私と父と、秘め事
私は身体を起こして、台所に置かれた水を飲もうと起きていた。
夜が更け、ネノネはすでに寝息を立てて眠っている。
通りがかった薄暗い部屋の隙間から、灯りの漏れる気配に気づく。
お父さん、まだ起きてたんだ。
私はこっそり、いたずら心を掻き立てて、
お父さんの書斎兼寝室として使っている部屋に歩み寄った。
はじめは、何をしているのか理解できなかった。
暗がりの中で目を凝らすと、お父さんは自分の下腹部に手を伸ばし、
背を向けて、偶にくぐもった息を漏らしていた。
お父さん……?と、声をかけようとして、なぜか喉の奥が詰まる。
知識もないながらに、何か、言えないことをしていると感じていた。
薄暗い部屋の中で、お父さんは服を肌蹴て、自身の下半身に手を伸ばしては、しきりに動かす。
私は、何故かその光景から目を離せず、ただじっと見ていた。
常に背筋を伸ばし、自分たちを守ってくれていた父親が、
汗を流し、低い息を漏らしながら崩れている。
その無防備で生々しい姿に、私は息を呑む。
無遠慮に乱暴に、自身の猛々しいそれを扱う。
自分を慰めている様子と、肉が微かに擦れ合う小さな音を、
脳裏に焼き付けるようにじっと、息を殺して見つめていた。
何故そうしていたのかはわからない。
お父さんにバレて怒られると思った……訳ではなかった。
ここで声を掛ければ、お父さんは、いつものように笑って誤魔化して、私を寝室まで送り届けてくれるだろう。
私はそんな、いつもは見せてくれない部分に夢中になっていた。
そのうち、お父さんの背中が小さく震えて、一際大きく息を呼吸した。
お父さんの手には、べっとりとした、白い汁がついていた。
お父さんの見られたくない一面を、まざまざと盗み見た私は、未知の下腹部への引き攣りを感じていた。
バレない様にこっそりお父さんの寝室から離れてベッドに戻っても、
何もしていないのに、私の呼吸は浅くなっていた。
自分のベッドに戻っても、思考の輪郭は少しも鮮明さを取り戻さなかった。
暗闇の中で目を閉じると、さっきの光景がまざまざと蘇ってくる。
私たちを守り、育ててくれた大好きなお父さんが、ただひとりの男として熱に浮かされていた姿。
その生々しいまでの脆弱さと、男としての隠された輪郭が、私の頭から離れなかった。
そして恐ろしいのは、私は、その記憶を拒絶していなかったことだ。
ひんやりとした夜の空気の中で、私の呼吸はいつの間にか荒くなっていた。
動悸はうるさいほどに鳴り響き、先ほど目撃したお父さんの息づかいが、
耳の奥で何度も反響していた。
頭では忘れなきゃ、あんなもの見ていないことにしないと。
そう必死に言い聞かせているのに、下腹部の奥底で疼くような熱は、引くどころか増していく一方だった。
熱を帯びた思考に絡め取られるように、私は震える手を自分の身体へと這わせた。
布一枚隔てただけの柔らかな皮膚に触れた指先が、自分のものとは思えないほど熱く感じられる。
私は恐る恐る、けれど抗えない衝動に駆られて自身の内側に触れた。
「んん……っ。」
知らず知らずのうちに、お父さんの大きくて、武骨で優しい手を自分の手に重ねるように、撫でまわしていた。
先ほどの吐息を思い出し、真似るように、私も自分の唇から漏れる声を必死に押し殺す。
頭の中で私を呼ぶ声、温かい掌、その熱い体温に包まれる自分を幻視しながら、
私はその甘く澱んだ熱の波に溺れていった。
高まる熱に背中を押されるように、私の指先は自分の内側を掻き乱し、頭の中で渦巻く彼の姿を貪り続けた。
いつもの冷静な父親としての顔も、私たちを守ってくれる広大な背中も、
あの暗がりのなかで見た崩れた姿のすべてが、私の中で一つの歪んだ熱量へと溶けていく。
彼の重い息づかい、荒い鼓動、そしてその身体から放たれる熱が、
まるで今まさに私を包み込んでいるかのような錯覚に陥った。
家族としての、綺麗な思い出が取り返しのつかない形で変質していった。
「……っ、お父さん……」
名前を呼ぶと、一層いけないことをしている感覚が強く、背筋を駆け巡った。
視界が白く濁り、思考の輪郭が急速に溶けていく。
波が押し寄せるような強烈な痙攣が下腹部を駆け抜け、私は隣で眠るネノネにバレないように、
隣からの寝息が聞こえる中、私は静かに溺れていった。
声を押し殺しながら、それまで排泄にしか使用したことのなかった、性器をやがて疲れ果てるまで弄り続け、
ベッドにぐったりと倒れ込むように眠りについた。




