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身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜  作者: 滝里シエル


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28/33

28 王都はとても綺麗でした(1)

 馬車に揺られ、王都歌劇場へ到着した。


 本日はマチネの公演で、窓を覗くと劇場前の広場には多くの馬車が停まっていて、貴族とおぼしき人々が行き交っている。


 今日出掛けるにあたり、エミリーと、もう一人のメイドさんが付き添い、護衛の騎士さんも二人付いてきてくれた。

 オペラ鑑賞に出掛けるだけでもこの人数だなんて、公爵夫人っていうのは大変なんだなと、つくづく感じる。


 馬車を降りると、絢爛豪華な建物に圧倒されてしまう。

(これが歌劇場!? これってお城じゃないの!?)


『スミレ! 早く早く、行きますわよー!』


 さっきから落ち着かないベアちゃんは、さっさと歌劇場の入り口の方へ飛んでいってしまった。


 マリアンヌ様とはロビーで待ち合わせしている。私はベアちゃんの後を追った。


 劇場内に入ると、正面に精巧な装飾が施された手すりの大きな階段が広がっていて、天井にはまばゆい豪華なシャンデリアが輝いている。 


 人混みの中でマリアンヌ様を探す。


『スミレー! こちらですわよー!』


 ベアちゃんに呼ばれて声の方を見ると、階段の近くでマリアンヌ様が立っている。

 淡いイエローのドレスがとてもお似合いだ。

 その場だけ、清廉な空気が漂っているように見えた。


「お……おまたせしましたわね、マリアンヌ様、おほほ」

 

 私が声を掛けると、マリアンヌ様は微笑みを浮かべる。


「ベアトリス様、本日はお付き合いくださいまして、ありがとうございます。とても楽しみにしておりましたわ」


「こちらこそ、お誘いくださって光栄ですわ。おほほ」 


 昨夜、ベアちゃんに熱血指導を受けた挨拶をどうにか披露する。


 上手くできてるか不安になってベアちゃんの方を見るが、彼女はマリアンヌ様に夢中でこちらなんて見ていなかった。

 両手の指を絡め、マリアンヌ様を拝んでいる。


『あぁ、マリアンヌ様ぁ。今日の装いも最高にお似合いですわ! 私の天使……』


(ちょっと……ベアちゃん……。サポートしてくれるって言ったのにっ。こりゃダメだわ……)


 私がマリアンヌ様と話すのが緊張するし、不安だと話したら、ベアちゃんはサポートしてくれると約束してくれたのだけど、自力で頑張るしかない。


「……じゃ、じゃあ参りましょう、おほほ」

 私はスカートを翻して、歩き出す。


「あ、ベアトリス様、違いますわっ」

 マリアンヌ様に呼び止められる。


(え!? バレた!?)


「は、はい?」

 緊張で身体が強張る。


「お席は反対ですわ」


「席……? あら、間違えましたわ、おほほほっ」


 私が笑って誤魔化すと、ベアちゃんの呆れたような視線がこちらを突き刺していた。



 エミリーに案内され、二階の中央寄りのボックス席に到着した。ここからだと、舞台や劇場内がよく見渡せる。


「わぁ、こんな良い席を取ってくださったんですか? マリアンヌ様、ありがとうございます!」


 私がお礼を言うと、マリアンヌ様は慌てたように白魚のような手を振った。


「いいえ、とんでもございません! 私ではないのです。あの実は……招待状が届きまして。公爵閣下がご用意してくださったのです。私がお誘いしたのに、却って申し訳ありませんでした」

 マリアンヌ様は恐縮するように、肩をすぼめる。


「え? アルフレッド様が?」


 私がエミリーに視線を送ると、彼女は肯定するように頭を下げる。


『まぁ、公爵家としては当然なのでしょうが、ちょっと強引すぎますわ……。マリアンヌ様の顔を潰す気かしら、あの眼鏡っ』

 ベアちゃんが納得いかないように、ブツブツ呟いていた。


(アルフレッド様は、何も言ってなかったけど……)


 この間の裏庭の件も、知らぬ間に準備してくれたり、今回も私のために手配してくれたのだろう。


 胸が温かくなるような、少しくすぐったいような不思議な感じがする。


「ふふっ、公爵閣下と上手くいっていらっしゃるご様子で、安心いたしましたわ。心配してましたのよ」

 マリアンヌ様が私の様子を見て微笑む。


「え……、それは、ありがとうございます……」

 きっとベアちゃんの結婚のことを心配していたのだろう。


「私は……ベアトリス様がどんな決断をなされても、……彼女が幸せでいらっしゃることを祈っておりますわ」


(え……? 彼女……?)


 私は驚いてマリアンヌ様の顔を見つめるが、彼女はそれ以上は何も語らず、笑みを浮かべているだけだった。


 ……やはり彼女は、私がベアトリスではないと気付いていたんだ。


 ベアちゃんはマリアンヌ様の言葉を聞いて瞳を潤ませていたが、私の視線に気付くと、ふいっと顔を逸らした。


(ベアちゃん……、マリアンヌ様は本当に素敵な人なんだね……)

 ベアちゃんがマリアンヌ様に惹かれた理由が、少し分かるような気がした。

 

 

 大迫力のオペラを堪能し歌劇場を出ると、辺りは夕焼けに染まっていた。

 私たちは、馬車の近くまで歩いていく。


「本日はありがとうございました。とても楽しかったですわ。またお誘いしてもよろしいでしょうか?」

「はい! 嬉しいです! 是非、お願いします、マリアンヌ様」

「それでは、ベアトリス様。ごきげんよう」


 マリアンヌ様は優雅にスカートを持ち上げ一礼し、身体を翻して去っていく。


(はぁ。楽しかったな……)

 まだオペラの余韻に浸りつつ、馬車に乗り込もうとした時だった。



『――きゃあ、スミレ!! マリアンヌ様がぁぁっ!!』

 


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