表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜  作者: 滝里シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/16

10 蜂蜜はたっぷりでいいですか?(1)

 庭園からお屋敷の裏手へ回ってみると、裏庭の入口に続いている。

 今は使われていない古びたアーチ状の支柱をくぐると、正面の庭園とは雰囲気が一転した。


 一面の芝は刈られてはいるが、手の込んだ花壇ではなく、あちらこちらに白やピンクのマーガレットが自由に咲いている。

 ポツンとテラスに置かれた木製のガーデンテーブルやチェアは、黒く変色していて、もう随分と使われていないようだ。


「ここはあまり使ってないのかな?」

『そうみたいね』

 

 辺りを見回していると、スラリと伸びた大きな木が目に入った。


「あの木は何の木なの?」

 指差すと、ベアちゃんもそちらに目を向ける。


『あぁ、あれはリンデンですわね』

「リンデン?」


『リンデンは、夫婦愛の象徴とされていて、お庭に植える家が多いのですわ』


「へぇ、夫婦愛……」


 私は木に近づき、風に揺れるハート形の葉を見上げる。すると、ふわりとよく知る爽やかな香りが鼻を掠めた。


「あれ? この香り知ってる……。何だっけ?」

 私は香りの元を辿るが、分からなかった。


『どうしましたの? クンクンとして、まるで犬のようですわよ』

「犬……。ん〜、なんか嗅いだことのある匂いがするの。スッとして爽やかで、草かな? ハーブ?」


 匂いに気を取られて、足元の草を踏みつけてしまうと、強烈な香りに包まれた。


「あ! この匂い、ミントだわ!」


 足元の植物の葉をむしって、鼻に近づける。このスッと鼻を抜ける清涼感は、たしかにミントで間違いない。


「すぅ、はぁ〜、すぅ、はぁ〜。いい匂い〜っ」

 

 思いっきり香りを吸い込んでいると、ベアちゃんの顔が引きつる。


『ちょっと、やめなさい。はしたないですわよ!』

「ヘヘっ、はーい。これ、採って持っていってもいいかな?」

『いいんじゃない? ただの雑草でしょ』

「じゃあ、ちょっと採っていこう」


 私はミントの葉を両手いっぱいに採って、裏庭を後にした。



 

 一階の廊下を歩いていると、調理場の方から歩いてきたマークさんと鉢合わせる。


「あ、奥様! 大丈夫でしたか? 先程は申し訳ありませんでした!」

 マークさんが深々と頭を下げた。


「え!? マークさん!? いったい何のことでしょうか?」


 驚いていると、彼は悲痛な表情を浮かべる。


「……旦那様への差し入れのことです。奥様が差し入れなさると聞いて、気合が入り過ぎたようで、旦那様には重すぎる食事だったかもしれません……」


 アルフレッド様が拒絶したことを、セドリックさんから聞いたのだろう。私の勝手な思いつきに巻き込んでしまったのだから、私の方が申し訳なく思う。


「いいえ、私の方がいけないんです。マークさんを巻き込んでしまって、ごめんなさい……」

「奥様……。……ん? 手に持っていらっしゃるのはミントですか?」


 マークさんは私が両手に持っていたミントに気付く。


「そうです。裏庭で採ってきたんですよ。いい匂いなので、部屋に持って行こうかなと思って」


 私の言葉を聞いて、マークさんは少し考える仕草を見せた後、パンッと手を叩いた。


「あっ! それ、少々使っても大丈夫ですかね?」

「え? はい、大丈夫ですが……」


「奥様、ミントティーなど、いかがですか?」

  



 ミントティーを運ぶので部屋で待っていてと言われたが、見学させてもらうために調理場について行った。 


 ポットに千切ったミントをいれ、お湯を注ぐと、辺り一面にミントの清々しい香りが立ち込める。

 お湯を入れると、より一層香りが濃くなった。


「うわぁ、いい匂い!」


「そうでしょう? これで五分ほど蒸らしますよ。しばしお待ちください」

「はい!」


 マークさんは砂時計をひっくり返す。私はその砂が落ちていくのを、今か今かと待ちわびる。


 ……そして、砂時計の砂が落ち切った。

 マークさんが白い磁器のカップに、ミントティーを注ぎ入れてくれる。澄んだ若草色が綺麗だった。


「奥様、どうぞ。お熱いので気をつけて」


 差し出されたカップを受け取り、ふぅと息を吹きかけ、ゆっくり口をつける。


 ミントティーを口に含むと、口から鼻へ爽やかな風が吹き抜けていくかのようだった。


「おいしい! すごくおいしいです!」


 少々癖はあるかもしれないが、心が満たされるような、とても好きな味だった。


「これはこれは、……懐かしい香りですね」


 セドリックさんがミントの香りに誘われたのか、調理場を覗き込んでいた。


 彼にも差し入れのことでご迷惑を掛けたので、謝らないといけない。私はカップを置くと、セドリックさんの元へ向かう。


「セドリックさん、先程は申し訳ございませんでした。私の勝手な思いつきで、ご迷惑をおかけしてしまいました。アルフレッド様にも……本当にごめんなさい……」


 私は深く反省して頭を下げると、頭上から静かな声がした。


「……奥様、頭をお上げください。そのお気持ち嬉しく思います」


 顔を上げると、セドリックさんが優しく微笑んでいた。いつも少し探るような瞳とは違う。


「私の方も謝らないとなりませんね。奥様が旦那様に差し入れをなさるとお聞きした時、きっとただの暇つぶしのようなものだと考えていたのです」


「……セドリックさん……」


「しかし貴女は反省し、私たちに謝罪までした。……貴女を見誤っていたこと、深くお詫び申し上げます」


 セドリックさんは綺麗な所作で、私に頭を下げる。

 私は驚いてしまい、両手をぶんぶんと振った。


「いえ、いえ。私も全然考えなしに行動してしまって……っ。……アルフレッド様にも謝りたいですけど、きっと私の顔なんて見たくないですよね……」


 しょんぼりと肩をすくめていると、セドリックさんが顎に手を当て考える仕草を見せる。


「……奥様……、私に考えがございます」

「……え?」

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ