過去への扉
前回のあらすじー学校案内の途中、陽翔とアルはいじめの現場に遭遇した。いじめられていた生徒を助けようとしたアルは、思わず魔法を使って男子生徒たちを吹き飛ばしてしまう。魔法の存在を知られるわけにはいかない、と思った陽翔は、「強い風が吹いた」と必死に誤魔化した。その後、全員で職員室へ向かい、いじめのことが明らかになる。陽翔とアルは先生から注意を受けるだけで済んだものの、アルには改めて「この世界では魔法を使わないように」と言い聞かせるのだった。それでも、前々から使うなと言っていたのに、今回使ってしまったことによって、陽翔には新たな不安が残る。そして後日、いじめをしていた三人には一ヶ月の停学処分が下された。
学校を終えた俺たちは家に帰っていた。
「転校一日目にしてはいろいろありすぎたが、学校はどうだった?」
「授業についてはちゃんと勉強すれば何とかなりそうだけど、今日みたいなことがこれからも続くならさすがに疲れるわね」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「…ごめんなさい」
反省はしているようだが、もう同じことをしないとは限らない。だから俺がちゃんと見ておかないと…
そんな話をしていると俺たちは家に着いた。
「ねえ陽翔」
「ん?どうした?」
「ずっと思っていたんだけど、今日いじめられてた子、私どこかで…」
アルが何か言いかけた時、陽翔がポケットから鍵を取り出し扉を開けると…
「おかえり。陽翔、アルさん。」
そこには俺の母さんがいた。
「え、母さん?なんで家にいるんだ?」
「実は、今日やらないといけない仕事が終わって、一日家にいられるようになったのよ」
「そうだったのか」
母さんが家にいるのは久しぶりだった。普段は仕事で家を空けていることが多いから、こうして帰ってきた時に母さんがいるというのは、なんだか少し変な感じがする。
「アルさんもお疲れ様。転校初日、どうだった?」
「えっと…楽しかったです!」
アルは笑顔で答える。
「…まあ、いろいろあったけどな」
「そうなの?」
母さんが俺を見る。
「何かあったの?」
「…まあ、ちょっとしたトラブルがあっただけだよ」
「ちょっとしたトラブル?」
「いじめがあったんです」
アルが何のためらいもなく答えた。
「おい、アル」
「だって本当のことでしょ?」
「まあ…そうだけど」
俺が頭を抱えていると、母さんは少し驚いたような顔をした。
「学校でいじめが?」
「はい。でも、先生がちゃんと対応してくれました」
「そう。それならよかったわ」
母さんは安心したように微笑む。
「アルさんはまだ学校のことがほとんど分からないのに、よく頑張ったわね」
「ありがとうございます!」
そんな話をしながら、俺たちはリビングへ向かった。
「今日は何をしたの?」
「俺がアルに学校案内をしたんだよ」
「陽翔が?」
「うん」
「ちゃんとできたの?」
「一応な。図書室とか体育館とか、校内の主な教室の場所は全部案内した」
「え、あれで全部だったの?少なくない?」
俺たちは母さんに聞かれないように、小さな声で話す。
「アルの元いた世界の学校がどのくらいの大きさなのかは分からないが、こっちの世界じゃあれくらいが普通だ」
「へえ、そうなんだ」
二人が話しているところを、少し笑いながら見ている母さんが言った。
「じゃあ、そろそろご飯にしましょうか」
そう言って母さんは、キッチンへ向かう。
しばらくすると、食卓には三人分の料理が並んだ。
「今日はカレーよ」
「カレー!」
俺が目を輝かせる。その横でアルは、不思議そうな目でカレーを見ていた。
「カレー?」
「そうだけど…もしかして食べたことないのか?」
「ないわよ。私のいた世界には、こんな料理なかったもの」
「じゃあ、食べてみろよ」
アルはスプーンを手に取り、カレーを一口食べる。
「…」
「どうだ?」
アルは少しの間、黙り込んだ。そして…
「…辛い」
「そりゃカレーだからな」
「これ、食べ物なの?」
「食べ物だよ」
「陽翔、よくこんなの食べられるわね…」
「いや、普通に食べられるだろ」
「私には無理…」
アルは水を一口飲む。
「そんなに辛いか?」
「辛いわよ!」
「まあ、そのうち慣れるって」
「本当?」
「ああ」
そんな俺たちのやり取りを見て、母さんは小さく笑っていた。
「ふふっ。なんだか、二人とも本当の兄妹みたいね」
「兄妹って…」
「まあ私たちはもう兄妹みたいなものね!」
「アルまで乗るなよ」
三人で笑いながら、夕食を食べ進める。こうしていると、なんだか普通の家族みたいだった。…けど、俺と母さんの間には、昔から消えないものがある。俺はそれを考えないようにしていた。
夕食が終わり、食器を片付けていると、母さんが俺に声をかけた。
「陽翔」
「ん?」
「…まだ、昔のことを怒ってるの?」
「…」
手が止まった。その言葉を聞いた瞬間、さっきまでの楽しかった空気が、一気に消えたような気がした。
「…何のこと?」
「とぼけなくてもいいでしょう?」
母さんは静かに言う。
「あなたが私と距離を置いている理由よ」
俺は視線を逸らした。
「もう昔のことだろ」
「そうね。でも、陽翔にとってはまだ昔のことじゃないんでしょう?」
「…」
何も言えなかった。母さんもそれ以上何も言わなかった。
「今日はもう遅いから、続きはまた今度にしましょう」
「…」
「それに、母さんはもう…」
母さんが何か言い終える前に、俺は自分の部屋へ向かった。
部屋に着いた俺は、ベッドに座り、天井を見上げる。
「…昔のこと、か」
忘れたつもりだった。けれど、母さんにああ言われると、嫌でも思い出してしまう。
「ねえ、陽翔ちょっといい?」
そう言いながらアルは俺の部屋に入ってきた。
「アルか、どうした?」
「実は、さっきのお母さんとの会話を聞いちゃって…昔何があったの?」
「だから、言うつもりはないって前も言っただろ」
「でも、陽翔もお母さんも辛そうだったよ?話してちょっとでも楽になったり、親子で仲直りできるかもしれないんだよ?」
「…」
話したら楽になる…か
「…分かった。話すよ。昔、俺と母さんと…父さんの三人で暮らしていた時のことを」
次回の話も作っていますので、お楽しみに!良ければ感想よろしくお願いします!




