「アジェスさんは何時も色々言い当てるんですよ。だから予知者だと皆さんから言われているんです」
「予知者なのか?」
「いいえ。違います。ただの観察と考察です」
「ふーん、で、なんでなんだ?」
「そうですね。レスト様の目、ですね。とても知性に満ちた瞳をお持ちです」
「成程。観察と考察がアジェスの強みなんだな」
「そうですね。これが私の衣装担当としての強みです。その方の性質も服装に反映させたほうが色々と良いのです」
そう言うとアジェスは一呼吸置いて口を開いた。
「では、衣装を選びましょうか」
そう言ってアジェスが顔を向けた方向にレストも顔を向けた。だが、すごい勢いで顔を背けたのだ。何故なら、部屋の中が衣装で埋め尽くされていたからである。試着部屋は決して広いとは言い切れない部屋である。だが、狭いとは言えない広さがあるのだ。その部屋を埋め尽くす衣装。その答えはその大量の衣装の中から選ばなければならないということだ。レストは想像もしていなかったことである。孤児であったレストには服を選ぶという発想自体が無かったのだが…。そんなレストを見たアジェスは無情にもレストに言うのだった。
「貴族とはそういうものです。レスト様。慣れてくださいね」
アジェスは極上のスマイルで言い切った。レストが適当に切り上げようと思ったその瞬間であった。一瞬、思考を読まれたのでは、と本気で思ってしまっても仕方が無いくらいのいいタイミングだったのだ。レストは顰めた顔を更に引き攣らせる羽目に陥ったのだった。逃げ場は無いかと周りを見回せばチャッカリと捕獲体制に入ったリーファ、ミルシェ、フルーレが待機していたし、衣装担当のメイドたちは服の選び甲斐のある人物を逃がさんとばかりに目をぎらつかせている。また、加護精霊たちや他の周りの精霊たちは着飾ったレストを見てみたいと目をキラキラとさせていた。逃げ場は無いと一瞬で悟ったレストは諦めて項垂れたのだった。貴族になんてなるものじゃない、と再び思うレストだった。
こうして、メイドたちによるレストの着せ替えゴッコ、もとい、衣装選びが始まったのだった。
「お疲れ様でした。レスト様」
アジェスのその一言によって、やっとレストは開放された。
選ばれた衣装は、というと、胴の中辺りまでの裾丈の短いダークブルーに銀糸の刺繍が施されたコートに白いシャツ。首にはクラヴァット(ネクタイだがスカーフのように見える)をし、コートと同色の七分のズボン。白い靴下に黒に銀の刺繍が施された布靴というものであった。動きやすさを重視した柔らかめの布地の物を選んである。コートだけはしっかりとした布地だが。
その服装はとてもレストに似合っていた。メイドたちから言わせるとどれもお似合いです、とのことだったが。素材が良いとどれも似合う、とは彼女らの言である。
憔悴したレストを中心に衣装担当者たちは仕上がりが上々で満足げに頷いている。リーファとミルシェはレストの憔悴っぷりに哀れみと同情の視線を向けていた。確かに戦場であったのだ。色々な意味で。精霊たちは綺麗なものが大好きである。故に精霊たちと精霊の感覚に近い感覚を持つフルーレはキラキラとした目でレストを見ていた。そんな変な空間が出来上がっていたが、捕り合えず一歩前進したのだった。
こうして、レストは誕生日プレゼントへの第九歩目を踏み出したのだった
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