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12.誕生日プレゼントへの道のり8

 髪を切る段になりレストは少々、不安を感じていた。

 何故ならば、ここまでくると貴族というものは髪を切る専門の使用人である理髪師が居るのだろうと考えていたからだ。レストの考えは普通である、という条件下では当然の考えといえるだろう。的を射ているはずの考えはファガー家には通用しなかった。髪を切ると言っているのは目の前の人物であった。ミルシェである。

 無表情に何処から取り出したものやら髪切りバサミと櫛を取り出して「髪、切りますね」と言ったのだ。レストはその瞬間背筋に悪寒が走った。恐怖したのだった。ミルシェの雰囲気が一気に変わったのだ。そこが戦場に変わり、命の遣り取りをしているような感じである。何故髪を切る為だけに命の危機を感じねばならないのか、と不安になった次第である。ミルシェの目が怖い…。

 レストの反応を感じ取ったリーファがレストを宥めた。少しずれた方向であったが。

「レスト様。大丈夫でございますよ。ミルシェの腕は確かでございますから。何といっても刃物を持たせたら当館には右に出るものはございませんもの。まぁ、刃物を持つと目の色が変わってしまうのが玉に瑕なのですけどね」

リーファはさわやかに物騒なことを言い切った。

 レストはとても物騒なことを聞いたと思った。それは色々な意味で危ないのではないか、と。本当に髪を切るだけで終わるのだろうか、と悩んで後ずさっていたのだが、やはりそこは見事な連係プレイの前に敗北を喫したのだった。無念。



 レストは左右にリーファとフルーレに固められながら、ミルシェの手により髪を切られていた。

 まずは大雑把に髪を切られていく。この段で大分頭が軽くなっていた。シャキシャキと軽快な音とともに髪が落ちていく。そんな落ちる髪や落ちた髪に精霊たちがじゃれ付き戯れているのをレストはぼんやりと見るともなしに見ていた。

 最初、レストの前髪は顔を覆うほどに伸びており、後ろ髪は腰の下まであるほどだった。今は、顔を覆うほどであった前髪は顔が見え、左サイドが若干長めに取ってある。後ろ髪は背中の中ほどまでになっていた。

 髪を切り、櫛で整え、また切る、といった作業が繰り返されていく。レストは気持ち良くなってきていた。瞼が重くなる。精霊たちは踊るように愉しげにレストに、髪にと戯れている。髪を切るシャキシャキとした音と精霊たちの愉しげな声を子守唄にレストは何時しか微睡みに落ちていった。



 どれ程の時が経ったろうか、髪を切る音が途絶えた。ミルシェが手を止めたのだ。髪型を矯めつ眇めつして確認していった。満足がいったのか、ミルシェは一つうなずくと髪バサミと櫛を何処へか再び仕舞い込んだ。それを見たリーファは微睡みの中に居るレストを見下ろした。今や顔を覆っていた髪は無く、はっきりと顔を見ることが出来る。髪と同じパールホワイトの睫は長い。同色の眉毛はレストの意思の強さを反映する様に吊り上がり気味である。だが、今は安心した様子で眠っているので少し下がり気味である。鼻はスッと通っており、唇は厚くもなく薄くもなく良い形をしている。それらのパーツで構成されているレストの顔は整っていた。貴族の子弟としても通るような気品がある顔立ちである。ほぅ、と感嘆の息を吐きリーファはレストを起こすべく声を掛けた。

「レスト様、起きて下さい。御髪を切り終わりましたよ」

「ん゛・・・?」

 小さく呻き声を上げてレストの目が開いた。そこには輝くエメラルドグリーンの宝石が嵌まり込んでいた。吸い込まれる様に透明で強い意志の光りで輝いている。リーファは思わず息を呑んだ。それはミルシェも同じであった。それほど瞳を開いたレストは、ハッとする程の華があった。

「どうかしたのか?」

 レストの言葉に二人は正気に返った。慌てている内心を悟られないようリーファは髪を切り終えたことをレストに伝えた。そこにフルーレが部屋に戻ってきた。レストが起きたら喉が渇いているであろうことを察しレモン水を取りに出ていたのだ。

「レスト様、素敵です」

 レストにレモン水を渡しつつフルーレは純粋に賞賛を贈った。それにレストも照れくさそうに笑顔を返している。なんともほのぼのした遣り取りである。リーファとミルシェはそんなフルーレの反応に驚嘆すると同時に納得もした。フルーレとはこの様な少女である。また、それは『祝福持ち』の反応とも言える。『祝福持ち』の感覚とは精霊たちに近いものがあるので一般人との反応が異なるのが常であるのだ。その様な事情があるので『祝福持ち』の反応に一々驚いていられない。見えている世界が違うのだから仕方ないのだ。

 とりあえず、髪も切り終えたので、次は着るものである。いきなり服を作ることは出来ない。特に貴族達のパーティーとなるとお仕着せの服というわけにもいかない。今回はカルスタールの子供時のもので代用することになった。だが、カルスタールとレストでは容姿が随分と違うので合うものを選ぶことから始めなければならない。別のメイド仲間をリーファは呼び、合うであろう色、型などを一通り伝えてそれらを衣装室から選別して出しておくように伝えた。

 レストとフルーレが楽しそうに話している。そんな二人をリーファは見て、父の見立ては合っていた様だと思った。フルーレならばレストを理解しレストの良いように動ける侍女になれるだろう。このことは後でまた父に報告しようとリーファは思った。

 だが、まだやることが残っている。レストのパーティー用の服の準備に立ち居振る舞いの一通りの伝授だ。立ち居振る舞いは一朝一夕に身に付くものではないので、こればかりは付け焼刃になってしまうだろう。お披露目の後、暫くはマナーなどの授業も早急に手配しなければならないだろう。レストの存在は人目を引くのでパーティーの誘いも多く贈られてくる予感がする。リーファは暫く忙しそうね、と思い、次の準備に取り掛かったのだった。

まずは若い主従の楽しいおしゃべりを中断させることから始めた。



こうして、レストは誕生日プレゼントへの第八歩目を踏み出したのだった

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何時も読んで頂いている方も有難うございます。

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