表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
移動魔法のススメ  作者: Ono


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

第三章 時間操作

 時間操作による移動は荒々しい。王都が推進する「魔道」の定義風に言うならば、消耗(コスト)の少なさのわりに発動効果(パフォーマンス)があまりにも高いからである。時間そのものを短縮するという大いなる術のわりには、時間操作は案外単純に扱うことができてしまう。だからこそ使いこなせば敵に対する強力な武器にもなるし、その切っ先が己や味方に向かい得るのだ。

 ここからは時間操作の諸刃の鋭さをじっくりと見ていくとしよう。


 ◆ 大規模戦闘における攻撃手段として

 分類でも述べたように、時間操作による移動が遠距離になればなるほど、その経過時間を短縮したことにより発生する衝撃波は凄まじいものになる。国家間の戦争など大規模な戦の場においては、移動魔法そのものが敵陣を消滅させる破壊魔法と言えよう。術を発動した瞬間に対象が通過した経路上で壊滅的な物理破壊が巻き起こるからだ。爆発しながら進む火矢のようなものである。

 術者自身は防護壁で守られているが、この物理破壊は敵味方を問わず巻き込む。味方が経路上にいれば敵を屠るより先に己の陣営を粉砕しかねない。発動前の経路確保が何よりも重要になる所以である。味方に破壊の届かない場所から駆け始めること、事前に詳細な地理をしっかりと確認しておくこと。そして当然のことながら、乱戦の只中に突っ込むような使い方は言い訳のしようもない愚行である。高速移動による敵陣への到達が真価を発揮するのは、初手による不意打ち、開戦前の初撃に限られる。

 また時間操作で移動している最中に不意の飛来物や野生の鳥などに衝突すると、それが小さな物であっても想像以上の衝撃となり、急に進行方向を反転させることも極めて危険だということを念頭に置かねばなるまい。光の速さで動いている物体に急な停止や方向転換を強いれば、凄まじいエネルギーが発散され、対象そのものも背後にいるであろう味方も無事で済む保証はない。とはいえ、この反発を攻撃に利用することもある。すなわち敵陣を突っ切ったあとにわざと急停止をして鋭利な衝撃波を放ち、敵軍が立ちなおれないほどのダメージを与える戦法だ。

 尤もこれら欠点は後述する肉体操作――変身魔法を通じて危険性を軽減できる戦術も見出されている。単純にして危険な、そして柔軟にして複雑魔法が時間操作なのだ。


 ◆ 小規模戦闘における応用

 一方、一呼吸分程度のごく短い距離の時間圧縮であれば一対一や少人数相手の戦闘にも充分に応用可能な、扱いやすい戦術となる。

 たとえば回避のための一歩を時間操作で踏み出した場合、周囲に大規模破壊をもたらすほどの衝撃波には至らない。短縮される移動時間が短いためだ。しかし敵の視点に立ってみれば、この効果は意外なほど大きい。確実に当たるはずだった至近距離での一撃を振り下ろした瞬間、あるいは射出した矢や魔法が当たる瞬間に対象の姿がその場から忽然と消えたように見える。この一瞬の消失が敵を大きく動揺させ、攪乱する。あるいは逃亡や反撃に転じる絶好の隙を生み出すのだ。物体操作ほどの確実性はないものの、だからこそ柔軟に活用できると言えよう。

 さらに、射撃や剣撃そのものを時間操作で行うという方法がある。これによって単純な攻撃の速度を増し、威力を格段に引き上げることが可能だ。矢や剣先に乗せた一撃の「移動」を圧縮すれば、それだけ衝突の破壊力が増すのである。破壊魔法と組み合わせれば、対象に到達するまでの時間そのものを短縮し、敵に回避や防御の隙を与えずに直撃させることもできるだろう。

 また少々繊細な技術を要する戦術だが、時間操作を敵にかけるという方法がある。充分な防御魔法で身を守ってから敵の意図に反して時間を速めれば動きを阻害することができるし、もちろん目の前の敵を「遅くする」ことも安全かつ戦略的な活用が可能だ。戦闘を避けて逃亡しようと思う際、下準備をせずに自身の移動時間を短縮すれば予想外の危険を及ぼすが、追ってくる敵を遅くする分には懸念がない。

 そして戦闘利用からは離れるが、ごく単純にして何人にも役立つ時間操作の応用は、誤って落下させた物に対して咄嗟に速度を遅延させることで破損を防ぐ術である。


 ◆ 時間操作への対処

 この見た目に反して粗削りで強力な術の弱点とは何だろうか?

 時間操作の最大の敵は、とにもかくにも進行方向にある障害物だ。時間を大きく短縮すればするほど、術者からは周囲の動きが遅く見える。これによって何かが自分に向かってきていても気づかないことが多々ある。圧縮された速度の中では咄嗟の回避が利かず、衝突は術者自身にも深刻な被害をもたらすうえに、時間操作中の急な方向転換が凄まじい衝撃波を振りまくこととなる。

 したがって長距離を移動するために時間操作を行使するためには事前の経路の調査が必須となるわけだが、しかしそれはあくまでも事前にできる最低限の調査に過ぎない。ひとたび移動に入ってから同時に索敵や調査の魔法を重ねることはほとんど不可能だ。つまり術者は移動中、目視で確認しきれない障害物に対して非常に脆弱になる。これを逆手に取って敵の移動魔法に対処できる。すなわち、罠の設置だ。

 時間操作のための下見をしている術者には心理として明らかな障害物を避けようとする傾向がある。そこであえて目立つ箇所に障害物を配置しておくことで術者の目を逸らし、移動経路を制限することができる。その避けた先に罠を隠しておき、そこへ誘い込むのである。

 時間操作は空間操作による転移とは違い、実際にその場所を通過している事実は変えられない。罠にかかった移動は強制的に移動を停止する。そして音や光にも近い速度で動いていた身体がその反動を一身に受け、甚大な被害を負うことになる。

 先に述べた遅延を狙う戦法に対しても、追跡対象に同じく遅延をかけるというごく単純な鏡写しの反撃が最も有効だ。時間操作への対処とは、圧倒的な力でねじ伏せようとするよりも、その移動する道を先読みし、常に先手を取り、罠をはりめぐらせることなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ