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移動魔法のススメ  作者: Ono


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序章 はじめに

 近年、王都では「魔道」の定義付けが活発化している。現在行使されている魔法に名をつけて分類し、消耗(コスト)発動効果(パフォーマンス)を一定に保つための呪文(スペル)を開発し、魔法を司る学び舎を用いて広く周知するというものだ。諸君もよく知る炎や嵐を操る類いの術を「破壊魔法」、衝撃から身を守り宝を保護する類いの術を「防御魔法」、生物の心に作用し士気を上下させる類いの術を「精神魔法」といったように、この魔法はこれと同系統、こちらは原理が違う、と分け始めたのだ。

 上級魔法使いの諸君は「ようやくか」と呆れているに違いない。また日用魔法だけが身近にある諸君は「面倒だ」と感じているだろう。私の個人的意見は胸に仕舞っておこう。しなしながら想像してみてほしい。平原に突如として巨大な火柱を出現させるために、どれほどの想像力を必要とするか。規模は、威力は、温度は、そして燃焼時間は。それらが予め決まっているものならば、魔法を使うことは誰にとってもより容易になる。

 王国は学業を修めた者に対して正規の「魔道士」の称号を送ることを予定している。これによって魔法は「無秩序な想像を具現化する能力」から「適切な見本をもとに忠実な模写をする能力」へと変わっていくことだろう。魔力を数式化し、属性を分類し、机上で安全に学んでから実践へと移る。間違いなく言えるのは、この動きは必要なことであり、いずれ起こることだった。

 一方で、学問にはてんで向かぬ魔法がある。その最たるものが本書で扱う「移動魔法」だ。


 さて、諸君は移動魔法と聞いて何を思い浮かべるのか。「浮遊術ならもう使える」、「自分は未熟だから瞬間移動には縁がない」。そのように考える者こそ本書を読むべきである。

 王国軍に仕える魔法使いたち、傭兵として戦場を渡り歩く者たち、でなくとも街の外で野盗やモンスターと日々戦う我々は、座して魔法を学んでいる暇など与えられず、生活の中で会得していくほかない。それらの学びを後世に残すのは学者の役割であって、我々には生き延びるための素早さが必要だ。

 地上には獣や亜人族や獣人族、水辺には水棲モンスターに食人植物、空には有翼獣とドラゴンが溢れている。人間は弱い。そのくせ敵対生物には事欠かない。魔法を不得手とする者は剣をとり、剣を持てぬ者は魔法を使う、そのどちらも知らぬ者は早々に墓碑銘が与えられることとなる。

 いずれ魔法使いは呼び名を変え、魔道士というひとつの専門職となるかもしれない。しかし今この時代において、魔法は剣の構えと踏み込みを身体で覚え、日夜筋力を鍛えるのと同じように、誰もが持ち、伸ばしてゆく生きるための技能のひとつである。

 移動魔法は、すべての基礎だ。


 ここから先を読み進める前にひとつ、諸君の頭に叩き込んでおかねばならぬことがある。これは私を始め、弟子をとるすべての魔法使いが最初に言うことであり、いずれ興る魔導院においても最初に言われるべきことだ。

 ――魔法を使う時は、必ず精神統一をし、心身に防護壁を張れ。

 破壊魔法などという括りがあるが、魔法とはそもそも破壊する法だ。治癒術ですら古き傷を壊して新しい皮膚を作る魔法だし、魔力を消費して魔法を発現するとは、その時点で自身の精神の一部を壊している。

 自分の放った炎で指先を消し炭にする者がいる。ただの想像にうっかり魔力を乗せて発現させる者がいる。想定以上の魔力を注いで気を失う者がいる。そして遠距離を移動するために魔法を使い、目的地に届いたのは己の肉体の半分だけだった者がいる。

 こうした不測の事態を防ぐために、防護壁がある。

 己が今から魔法を使うのだと常に念頭に置け。精神を統一せよ。自分の内側と外側に境界線を引くこと。これは移動魔法に限った話ではない。魔法を扱ううえでの、最初にして最後の大前提である。


 これから、世間で用いられる魔法の中でも移動魔法に分類されたものの中から詳細を語っていく。戦場で実際に役立った、あるいは命を救った記録だ。防護壁さえ張っていれば、この先の記録はきっと君の命を一度や二度は救うだろう。

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