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移動魔法のススメ  作者: Ono


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第一章 移動魔法分類

 移動魔法とは何か。大雑把に言うならば「現在位置から目的地に瞬時に移動する術」だ。周囲の者から見れば移動魔法の術者、あるいは対象は瞬きをする間に恐るべき距離を移動している。しかしその時に発動している魔法の内実は詳しく見れば様々だ。

 同じような「瞬間移動」という結果であっても、その内実はまったく異なる四つの道筋がある。さらに世界には、我々の未だ知らぬ移動魔法も存在する。諸君がこれから日常と戦場で命を預けることになる技術を、まずは紹介しよう。


 ◆ 時間操作による移動

 魔法を使った移動の中でも非常に荒々しく、扱いによっては危険度が高い部類に入る。これは厳密には諸君が想像する「瞬間移動」ではない。時間そのものに干渉し、術者が実際に移動するのに要した時間を極限まで圧縮する術だ。つまり術者の身には確かに「移動する時間」が流れているのだが、それを音速あるいは光速に近い領域にまで縮めてしまう。

 戦闘の場において目と鼻の先を矢が掠めたことがあるだろう。あるいはモンスターの爪をすんでのところで避けた経験があるだろう。その時、動きが速ければ速いほど空気の圧を強く感じたはずだ。術者が魔法で五百歩の距離を動き、その経過時間が光の速さに縮められたらどうなるか? 単純な話である。鼻先を掠める「風圧」は身体を打ち砕く衝撃波となり、周囲に物理的な破壊をもたらす。

 敵が剣を抜ききる前にその懐へ潜り込める術ではあるが、代償として通り道にあるものをすべて巻き添えにすることになる。


 ◆ 空間操作による移動

 いわゆる転移、諸君が想像するところの瞬間移動の魔法は空間操作によって発現される。よく「転移術は身体を一度ばらばらにして目的地に再現している」との誤解があるが、実際は異なる。術者あるいは対象はまず、一時的に異次元へと存在を移す。そしてその異次元自体を移動先となる座標に重ね合わせ、再びもといた次元へ現れる。これにより距離的にはほとんど移動をせずに、目的地へ転移することができる。

 客観的には「何かがその場から消え、突如として遠くに再び現れる」ように見え、またその認識はあながち間違ってはいない。瞬間的とはいえ異次元にいる間、術者や対象は世界のどこにも存在しないからだ。

 扱うには準備と熟練を要する。空間操作による移動が時間操作のような衝撃波を伴うことはないが、慣れないうちはひどく奇妙な感覚を得ることだろう。まったく平気な者もいれば、異次元の出入りによって気分が悪くなったり、嘔吐感に悩まされる者もいる。これは体質によるという。症状が長く続くなら速やかに治癒魔法使いに相談のうえ、空間操作による転移は以後控えるべきだ。

 なお、酩酊中の空間操作での移動は何人にも推奨しない。


 ◆ 物体操作による移動

 諸君もよく知る魔法だ。あらゆる移動魔法の中でも最も単純で安全な術だと請け合おう。この魔法の働きは破壊魔法や治癒魔法に似ている。対象を持ち上げて、運び、移動させる。それだけだ。魔法を用いぬ時に自身の筋力で行うことを、魔法を用いて自身の魔力で行う。それだけである。浮遊術や飛行術もここに分類されている。

 誰でも容易に扱えるがゆえに広く知られ、日常でも戦闘の場でも多用されている。諸君もおそらくは「移動魔法を会得している」という意識もないまま使っていることだろう。

 難点がひとつある。広く知られていることはつまり対処されやすいことの裏返しでもある。この点については後の章で詳しく述べよう。


 ◆ 肉体操作による移動

 変身魔法とも呼ばれる、己の姿かたちを変える魔法がある。これを「移動魔法」と捉えていない者も多いだろう。この分類がなされたのは近年のことだが、変身魔法の始まりは「移動」のためであった。原理というよりは歴史を鑑みての分類というわけだ。

 獣、鳥、魚――環境に応じて最適な姿に身体を変ずれば二本足よりも移動速度は上がり、身体にかかる負荷が減り、果ては人間の足で決して通れない場所さえも踏破できるようになる。広大な草原を一呼吸で駆け抜けるため、手の届かぬ断崖を飛び越えるため、海の果てへ泳ぎ切るために変身魔法は生まれた。そうして使い手となった者たちが術を戦闘に応用するようになったわけだ。

 上級魔法使いともなれば、より強力なモンスター、ドラゴン、精霊族、果ては生物に限らず雷や風、影といった実体を持たぬものへの変身も可能になる。移動のみならず偵察や隠密行動において、これ以上に頼れる魔法はない。


 ◆ 死霊術・召喚術

 最後に、毛色の違う術を紹介しよう。ただしこれらは未だ解明していることのほうが少ない謎めいた魔法だ。

 死霊術は自分の霊体を身体から離脱させて目的地へ向かわせ、その霊体のある場所に肉体を転移させる。あるいは霊体が去って空となった他者の死体を器に、その中へ自分の霊体を転移させる。結果として「自身の移動」が叶う術だという。

 召喚術はその呼び名の通り、異なる次元に住む存在と契約を交わし、自身のそばに転移させる術だ。長らく精霊族などが行使する独自の空間操作による転移だと考えられてきたが、貿易の発展と国交の歴史から彼らが召喚している対象が「この世界のどこにも存在しないもの」であることが判明した。

 これらは精神魔法や肉体操作、空間操作など様々な魔法の併用によるものと考えられる。しかしながら人間の会得者が確認されていないため、ほとんどのことは分かっていない。


 次章からは、これらをいかにして戦闘に活かすか、基礎から応用、そして対処法まで順を追って解説していく。

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