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身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜  作者: 滝里シエル


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27/33

27 はい、約束です

 今日もマリアンヌ様からお手紙が届いた。


 早速読み進めていると、ある一文に目が止まる。

 そこには、“久々に観劇に行きませんか?”と書かれていた。


「ん? 観劇?」

『観劇!? 素敵ですわ! 是非行きましょう!』


 隣で一緒に読んでいたベアちゃんが、興奮気味にくるくると回り始める。


 折角誘ってくださったのだから行きたいけど、私が勝手に決めちゃいけないだろう。


「それって、アルフレッド様の許可が必要……だよね?」

 私が尋ねると、ベアちゃんの動きがピタリと止まった。


『……まぁ、そうなりますわね……』

 ベアちゃんは心底嫌そうに顔を歪める。


「……でも、大丈夫かなぁ? マリアンヌ様にも、私がベアちゃんじゃないってバレちゃうんじゃ……」


 私は不安になる。

 アルフレッド様には、私がベアトリスではないことがバレてしまった。

 マリアンヌ様はベアちゃんの友人だし、長時間一緒にいれば気付かれてしまうはずだ。

 

 ベアちゃんは顎に手を当て、考え込んでいる。


『そうですわね……。たしかにマリアンヌ様なら、気付いてしまうでしょう。彼女もあなたを替え玉だと思うかもしれませんわ』

「え? そうなの?」


『えぇ。実は私は昔、結婚なんてしたくないと、マリアンヌ様に散々愚痴っていましたのよ。ですから、私ならやりかねないと思うでしょうね、ふふっ』


 ベアちゃんは可笑しそうに笑う。その瞳はとても優しかった。

 ベアちゃんが本当に、マリアンヌ様を大切に思っているのが伝わってくる。


『マリアンヌ様ならバレても大丈夫ですわ。ですから、お願い、スミレ……。観劇に行きましょう!』


 ベアちゃんは祈るように両手を組んで、私を真剣な眼差しで見つめてくる。

(す……、すごい圧力が……。断われないよ〜)


「えっと……、分かった……。アルフレッド様に頼んでみるね……」


『ありがとう、スミレ! じゃあ、眼鏡の所へ行きますわよ!』


 そう言ってベアちゃんは、一人でさっさと壁をすり抜けて行ってしまう。


「ちょっと、ベアちゃん!? ……はぁ、まったく。しかも、眼鏡って呼び方……」


 呆れつつも、ベアちゃんの暴走ぶりがちょっと楽しく思える。

 私もベアちゃんの後を追い掛けた。




「……何? 観劇に行きたいと?」

 執務室にいるアルフレッド様に、観劇について話すと渋い顔をされた。


「はい……、ひ、久しぶりに友人と観劇もしてみたいと思いまして……」

 アルフレッド様はまだ渋い表情のまま、顎に手を当て考え込んでいる。


「……君は、観劇に行きたいのか……?」

 やっと聞こえるくらいの小声で尋ねられ、私は頷いた。


「はい……、そうですね。行きたいです……」


 ベアちゃんのお願いだというのもあるけど、私としても観劇に興味がある。生で観るオペラって、どんな感じなんだろう。


「……だったら、俺が連れていくが」


「へ?」


『じょ、冗談じゃないですわよ! なんで眼鏡と行かなければならないんですのよ! 断りなさい、スミレ!』

 

 耳元でベアちゃんが叫んだので、耳がキーンと響く。


「えっと……、お忙しいアルフレッド様に連れていってもらうなんて、申し訳ありませんので。わ、私はマリアンヌ様と行きますから……その、大丈夫です」

 私がしどろもどろになりつつ断ると、


「そ、それは……俺とは、行きたくないと……?」


 アルフレッド様は、見るからに落ち込んだような空気を纏っている。


「え、違いますよ! そんなことないです!」

 私は慌てて手を振って否定する。


「では、今度は俺と行くと約束してくれ。……いいな?」


「……は、はい」


 私が首を上下に振ると、眼鏡を押し上げたアルフレッド様の口角が僅かに上がる。


「ならば仕方ないな。今回は、ブラン伯爵令嬢にその役は譲ろう」


「……ありがとうございます……」


 お礼を言うと、眼鏡の向こうの瞳が細められる。

 いつの間か、アルフレッド様と観劇に行くことも決定してしまった。


(アルフレッド様と観劇かぁ。なんか、デートみたいだな……って、何を考えるの私はっ)


「……くれぐれも周りには気を付けろ」


(私が本物のベアトリスではないことを、知られるなってことだろうか……)

 

「はい……、気を付けます……」

 私は気を引き締める。


「知らない男に声を掛けられても、付いていくな。……いや、知っていても駄目だ。……分かったな?」

「……へ?」


『あらあら、過保護ですわねぇ……』

 ベアちゃんの呆れたような溜息が聞こえる。


 私はアルフレッド様から鋭い視線を送られ、頷くことしかできない。


 

 

 それから数日後、私はマリアンヌ様と観劇に出掛けることになった。


 それが、私の最後になるとは、この時の私は知らなかった――。


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