11.誕生日プレゼントへの道のり7
レストは波打ち際に打ち上げられた魚のようにグッタリと横たわっていた。とはいっても、床ではない。マッサージなどをする手入れ台の上である。そこにうつ伏せに横たわっているのだ。グッタリしているレストとはうってかわり、メイドたちは楽しそうであった。それは、思いもよらずレストの肌が綺麗であり、手入れのし甲斐があるからである。
「レスト様はお肌が綺麗ですわね。」
マッサージを施しつつ、そう言うのはリーファである。その言葉にマッサージの後に磨りこむためのオイルを手に持ち、控えているミルシェがコクコクと頷いている。フルーレは、というとグッタリしているレストを見ておろおろしていた。どうも彼女だけはレストの様子が気になり、肌の綺麗さどころではないらしい。
「これも精霊様方の賜物なのですわね。女性には羨ましい限りですわ」
そのリーファの言葉に次はレストの加護精霊のフェシェイドが得意げに頷く。フェシェイドが頷いたのを見たのはレストのみだったが…。ここでも、精霊が見えるであろうフルーレはそれどころではなかったらしい。得意げに頷くフェシェイドを見たレストは益々グッタリとし、疲れがいや増したようだ。主に精神面のであるが。
そんなレストの視界に今まで目に映らなかったものが視界の隅に映った。赤茶の柔らかそうな髪の毛である。レストは顔を上げた。真正面に幼い少女のにこにこ顔がある。少女は両肘を台に付きレストと向かい合うように手入れ台の上に居た。少女は精霊特有の少々透ける感のある姿をしていた。少女の色合いから言って、地精霊の様である。レストと地精霊の縁は深い。風精霊であるフェシェイドが加護精霊に憑いていたとしても生まれた土地は地精霊が多い土地であるシェスカである。本来最も縁が深い精霊といえば地精霊なのである。その為だろうか、レストから張り詰めていた空気が消えていった。レストは手を伸ばし、正面に居る地精霊の少女の頬に手を添えた。そして撫でる。地精霊の少女は擽ったそうに身を捩り、はにかんだ。
そんな、微笑ましく、張った空気が霧散した場面を見たフルーレもホッとし、肩の力を抜いた。
「レスト様、その子はユハナーシェというのです」
フルーレはやっとレストに声をかけた。そんなフルーレをレストはジッと見上げて訊く。
「この子はお姉さんの加護精霊か?」
「えぇ、この子は私の加護精霊です。多分、中位に当たると思うのですが…。ユハナーシェ、ご挨拶は?」
(レスト様、私、フルーレ・エトラ・トルンシエの加護精霊のユハナーシェといいます。どうぞ宜しくお願いします!!)
ピョコリと手入れ台から降りて挨拶の言葉を述べると、ペコリと勢い良くお辞儀をしてえへへと照れながら笑っている。とても微笑ましい様である。レストも思わず頬が緩む。
「こちらこそよろしく、ユハナーシェ」
レストとユハナーシュが挨拶を交わしているのを見ているメイドたちはそれを微笑ましく見守っていた。
「あら、ユハナーシェ様が居るの?フルーレ」
「えぇ、余程レスト様に懐いているみたいで」
「照れ屋でいらっしゃるものね。ユハナーシェ様は」
ミルシェなにやら想像して悶えている。実はユハナーシェの姿かたちはフルーレから聞き出して知っているのだ。この状況を想像で補った結果が悶えることに繋がっているらしい。無表情でやっているから傍から見ると微妙だが。
「それにしてもレスト様は御髪も綺麗ですわ」
「そうですね」
リーファの言葉にフルーレも同意する。因みにまだミルシェは想像から戻ってきていない様だ。
「銀髪かと思ったらパールホワイトだったのですね」
フルーレが言った通りにレストの髪は白い。処女雪のように白くきらきらと輝いていた。前髪の一房のみメッシュ状に緑がかった髪がある。フルーレは想像から戻ってきたミルシェがオイルをレストの肌に塗り込んでいくのに邪魔になる髪を退けていた。退ける時に触れる髪の感触は何とも心地よかった。さらさらとした絹糸の様で手からすぐに滑り落ちていく。その髪には下位の精霊たちが戯れている。毛先を引っ張ったり滑り落ちる髪を追いかけたり、包まってみようとしたりと様々だ。
「さて、オイルを塗るのも終わりましたし、その御髪も如何にかしませんとね」
リーファがそう言うのを聞いてフルーレは勿体無いな、と思った。フルーレも他の『祝福持ち』と違わず精霊の感覚と似通った感覚を持っている。その所為かその時そう思ったのだった。
一方、レストは髪を切るのだということを理解して内心喜んだ。髪というのは存外重いし、邪魔である。髪を切りたいと何度も思ったことがあったのだが、その度に周りの精霊たちが切るなと懇願してくるのである。たかが髪、されど精霊たちが好きな髪なのでそうそう切れなかったのだ。しかも普段表情を余り変えないシェスカの地精霊たちすら悲壮な顔をしたのだ。切れるわけがない。今回はそうは行かないだろう。人間とは兎角外見を重視する生き物なのである。故にこの様な髪ではパーティーには出られないだろう。レストの長年の思いがここで成就するのだ。これにはレストは少々感謝した。周りの精霊たちも分かっているようで、何とも悲壮感が漂ってはいるが否と言う者はいなかった。
そういうことで、次は髪を切ることになったのだ。
着々とレストの準備が整っていく。
誕生日プレゼントへの第七歩目はすぐそこまで来ていた。
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