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鷽から出たマコトの世界  作者: 久安 元
フィアー・ウィッシュ・アンド・ディサイド
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罅割れる法

 もう一度確認しておくが俺の力は物質の具現化だ。イアと俺、両方の脳に記憶されているものをイメージすることで、それをこの世界に出現させる力。鉛筆から戦闘機まで。俺の精神力の許容範囲を超えない限りであればそれこそなんでも出すことができる。まあ、一つ物を出すにはどんなにしょうもない物でもとんでもない量の精神力がいるそうだが。

 ただ、何事も万能なものなどないようにこの力にも様々な縛りがある。「既知共有」と「代償過多」。先に挙げた二つはその代表的な例だろう。

 この他にも当然縛りは存在する。それは例えば具現化できるものは一度に一個というもの。ただこのルールは二つを一つのものとして認識していれば、つまり「銃」と「弾」というように分けて考えるのではなく「銃と弾」として一個の存在であると認識してさえいれば複数のものを同時に具現化することができるので現状ないに等しいが、これも立派なルールといえよう。

 そして具現化したものは同調を解く、もしくは新たに別のものを具現化した場合には消滅するという法。だからいつぞや開いた我が家のリビングの天井の穴は結局俺が地力で直す羽目になったという訳。

 ――で、だ。

 その縛りに照らし合わせて考えると、あの禍渦に向かって投げた日本刀は俺が新たに手榴弾を具現化したその瞬間に消滅していなければおかしい。何故ならば俺は日本刀と手榴弾を複数同時に具現化したのはないからだ。

 だからこそ、あのときのイアの驚きは当然で。

 俺の衝撃は尋常ならざるものだった。

 同調率が上がったから?

 いいや、違う。その可能性は非常に低い。

 これまで同調率が上がって、具現化の際に消費する精神力が抑えられたり、身体能力が上がったりと様々な変化はあったが今回のようにルールそのものが歪められたことはなかった。

 では、この原因は何か?

 どれだけあの場で推測を交し合っても答えはでないと判断した俺たちは助けた少年を村まで送り、その後神様に意見を聞くべく御社まで帰還したのだが。

「あのヤロー、肝心なときにいつもいやがらねえ……」

 この真白い空間にあの男の姿はなく、待つこと二時間。尚も帰還する予兆すら感じられない。

「電話も繋がらなかったしね……、どうしよっか?」

「僕は帰って晩御飯に一票」

「あ、じゃあ私も」

「それらの意見を却下するに一票」

「「ええー……」」

 確かに晩飯を要求するタイミングとしては良い時間帯だが、このもやもやした感じを抱いたまま晩飯なんぞ作れるかっての。訳あって新しく買った冷蔵庫をまた壊してしまいかねない。

「……あ、頼人」

「……………………おう」

 と、神様が帰ってくる前に、御社にある扉の一つからいま俺が若干不信感を抱いている相手がその姿を現した。最後に見たときは同調状態だったがいまはそうではないようで容姿にやや異なる部分はあるものの、このあどけなく自信のなさそうな顔は間違いなくクダンだ。

 しかも彼女が手にしているのは――。

「あ、あの魚!! 深緋が持ってきたヤツ!!」

「ああ、そうだったっけ?」

「やっぱりか…………」

 やあ、久しぶり俺のトラウマ。

「んん? なにさ、その顔は? ボクの、ああいや、私のマスターになんか文句でもあるのかい?」

 と、生意気な声で問いかけるのは琥珀色の毛に黒い虎縞模様の入った一匹のトラネコ。

 はっはっは、もう動物が話しかけてこようが何も驚かんぜ。というかコイツ多分だけどクダンのパートナーだろ。

 ……………深緋に引き合わせてやろうか。そんな黒い考えが頭を過ぎったが、それは取り敢えず置いておくとして。

「あー、クダン? それ、どうするんだ?」

 その魚をどうするつもりなのか聞いておきたい。あの贈り物が悪意に満ちたものだったのか、それとも善意百パーセントだったのかをはっきりさせておきたいのだ。

「……? 食べる、よ? 頼人、も、食べたで、しょ? ………………美味し、かっ、た?」

 おずおずという様子だったがふんわりとした柔らかな笑顔を見せるクダン。

 判明。善意からでした。

 うん、そうだよな。深緋なら兎も角、クダンはそんなことする子じゃないよな。ジェヴォルダンで少しの間だが彼女の心に触れたから何となくそうだとわかっていたさ。

「……悪い、寝込んでる間にすげえ腐っちまって食えなかったんだ」

「…………そ、う」

 ああッ!! やっぱりシュンとしちまった!! い、痛い!! イアとネロとトラネコの視線が痛いッ!! この状況を打開する方法は………………ッ!! そうだ!!

「あー、クダン? それ一口くれねえか?」

「……え、で、も?」

「良いから、良いから」

 ここでこの魚を食べて彦○呂のような素晴らしいコメントを残せばきっとこの子は喜んでくれる筈。それで何とか機嫌を直してくれると良いのだが……。

 表面をこんがり焼いてあるにも関わらずぬるっとする肉を一欠けら指で千切り取り、クダンが静止する間もおかず、ひょいと口の中へと放り込み――。

「おぼろろろろろろろろろッ!?」

 盛大に吐いた。

「よ、頼人ッ!?」

「イア、ほらエンガチョ、ほらエンガチョ」

 え? 何これ? ホント何これ? それからネロちょっと五月蠅い。

「あっはっはー、ざまぁみろ!! エディバラをちゃんと調理しないで食べたらそうなるに決まっておぼろろろろろろッ!!」

「はぁ……、はぁ……、何でオマエまで、うぷっ、吐いてんだよ……」

「う、うるさいな!! もう条件反射みたいに、おうっ……、なってるだけさ……」

「条件反射……?」

「そうさ、もうずっとこればっかりだからね…………、ぐすっ!! ちゃんと調理すれば美味しいらしいんだけど……」

 ずっと!? これをずっと!?

 ゆらりと立ち上がり、御社の片隅にある粗末なテントに目をやる。クダンが俺たちの目の前に姿を現したのとほぼ同時期にあれが出現したことから、きっとあれは彼女とこのトラネコの住まいなのだろう。また、戸惑いの表情を浮かべるクダンは襤褸切れをかけているだけでその褐色の肌は泥などで酷く汚れている。

 あんな所に住んで、こんなものを毎日食べて、最早服とは呼べない代物を身に纏って?

 …………ふざけんな、あのバカは一体何をしてやがる? 相談しようとしていたことなど頭から吹っ飛び、俺の中の優先順位があっという間に入れ替わる。

「イア、そこのトラネコ連れてこい。ネロ、そいつが逃げようとしたら噛んででも止めろ」

「え、え? あ、はい」

「ひょあッ!? 私、ああいや、ボク何されんの!? 何がこの先に待ってるの!?」

「……取り敢えずそれ以上暴れたら僕に噛みつかれると思ってくれて良いよ」

「サー、了解!! ジッとしてます!!」

 良し、面倒そうなヤツも大人しくなった。後は誰にも見つかることなく移動するだけだ。

「行くぞ、クダン」

「……ッ!? ッ!? ど、何処、に!?」

 いきなり手を掴まれ、引っ張られ、動揺する彼女に対し、俺はなんでもないように言い放った。

「俺の家」

「……ふぇ!?」

 さて、まずは風呂沸かしてコイツらぶち込んで……、二人分多く飯を作って……。やることが一気に増えたが何はともあれいまは帰路を急ぐとしよう。

 ――今日はいつも以上に賑やかな夕飯になりそうだ。


 明日はー、休みだッ!! どうも、久安です。


 シリアスかと思ったら後半そんなことはどうでも良いというように主人公が幼女を誘拐した……。何を言ってるかわからねーと思うがry。

 頭に血が上ったよっくんは基本的に頭おかし――(銃声)。………と、じょじょ冗談は置いておいて本章は語り中心ですで、ちょっと退屈なところが多いかもしれませんが色々また後につながることをばら撒きます。ビッキーズの撒いていた飴のように。


 今回の駄文はここまで。次回予告です。

 また土日はお休みです。というか、今後月、水、金という定期更新にしようかなとか考えてます。あくまで予定ですが。

 そういうわけで次回は3月25日 7時です。それではー。

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