異世界から来た少女の為に、ある人を頼る
前回のあらすじ-いつも通り学校から家に帰り、自分の部屋に入ると…突如魔法陣が展開された。それを何度も目を擦り確認していると、耳の長い少女が現れた。その子はなぜ自分が別の世界に来たのか分からなかった。そして、この世界のことを知れば元の世界に戻れると考えた少女…アルは陽翔の提案で高校に通うことを決めた。
「…高校?」
「そう。俺が通ってる学校。そこでならこの世界についていろいろ知れると思う」
「なるほど…確かにそれは良さそうね」
アルは少し考えたあと、納得したように頷いた。
「でも、私が学校に通って大丈夫なの?」
「まあ…問題はある」
「例えば?」
「まず、その耳」
「耳?」
アルは自分の耳を触りながら、不思議そうな顔で俺の目を見た。
「それ、どう見てもこの世界の住民にはありえないんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「じゃあこの世界のエルフは一体どんな格好をしてるのよ」
やはりそう来るかと思いながら、俺は答えた。
「この世界にエルフは存在しないんだよ」
さすがに驚いた表情を隠せないままアルは言う。
「エルフが…いない?じゃあ、この世界には人間以外にどんな種族がいるのよ?」
「人間以外の知的な種族は存在しないよ。いるのは虫や動物くらいだ。」
「ドワーフや獣人も?」
「ああそうだ。だからその耳をどうにかして隠さないと学校に通う…いや、この世界で生きていくのすら難しいと思うぞ」
どうしたものかと陽翔が考えていると…
「じゃあこれならいいの?」
と言いながらアルは自分の手を耳に当て何か独り言を言い始める
「長き耳よ、今はその形を失い、人の姿へと還れ。《アウリス・ミュターレ》」
そう言い放つと、だんだんと耳は短くなっていき、最後には人間と変わらないほど短くなっていた。そのことに驚きながらも、もしかしたら、と希望の眼差しで陽翔は聞く。
「もしかして今のって…魔法か!?」
思わず声を張り上げた。
「ええ、そうだけど。何よそんな大声出して普通でしょ?」
「…あのなぁアル。この世界の人間は誰一人として魔法を使えないんだよ」
「何言ってるのよ、あなたも…」
そう言いながら、アルは陽翔を見つめた。
「…本当だ。あなたからは魔力をまったく感じない」
「だろ?だから、この世界では俺以外の人の前では魔法を使うなよ」
「どうして?」
「魔法が存在しない世界なんだ。そんなものを見せたら大騒ぎになるだろ」
「…なるほど。分かったわ」
とは言っても魔法ってすごいな。この世界とはかけ離れたものだったから、実際に拝めるとは思ってもいなかったな。
ここで俺は、あることを思い出す。
「あっそういえばもしかして急に日本語を喋れるようになったのも魔法か?」
「日本語?っていうのは分からないけど、あなたの言語を理解して話せるようになったのは魔法のおかげよ」
やはりあれは魔法だったのか。それはそれとして、他に気になる点がある。
「でも、最初は詠唱してなかったけど、耳が短くなる魔法を使った時は詠唱してたよな?それはなんでだ?」
「それは魔法によるのよ。魔法を一流の域まで使いこなせる人なら全ての魔法を無詠唱で使うことができるの。でもその域まで辿り着くには果てしない努力が必要だけどね。」
「いろいろ大変なんだな。アルはどのくらい無詠唱で使えるんだ?」
「魔法には初級、中級、上級、神級の4段階が存在するの。今の私は中級までしか無詠唱で使えないわ。ちなみに、さっきの姿を変える魔法は上級魔法よ。」
魔法にも色々な種類があって、無詠唱で使えるかどうかにも実力が関係しているのか。正直、まだ分からないことだらけだ。まあ、それはこれから少しずつ知っていけばいいか。
そんなことを考えているとアルは言った。
「それはそれとして、どうやったらその高校に通えるようになるの?」
「…あ」
「どうしたの?」
「いや…アルって身分証とか持ってる?」
「身分証?そんなもの持ってないわよ。それがどうかしたの?」
「それがないと入学できないかもしれない…」
「え…じゃあどうするのよ」
よく考えてみれば当然だ。アルは数分前まで異世界にいたんだ。だから自分の身分を明かすものなどあるはずもない。それでも方法がないわけではない。
「あまり頼りたくないが…方法は、一応ある」
「その方法って?」
「母さんに相談する」
「マザコン?」
「違うわ」
そう。俺の母さんは蒼凪高校の理事長の妹だ。だから母さんから理事長に事情を説明してもらえれば、何かしら方法を考えてくれるかもしれない。だが…
「だったら相談してみたらいいじゃない」
「ごめん。いろいろあって、あまり母さんを頼りたくないんだよ」
俺と母さんは、昔からあまり仲の良い親子ではなかった。
「何かあったの?」
「悪いが、自分の昔話をするつもりはない」
さっきまでとは雰囲気の違う陽翔の言葉に少し驚いたが、その気持ちを顔に出さずに言った。
「分かったわ、でもそれじゃあどうやったら私は高校に通えるようになるの?」
「うーん…」
どれだけ考えても思いつかない。本当は嫌だけどアルが元の世界に戻る方法を見つける可能性を高めるためにも…
「やっぱり…母さんに相談してみるよ」
結局、どれだけ考えても、これが最善手だった。
「私はそうしてくれるのが嬉しいけど…いいの?」
「大丈夫。もうあれから何年も経ってるんだ。きっと大丈夫」
アルは何か聞きたそうな顔をしていた。それでも、何も聞かずに俺を見守っていた。…アルは思っていたより、優しい奴なのかもしれない。
「とにかく、一回母さんに連絡してみるよ」
陽翔はスマホを手に取る。
「何それ?」
「これか?これはスマホって言ってな、いろんなことを調べたり、見たり、ゲームしたり、電話したりすることができるんだ」
「何よその便利すぎる魔道具は」
「魔道具じゃない。人間が作った機械だ」
「へぇ…それでお母さんに連絡できるの?」
「あぁ。そうだ」
電話越しとはいえ、会話するのはいつぶりだろうか。少し緊張しながらも母に電話をかける。数回の呼び出し音の後、母が出た。
「もしもし、母さん。今時間ある?」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」
「陽翔が頼み事なんて珍しいわね。一体どんな要件なの?」
一瞬だけアルを見る。すると、アルは「頑張れ!」とでも言うような目でこちらをじっと見ていた。
「実は…蒼凪高校に入学させてほしい人がいるんだけど…」
「…」
少し沈黙した後、母さんが話し出した。
「それはまた唐突ね」
「ごめん急に無茶なことを言ってるのは分かってる。でも真面目に答えてほしい」
「それは私からお姉ちゃんに話を通してほしい、そういう認識で間違いない?」
「ああ。間違いない」
思ったよりも話がはやく進んで助かった。
「その子は一体どんな子なの?」
やはりその話が来るか。
異世界から来た少女。戸籍もない。身元を証明するものもない。魔法が使える。
そんな話を、誤魔化して伝えるには…
「この子は…」
俺はとっさに思いついた設定を話した。
遠い国から来た。
日本で暮らすことになったこと。
しかし、身元を証明できるものが何もないこと。
そして、このままでは学校にも通えないこと。
嘘は言っていないから、多分大丈夫だろう。
「そう」
母さんの声色が少し変わった。
「じゃあお姉ちゃんに話を通す前に私に会わせてもらってもいい?」
「え?」
「電話じゃ分からないでしょう。明日、17時くらいに家に帰るからその子も呼んどいて」
「…分かった。それと母さん」
「何?」
「実はその子うちに住んでるんだよね…」
「…え?」
さすがの母さんもここでは驚きが隠せなかったのか、先ほどまでとは違う雰囲気の声が返ってきた。
「まあ、私は家に帰ることも少ないし…あなたの好きなようにすればいいわ」
思ったよりもあっさり承諾してくれたことに、陽翔は胸をなで下ろした。
「あ、あと陽翔」
「何?」
「あなたがそんなお願いをしてくるなんて、よっぽどのことなんでしょう?」
「…まあな」
「なら、ちゃんと話を聞くわ」
「ありがとう。じゃあまた明日」
電話が切れる。
俺はしばらくスマホを見つめたまま動けなかった。
「…明日、母さんが家に帰ってきて、俺たちと話をすることになった」
「そう」
アルは嬉しそうに笑う。
「これで学校に行ける可能性が出てきたわね」
「まだ決まったわけじゃないけどな」
「でも、一歩前進でしょう?」
「…まあな」
こうして俺たちは、アルがこの世界で生活しながら、元の世界に帰る方法を探すための最初の一歩を踏み出した。
次回の話も作っていますので、お楽しみに!良ければ感想よろしくお願いします!




