俺と、帰ってきた夜
二人の村を焼き払った連中は、大した抵抗もなく、呆気ないほど
あっさりと捕まった。
なぜ、あんな連中の気まぐれで、
二人の母親や村人たちが殺されなければならなかったのか。
耳の形が違うから、体のつくりが違うから。
生き方が違うから……。
たったそれだけのことが許せないという身勝手な理屈は、俺には理解できなかった。
彼女たちは、俺たちと何ひとつ違わない。
親の愛情をたっぷり注がれて育った、ただの幼く純粋な子供たちだった。
ここへ帰った時、自分の手が小さく震えていることに気がついた。
今、この狭い小屋にある温かな日常。
ここで生きて彼女たちの前に立っているというこの瞬間を、
もし一歩間違えて失っていたら。
その恐怖が、今更になって背筋を冷やした。
無事に戻って来られることができた。
大きな命の危険もなく、依頼を果たして帰ってくることができた。
だが、命を落とさずに済んだとはいえ、久しぶりに戦場に近いところへ足を運び、
人に刃を向け、向けられる。
命を奪い合う、徒労じみた無為な時間。
その片鱗を味わった。
「新兵の教育係でもいいから戻らないか」と声をかけられた。
だが、戻る気はなかった。
この周辺なら土地勘が働くし、
何よりこの子たちの為に俺が今最大限できることとして、
今回臨時の斥候を買って出た。
……それなのに、家に戻ってまでこの体たらくとは、本当に不甲斐ない。
「……おじさん、怖い顔してる」
ナーナにふいに服の裾を引かれ、ハッと我に返る。
いつの間にか目の前に立っていたふたりが、不安そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「どこか……怪我したの?」
「……そんな顔、してたか?」
情けない顔を見せてしまったことが、ますます悔やまれる。
『大丈夫だ』と無理に口角を上げて笑ってみせるが、
子供というのは大人が思っている以上に勘がいいものなのか、
それとも俺が思ったように笑えていなかったのか……。
彼女たちの心配そうな眼差しは、消えるどころかより一層深くなっていた。
「……おじさんも、また怖い夢見た?」
「……ああ」
つっかえる息をどうにか吐き出し、深く頷くのが精一杯だった。
過去の悪夢と、尊いものを失う恐怖。
それらが交ざり合った、温度を持たない虚無感が胸の奥に澱のように溜まっている。
「……また、一緒に寝てくれないか?」
そう、情けない願いを口にすると、二人はにっこりと笑った。
「うん、いいよ」
小さな手が、俺の震える指先をそっと包み込んでくれた。
そのじんわりとした体温に、強張っていた手の震えが少しだけ
緩んでいくのを感じる。
無事に戻ってこられた。
それは単に俺自身が生きているということ以上に、
「この子たちを二人きりにさせないで済んだ」ということなのだと、その手の温もりが教えてくれていた。
「やっぱり、断らないとな……」
「なに……? 何のお話?」
「……ううん、何でもないよ」
冷え切った体を少しでも温めるように、
いつものように狭いベッドで3人で固まって寝る。
右側にネノネ、左側にナーナ。
いつの間にか定位置になった並びで、俺は目を閉じた。




