↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほんとのかぞく  作者: たろう
第四 ナーナとネノネの想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

姉妹と、虫取り

「それでは、この辺りの虫や花を観察してみてください」


 先生の明るい声が野山に響き、生徒たちが一斉に草むらや木々に散らばっていく。

 今日の授業は、学校の近くにある野山での自然観察だった。


 けれど、ネノネはつまらなさそうに足元の草を靴底で踏みつけていた。


「この辺だとあんまり変なのいなくてつまんないねー」


 隣を歩いていたクラスメイトの女の子が、目を丸くしてネノネを見た。


「そ、そうなの?」


「うん、生き物もあんまりいないから。小っちゃいのが何匹かいるくらいだし」


「そ、そうなんだ……詳しいね」


 山育ちのネノネにとっては当たり前の景色だったが、友達は感心したように首を傾げる。

 だが、すぐに身を縮めて顔をしかめた。


「わ、わたし虫とかダメなの」


「え? 何で?」


 不思議そうに首をかしげるネノネに、友達は身震いしながら言った。


「だって、かさかさしててふさふさしてて、気持ち悪いし……」


「そうかなあ。こういう地味な奴は噛まないし毒もないけど」


 ネノネは手の中にいつの間にか乗せていた小さな虫を、友達の鼻先へ無造作に近づけた。


「……ぎゃあっ!?」


 友達は弾かれたように後ろへ飛びのく。


「大丈夫だよ、ほら」


 ネノネは悪びれる様子もなく、自分の腕の上に虫をトコトコと這わせて見せた。


「無理無理、見せないで……」


「これ見る授業だよ?」


「まあ、そうなんだけど……」


 友達が半泣きで頬を引きつらせていると、少し離れた木陰からナーナが歩み寄ってきた。


「あ、姉ちゃん」


「ネノネ、何か捕まえた?」


 ネノネは腕の上の小さな虫を指さして見せる。


「ほら」


「やっぱりちっちゃいね」


「そうなんだよねー、つまんないよね」


「私は別にどっちでもいいけど……」


 ふたりとも平然と、さも工芸品でも見るような瞳で会話を続けていた。


(まあ、ふたりとも同じところで暮らしてたんだもんね……)


「姉ちゃんは何か捕まえた?」


「うん、これ」


 ナーナがすっと差し出した手の先には、首根っこをがっちりと掴まれたトカゲが吊り下げられていた。

 ジタバタと脚を掻くトカゲを前に、友達が顔をひきつらせて小さく慄く。


「ひっ……」


「結構太いね」


 ネノネがトカゲを覗き込むと、ナーナはどこか品評するような目つきで頷いた。


「でしょ。山に居たのと比べてどんくさいね」


 ふたりの中ではごく自然な会話だったが、後ろで見守っていた友達は引きつった笑いを浮かべ、恐る恐る口を開いた。


「ネノネちゃんのお姉さん、大人しいと思ってたけど……意外とたくましいね……」


「え……」


 たくましい、と言われて、ナーナの動きがぴたりと止まった。

 よく見れば、周りの女子はわーきゃーと小虫に声を荒げて一喜一憂としていた。

 街の女の子は、普通こんな風にトカゲの首根っこを素手で掴んだりしないのだと、その瞬間に悟った。

 ナーナの後頭部から冷や汗が流れる。


 ナーナは顔をひくつかせながら、掴んでいたトカゲをぽいと草むらへ逃がした。


「ち、違う違う。あはは……」


 慌てて街の女の子らしい笑顔を貼り付けると、ナーナはネノネの背中を強引に押し始めた。


「ほら、ネノネ! あそこにお花があるからスケッチしよ!」


「えー? なんで?」


「い、いいから!」


 ナーナは焦り混じりの引きつった笑顔のまま、ネノネの背中をぐいぐいと押して草むらへと向かわせた。

 友達の戸惑うような視線を背中に受けながら、普通の観察授業に戻ろうと必死だった。

 だが、連れてこられた先の草むらで、ネノネが足を止めて地面をじっと見つめ始めた。


「これ家の裏にも咲いてたやつだ」


「……あ、本当だ。黄色くてちっちゃいお花」


 ナーナはホッと胸を撫で下ろした。これなら可愛らしい花だし、絵を描くにもぴったりだ。

 スケッチブックを開こうとした、その時だった。


 ネノネがごく自然な動作で屈み込み、その黄色い花をサッと摘む。


「……ん、ちょっと酸っぱい」


 そして、口の端に噛みしめて蜜を吸った。


「ちょっと!?」


 必死に小声で怒るナーナだったが、背後からおずおずと近づいてきた友達が、

 疑うような目でふたりを注視していた。


「……ネノネちゃん、今、道草食べた……?」


「ち、違うの! たぶん、見間違いで……」


(今咥えてるけど……)


 ネノネはモグモグと口を動かしながら、不思議そうに首を傾げる。


「でも観察でしょ? 味もみないと」


「見るだけの授業なの!!」


「姉ちゃんも、一緒に食べてたでしょ?」


「食べてたけど! 今は授業中!」


(食べてたんだ……)


 ナーナは顔を真っ赤にして必死に手を振る。だが、ネノネは友達の心配をよそに、

 足元の葉っぱを指差してケロッと言い放った。


「葉っぱはアクが強いからダメだけど、根っこなら洗って潰せば、食べられるよ」


「ネノネ……もう喋らないで」


「えー? 役に立つ情報なのに」


 完全にずれたふたりのやり取りに、友達はもはや呆気にとられていた。


「ふたりのおうちのご飯って……山で採ってきたものが多いの?」


「そ、そんなことないよ……?! 普通のお肉とかお野菜だから……!」


 結局、その後のスケッチの時間も、ナーナは友達からの『この草って食べられる?』

 という質問に引きつった笑いで答え続ける羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。