校内で魔法を使った転校生
前回のあらすじー一、二、三時間目を終えた陽翔たちは昼一の時間を使ってアルのために、学校案内をしていた。まず、図書室を案内して、次は理科室に案内しようとした。その時、窓の外の校舎裏から声が聞こえてきた。声の方を見たら、そこには三人の男子生徒が一人の生徒を囲んでいた。あれはいじめだと判断した陽翔は先生を呼びに行こうとした。でも、アルが陽翔に待ってろと言われたにも関わらず飛び出してしまい、その男子生徒達を魔法で撃退してしまった。
「今のは何の音だ」
駆けつけた先生が言った。
「あ…あの化け物が…何か…言ったら…急に…」
吹き飛ばされた男子生徒が怯えながら言った。
「君が何かしたのかい?」
先生はアルの方を見ながら言った。
「違います先生。アルは俺と話していただけで、彼らが吹き飛ばされたのは、たまたまとても強い風が吹いただけです。アルは何もしていません」
俺はみんなを騙せるか分からないが、今思いつく限りの言い訳を考えた。
「強い風…?」
先生は周囲を見渡す。
確かに、さっき吹いていた風のせいで、校舎裏には砂や落ち葉が散らばっている。
先生は、男子生徒たちを見る。
「それより、お前たちはここで何をしていた?」
「…」
男子生徒たちは黙り込む。
「何か言え」
「…ただ、話してただけです」
「話していただけで、どうして一人があんな状態になっている?」
先生がいじめられていた生徒を見る。
「…」
その生徒は俯いたまま何も言わない。
「君、何かされたのか?」
「…」
男子生徒たちが、その生徒を睨みつける。それを見た先生は、少し表情を険しくした。
「…なるほどな」
先生は小さくため息をつく。
「ここで話していても仕方がない、お前たち三人と、そこの二人。それから君も、全員職員室に来てもらう」
「え?」
俺は思わず声を漏らす。
「どうして俺たちまで?」
「現場にいたんだろう? 何があったのか聞かせてもらう」
「…分かりました」
俺は頷く。
先生が歩き出し、俺たちもその後ろをついていく。その途中、俺はアルの隣まで移動して、小声で話しかける。
「…アル」
「なに?」
「さっきのことだけど」
「うん」
「絶対に魔法のことは言うなよ」
「言わない…って言いたいけど、ちゃんと事情を説明した方が先生たちも分かってくれるんじゃないの?」
俺は頭を抱えながら言う。
「だから、何回も言うけどこの世界に魔法は存在しないんだ。いい加減この世界の常識に慣れてくれ」
「分かったわよ…」
アルの言いたいことも分かる。ここで打ち明けてしまえば、それはそれで話が進むかもしれない。でも、アルが魔法を使えるのが、「ここだけの話にしてください」「はい分かりました」で済む話か?この中の誰かが広めてしまえば、アルの人生が終わるかもしれない。だから…
「ごめん、少し言い過ぎた。でもアルのためなんだ。それだけは分かってくれ」
「陽翔…私も…」
アルが何かを言おうとした時、前を歩いていた先生が振り返った。
「おい、二人とも。何をこそこそ話している?」
「あ、い、いや、何でもないです!」
俺は慌てて答える。
「そうか?早くついて来いよ」
先生は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに前へ向き直った。
…危なかった。俺は小さく息を吐く。
俺たちは少し歩くと、職員室が見えてきた。
「着いたぞ」
先生が扉を開ける。
「入れ」
「失礼します」
俺たちは先生が用意してくれた椅子に座った。
「まず、何があったか、説明してもらえるか?」
そう言いながら、先生が視線を送っていたのはいじめられていた生徒だった。そして、少し震えながら話し始めた。
「僕が…あの三人に呼び出されて、それで…」
「何をされた?」
「…からかわれたり、物を隠されたりして…今日は、校舎裏に連れてこられて…」
その言葉を聞いた先生の表情が険しくなる。
「そうか…」
先生は三人の男子生徒を見る。
「お前たち、本当か?」
「…はい」
二人の生徒が小さく答えた。でも、もう一人は…
「俺は何もしてないぞ」
そう言い張ったのは、例の胸ぐらを掴んでいた生徒だった。
「あいつが勝手に、俺たちにからかわれてるって勘違いしてるだけだろ?物だって自分で無くしてるだけだ。俺には関係ねぇよ」
俺はこいつのメンタルの強さに少しびびった。
「あのね君。実は先生たちも動いてなかっただけで君たちがこの子のことをいじめているのは知っていたんだよ」
「…え?」
三人は驚いた顔で同じ反応をした。
「しょ、証拠でもあんのかよ!」
「ああ、もちろん。実は君たちのことが怪しいと思った生徒の一人が、後をつけて現行犯の様子を録画してくれていたんだよ。しかも何度もね」
「じゃ、じゃあ、なんで先生たちは何もしなかったんだよ」
「その動画は先生たちも確認している。ただ、動画に映っているだけで、教師が直接現場を見たわけじゃない。だから、今までは正式に処分することができなかったんだよ」
先生の鋭い視線に、男子生徒たちは何も言い返せなかった。
「何か言うことがあるんじゃないのかい?」
「…すみません」
「謝る相手は先生じゃないだろう」
先生がそう言うと、三人はゆっくりと、いじめられていた生徒へ向き直った。
「…ごめん」
「…俺も」
「チッ…」
二人は反省しているようだが、やはり、一人だけ反省していないように見える。それでも、二人が謝ったことに対して、いじめられていた生徒は少し驚いたような顔をした。
「…うん」
さすがに、完全に許したわけではなさそうだったが、少なくとも先ほどまでの緊張した様子は少し和らいでいた。
いじめについての話が一段落つくと、先生は俺たちを見る。
「それで、君たちは何をしていたんだ?」
「俺たちは学校案内をしていました」
「学校案内?」
「はい。アルが今日から転校してきたので、俺が案内していたんです」
「なるほど。それで、あの場所に?」
「はい。図書室を出たところで、声が聞こえてきて…」
俺が説明していると、アルが口を開いた。
「それで、私が…」
俺は慌ててアルの肩を軽く叩く。
「アル」
「…あ」
アルは口を閉じる。
「何かあるのか?」
「い、いえ!何でもないです!」
俺が慌てて答える。
先生は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。
「まあ、君たちがいじめを止めようとしたことは分かった。特に、アルさん」
「はい?」
「危険なことをする前に、まず先生を呼ぶようにしなさい」
「…はい」
アルは素直に頷いた。
「助けたいと思った気持ちは悪くない。ただ、もし大きな怪我でもしたら大変だからな」
「分かりました」
「君も、次からは一人で何とかしようとせず、すぐに先生を呼ぶこと」
「はい」
どうやら俺たちは怒られるだけで済みそうだ。たまたまとても強い風が吹いた、という俺の苦しい言い訳については特に何も聞かれなかった。俺は小さく息を吐く。すると先生が立ち上がった。
「今日はもういい。君たちは教室へ戻りなさい」
「はい。失礼します」
「君たち四人にはまだ話があるから、残りなさい」
俺は頭を下げ、アルと一緒に職員室を出る。廊下に出た瞬間、俺は大きく息を吐いた。
「…疲れた」
「陽翔、大丈夫?」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「…ごめんなさい」
アルがしょんぼりと俯く。
「…まあ、いいよ」
「本当?」
「ああ。ただし、次から勝手に魔法を使うのは禁止な」
「分かった」
アルは笑顔で頷く。
「じゃあ、学校案内の続きをしよ!」
「もう時間がないから、次の休み時間な」
「絶対だからね!」
「はいはい」
…まあ、転校初日にしては色々あったけど、とりあえず丸く収まった…と思いたい。ただ一つだけ。
「アル」
「なに?」
「本当に次から絶対に魔法は使うなよ」
「分かってるってば!」
その返事を聞きながら、俺は少しだけ不安になった。
「…本当に分かってるんだろうな?」
ちなみに、後日聞いた話によると、いじめていた三人には一ヶ月の停学処分が下されたらしい。
次回の話も作っていますので、お楽しみに!良ければ感想よろしくお願いします!




